「これまでなかった映像体験」を映画館で! 映画『1917 命をかけた伝令』
2020年02月13日
富田 薫

今週月曜日、2月10日(日本時間)に発表された「第92回アカデミー賞」での撮影賞、録音賞、視覚効果賞の3部門受賞も当然。「これまでになかった映像体験」が味わえる作品だ。
映画の最大の武器である「カット割り」を全く使わず、最初から最後までひとつながりの映像として見せていく「革命的な演出」…と聞いていたが、編集がなければ説明がつかない場面が数か所あった。実際には「疑似的ワンシーン・ワンカット映像」だと後で知ったが、それでも「自らが戦場の兵士」になった気分になり、主人公が急に振り向いて「お前ならここでどうする?」と話しかけてくるのではないかと錯覚するほどだった。さらには、劇中のネズミでさえ監督の指示を理解しているかのようで…。

ストーリーは、第一次世界大戦に従軍した祖父のアルフレッド・H・メンデスから監督のサム・メンデスが聞いた体験談や戦場で出会った人物のエピソードがミックスされている。
1917年4月のある日、最前線で対峙していた敵のドイツ軍が撤退をはじめ、イギリス軍は夜明けを待って総攻撃する作戦に出る。
しかしこれは罠で、態勢を立て直していた敵軍は待ち伏せをしているのだった。その布陣は航空機による偵察で発覚するが、すでに進軍している1,600名の本隊に知らせなければ大惨事を招いてしまう。
当時の連絡手段は脆弱だったので、ブレイク(ディーン=チャールズ・チャップマン)とスコフィールド(ジョージ・マッケイ)という二人の若い兵士に「命がけの伝令」の指令がくだる…。

戦場を駆け抜ける二人には、これでもかこれでもかの難行苦行が待ち受ける。しかも、見え方としては「ワンシーン・ワンカット」なので「セリフを噛んだらどうする?」とか「ここでつまずいたら、今までの映像は?」なんて緊迫感が続く。さらに、登場人物の周りをカメラが360度ぐるりと回るシーンでは、映り込みをさけるために照明が使えないこともわかってくる。
撮影には手ブレ防止装置付きカメラが使われ、登場人物が歩くのに合わせてカメラマンも歩き、続いて川を渡るときにはボート上でスタンバイしている別のカメラマンにバトンタッチ。対岸についたらまた別のカメラマンが…という段取りだが、そこに敵軍からの銃弾が飛んでくるので、まばたきすらできなくなってしまう。
この撮影風景はyoutubeで見ることができるので、映画館でご覧になった後で「1917(原題)メイキング映像」といったキーワードで探していただきたい。驚愕の「舞台裏」を堪能できるはずだ。

冒頭に書いた「これまでになかった映像体験」は、エンディングでは不思議な感覚に変わる。「(疑似的ではあるが)ワンシーン・ワンカット」の映像は、見えるもの全てが「事実」なので「推測や深読み」といったイマジネーションを誘発されることがない。
しかし、最後の最後に登場する「1枚の写真」は、2時間にわたってノンストップ映像にさらされた目に強烈なインパクトを与える。その「静止画」によって生み出されたイマジネーションによって「いずれの戦争も“勝者と敗者”を生むが、勝った側にも言いようのないむなしさが残る」という教訓を思い知らされるのだった。
※2月14日(金)から、T・ジョイ博多、ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13ほかで全国ロードショー
※この作品の詳しい情報はこちらまで→https://1917-movie.jp/
