番組は終了しました。応援していただきありがとうございました。

"アサデス。KBC"でお馴染み、福岡の朝の顔『徳永玲子』が、
土曜のあさに、今だからこそ、
親子で楽しみたい昔ばなしを
ラジオでご紹介・読み聞かせをします!
在宅時間が多くなり、ストレスを抱えたお子さん、
親御さんが一緒に聴いて楽しめる。そんな番組です!

徳永玲子
1965年7月19日生まれ
福岡県太宰府市出身
子供のころからお話が大好きでした。今は子供が大好きです。
お話会で見た子供たちのキラキラした笑顔を胸に
真心こめて朗読します。
大人の方も是非、遊びに来てくださいね。

バックナンバー

強いぞ金太郎! その1

強いぞ金太郎!その①

むかし、むかし、相模の国の足柄山に金太郎と言う、それはそれは強い子供がお母さんと一緒に暮らしていました。
金太郎は生まれた時から力持ちで、重い石臼や俵なんかも簡単に持ち上げることができました。
大好きな相撲は、大人を相手にしても一度も負けません。ついには相撲を取る相手がいなくなってしまいました。

相撲が取れない金太郎はしょうがないので、おかあさんにもらったまさかりを担いで森に出かけました。そしてのしのし歩いていくうちに、大きな木が目の前に現れると、「えいっ、ええいっ」とまさかりを振り回し、木を切り倒しては「どんなもんだい」と、おもしろがっていました。

そんなある日のこと、森の奥のほう、奥のほうへと金太郎が入っていき、まさかりを振り回して木を切っていると、のっしのっしと大きなクマが現れました。
クマは「勝手に森の木を切るおまえはだれだ!」と叫ぶや否や金太郎へとびかかってきました。
「クマのくせに、金太郎を知らないのか!」と、金太郎は叫び、
クマを抱え込むと「やっ~!」と、クマを地べたに投げ倒しました。
どし~~ん、と大きな音を立てて地面にたたきつけられたクマはたまりません。
「うっ、あっ、すみませんでした」と謝り「あなたのような豪傑の家来にしてください」と、金太郎に頼みました。
そんなクマを見たウサギや、サルやシカたちも現れて「金太郎さん、私たちもあなたの家来にしてください」と頼みました。
金太郎は「よしよし」とうなずき、森のみんなを家来にしました。

つづく

強いぞ金太郎! その2

強いぞ金太郎!その②

ある日のこと、相模の国の足柄山の奥深くに住んでいる金太郎は、お母さんに大好きな大きな大きなおにぎりを作ってもらい、森に出かけて、家来たちと相撲を取りました。
ところが、金太郎一人を相手に、うさぎがかかっていっても、サルが飛びついても、鹿が向かって行っても、クマがどしんとぶつかっていっても、金太郎にころころと転がされてしまい、誰も勝てませんでした。
家来たちはみな口をそろえて「まいりました」と降参することしかできませんでした。

金太郎は、うさぎとサルとシカとクマの家来たちを集めると、「負けてかわいそうだから、お母さんに作ってもらったこの大きな大きなおにぎりをみんなで食べよう」と言い、みんなで大きな大きなおにぎりを平らげました。 「大好きなおにぎり、みんなで食べておいしかったな。さあ、帰ろう。」金太郎はそう満足そうに言いました。

その帰り道、金太郎と家来たちは深い谷川に出ました。水が「ごうごう」と流れています。
しかし、金太郎は平気な顔で、まわりを見渡すと岸に生えている大きな杉の木を「えいえい」と押し始めました。
すると・・・メキ、メキメキッ、メキメキッ、どしん!
大きな音を立てて杉の木が倒れ、立派な橋ができました。
金太郎は、まさかりを担ぎなおすと、うさぎとサルとシカとクマの家来たちを率いて、堂々と橋を渡って帰りました。

さるかに合戦

さるかに合戦

むかしむかし、柿の種を拾ったいじわるなサルが、大きなおにぎりを持ったお母さん蟹と出会いました。
「蟹さん、おいらの種とおにぎりを交換しないかい?この種で柿の実がいっぱいできるよ」
子供たちにたくさん柿を食べさせようと思ったおかあさん蟹はおにぎりと交換して、家に帰って柿の種を植えました。

「♪は~やく目を出せ柿の種。でないとはさみでちょんぎるぞ!」
するとどうでしょう。種からニョキッと芽が出てきました。
「♪は~やく実がなれ、柿の木よ。でないとはさみでちょんぎるぞ!」
今度は柿の木にたくさんの実がなりました。

