映画館で“ビックリ”させられますよ!映画『テスラ エジソンが恐れた天才』
2021年03月22日
富田 薫
この作品のさらに詳しい情報はこちらまで→https://cinerack.jp/tesla/

天才的な発明家で物理学者のニコラ・テスラ(1856~1943)のよくある伝記映画と思ったら大間違い。その演出方法は、人気の出版物「漫画で学ぶ日本の歴史」そのものなのだ!
「テスラ」と言えば、アメリカの実業家イーロン・マスク氏も影響を受け、自ら興した電気自動車関連企業にその名を冠しているが、これまでは発明王トーマス・エジソンに比べて影が薄かった。
しかし、ラジオ・ラジコン・噴水・点火プラグ・電気モーターなどの発明に加え、直流電流を推進するエジソンに交流電流で挑んだ「電流戦争」に勝利するなど「彼がいなければ、世界は100 年遅れていた…」という本作のキャッチコピーが大げさではない人物だとわかる。
となると、彼の実績や人間関係が網羅され、最後に何枚かの字幕によって登場人物のその後の人生が説明される感動のフィナーレが…訪れないのだ!

劇中、モルガン財閥の創始者で、ニューヨークの自宅にエジソンの電灯を点けさせた大富豪J. P. モルガンが登場する。その娘アン・モルガンをU2のボノの娘イヴ・ヒューソンが演じるが、彼女の声で場面説明が行われる。
なるほど、ナレーションも担当するのかと思って見ていると、なんと撮影セットをバックに普段着で現れ「ネットでテスラを検索すると、3,400万件の情報が出てきますが、エジソンはその2倍で…」などと1800年代後半の写真を示しながらデータを語り始める。
さらには、テスラとエジソンとの間に“信じられないこと”が起こるが、そこでは彼女が「これは作り話でして…」などとのたまう。もはや“解説”ではなく“狂言回し”なのだ。

極めつけは、当時は存在しなかった“ある電子機器”をエジソンが扱うシーンが登場。これらは、もはや「江戸時代にもファストフードがあった!」といった表現で興味を引く「漫画で学ぶ日本の歴史」の手法そのもの。
監督のマイケル・アルメレイダの「こういった偉人伝って途中で飽きることがあるでしょ。なので、ときどきショックを与えて退屈しないようにしているんですよ、ワッハッハッ…」といった声が聞こえてくるようだった。

そんな斬新な演出に加え、主役を演じた2人の演技が秀逸。まず、テレビシリーズ『ツインピークス』が印象的だったカイル・マクラクランが、実年エジソンの“良い老けぶり”を表現している。
そして、評価が高いのがテスラ役のイーサン・ホークだ。地球規模の無線送電システムの開発に血眼(ちまなこ)になったかと思えば「宇宙の生命体からのメッセージを受信した」などと主張する“奇人・変人ぶり”がすこぶる上手い。そして、終盤にさしかかると、彼が1980年代の洋楽のヒット曲を突然歌いだす。本来ならば違和感のある展開だが、スクリーンに映し出される歌詞に思わず納得してしまうのも彼の功績だ。
テスラが、100年以上前に「小さな受信機と簡単な機械を置けば砂漠にだって住める」と、まさに今の時代を予言したのに対してエジソンの“銭ゲバ”ぶりが強調され、一瞬にして世界的偉人の印象が変わってしまった点で「ホラーではないけれど怖~い作品」と言えるだろう。