大喜びしていると、さっきのサルがやってきてスルスルッと柿の木に登るとムシャムシャムシャと赤く実った柿を食べてしまいました。
「サルさん、それは子供たちの分ですよ」おかあさん蟹が怒って言うと「うるさいな。これでも食べてろ!」と言って青くて固い柿を投げつけて、おかあさん蟹は大けがをしてしまいました。

子蟹たちはおかあさん蟹に駆け寄り「母さん、しっかりして!僕たちがサルに仕返しをしてやるから!」そう誓って、友達の石臼と蜂と栗に協力してもらうことにして、サルの家に行き、こっそり隠れて帰りを待ちました。

「あ~、寒い寒い!」と外から帰ってきたサルが囲炉裏にあたろうと近づいたところ、隠れていた栗がバチーンと弾けてサルの鼻っ面に体当たり。
「うわ~、熱い!水だ、水だ!」
やけどした鼻を冷やそうと水瓶に顔を突っ込もうとすると蜂がブ~ンと飛び出してサルの目の上を嫌という程刺しました。
「あ~、痛い、痛い!」
慌てて表に飛び出したところにドスーンと屋根から石臼が落ちてきてサルが下敷きになりました。
「参った、参った!ごめんなさい!」
それから改心したサルは二度と意地悪はしなくなりましたとさ。
(おわり)

たにしの長者

たにしの長者

むかし、ある村にたいそうお金持ちの長者と貧乏な夫婦が住んでいました。
夫婦は子を授けて欲しいと毎日、村の水神(すいじん)様(さま)に熱心に祈っていました。そんなふたりにひょこっと生まれたのはたにしの子でした。たにしの子とは言え、水神様の申し子と言うことでそれはそれは大事に育てました。

十年ほどたったある日、夫婦が年貢のお米を長者のもとへ運ぼうとすると「おとうさん、おとうさん、その米を運ぶよ」と声がしました。2人はびっくりしましたが、水神様の申し子だからと、米俵を馬に載せ、その上にたにしの子を乗せて送り出しました。

長者の家では、誰もついていない馬が、シャンシャンと鈴を鳴らし、米を運んできたから大騒動。
「だ、旦那様。たにしが馬を引いて米を持ってきました!」とみんなが騒ぎますが、たにしの子はてきぱきとみんなに指示し、米を蔵へ積み込ませました。
「水神様の申し子とはいえ、こんなに賢いたにしは珍しい」と思った長者は、娘と結婚させたいと思いました。
まず姉むすめに話しましたが、話半分で怒り出しました。
妹は、「お父さんの言うことなら」と、すなおに受け入れたので、とうとう、たにしの子は長者のむこになりました。

ある日、お嫁さんの里へ帰る途中、水神様のお社の前でたにしのお婿さんが休んでいこうと言いだしました。
「日向ぼっこをしている間、お社(やしろ)でお参りしてくるといいよ」そう言われおよめさんがお参りすると、お婿さんが見当たりません。(どこか転がり落ちたのか、カラスがついばんで持っていたのか)
泥まみれになって近くの田んぼを探し回りましたが、目につくのは普通のたにしばかり。
すっかりくたびれ涙顔のお嫁さんの前に、ふと光るようなうつくしいわかものが現れました。
水神様の申し子ながらたにしに封(ふう)じ込められていたのが、およめさんがまごころをこめてお参りしたおかげで、りっぱな姿にかわることができたのです。

こうして、ちいさなたにしから出世したお婿さんは、たにしの長者とよばれ幸せに過ごしました。

桃太郎

桃太郎

むかし、むかし、あるところに、おじいさんとおばあさんが住んでいました。
まいにち、おじいさんは山へしば刈(か)りに、おばあさんは川へ洗濯(せんたく)に行きました。
ある日、おばあさんが、川のそばで、洗濯(せんたく)をしていると、大きな桃(もも)が「ドンブラコ、ドンブラコ」と流(なが)れて来(き)ました。
桃を家へ持ち帰り、おじいさんと一緒に食べようと割ると、なんと中から元気な男の子が「おぎゃー」と出てきました。
男の子は桃から生まれたので桃太郎と名づけられました。

すくすくと育ったある日、桃太郎はおじいさんとおばあさんに向かって、「鬼が島へ鬼征伐に行ってきます!」と元気よく宣言しました。
桃太郎が、きび団子を腰に結わえ、ずんずんと鬼が島の方へ進んでいくと「わんわん」と犬が現れ、「きび団子を一つ下(くだ)さい、お供(とも)しましょう。」と言いました。
犬にきび団子を与え、家来にすると、サルとキジも現れ、きび団子の替りに鬼退治に同行することになりました。
鬼が島には、たくさんの鬼が桃太郎たちを待ち構えていました。

ところが、まずはキジが空から鬼たちに「ビュン」と襲い掛かり、「トトトトトトト」と目をつつくと、今度は犬が「ワワワわん」と鬼たちに飛び掛かり、むこうずねに食いつきます。
猿も散々鬼たちの顔を「キキーッキキキー」とひっかくと、もうたまりません。
「降参しますので命だけは助けてください。宝物は差し上げます」
ついに、鬼たちは泣きながら桃太郎に降参しました。

桃太郎の一行は、船に宝ものを山のように積むと、意気揚々と凱旋しました。

ネズミの嫁入り

ねずみの嫁入り

むかしむかし、裕福(ゆうふく)なネズミの一家がおりまして、年頃(としごろ)の一人娘(ひとりむすめ)のチュー子を結婚させようということになりました。

世界一大事な娘には世界一の婿を見つけないと、ということになり、父さんネズミと母さんネズミは、広い世界を力強く照らしているお日様のところに行って頼みました。
「世界一強いお日様、チュー子を嫁にもらってください」
するとお日様は、
「そりゃありがたいが、雲はわしより強いぞ。わしを隠(かく)してしまうからな」
そこで、父さんネズミと母さんネズミは雲のところに行き、同じように頼んだところ、雲は言いました。
「風はわしより強いぞ。わしを吹き飛ばしてしまうからな」
すぐに風のところへ行き、また同じように頼みました。今度は、
「壁(かべ)はわしより強いぞ。いくら吹いてもわしを跳(は)ね返してしまうからな。」
と言われました。
親ネズミは今度こそはと、壁(かべ)のところへ行き
「本当に世界一強い壁(かべ)さん。娘を嫁にもらってください」と頼むと、壁は言いました。
「そりゃありがたいが、わしより強いのはネズミじゃ。ネズミはわしをかじって穴を開けてしまうからな」
それを聞いて父さんネズミと母さんネズミはハッとしました。
「何と!世界で一番強いのは、わしらネズミじゃったんじゃ!」

そこでチュー子は隣に住む幼馴染(おさななじみ)のネズミのチュー吉と結婚することになり、仲良く幸せにくらしました。
(おわり)

こぶとりじいさん

こぶとりじいさん

むかしむかし、あるところに右のほっぺに大きなこぶのあるおじいさんと、左のほっぺに大きなこぶのあるおじいさんが住んでいました。それらはとても大きなこぶで、畑(はたけ)仕事(しごと)をしていてもブルンブルンと揺れてとても邪魔(じゃま)でした。

ある日のこと、右のほっぺにこぶがあるおじいさんが森の中で雨(あま)宿り(やどり)をしているとウトウトウトウトと眠り込んで真夜中(まよなか)になりました。
「おや?これはなんじゃ?」
目を覚ますと、賑(にぎ)やかなお囃子(はやし)に合わせて目の前でたくさんの鬼たちが輪(わ)になって踊っていました。
♪ピーヒャラ、ピーキャラ、ドンドンドン!♪ピーヒャラ、ピーヒャラ、ドンドンドン!
飲んで歌っての大騒ぎです。
最初は怖がっていたおじいさんでしたが、そのうちに楽しくなって一緒に体をフリフリ、踊りだしてしまいました。
「おお(笑)!おもしろいやつじゃ。明日(あす)もまた踊りに来い。それまではこのこぶを預(あず)かっておくからな・・・エイ!(ブチ!)」
おじいさんの大きなこぶは鬼の親分(おやぶん)からもぎ取られてしまいました。
こぶが無くなったおじいさんは村に帰ってさっそくもう一人のおじいさんに昨夜(さくや)の不思議な話をしました。
「よし、それならわしもこぶをとってもらおう!」
もう一人のおじいさんは真夜中(まよなか)に森に行き、鬼たちが踊っているところに近づいていきました。
「お!待っておったぞ。踊れ踊れ!」
鬼たちは喜んで声をかけましたが、おじいさんは鬼が怖(こわ)くて体が震(ふる)え、どうしてもへっぴり腰(ごし)になってうまく踊れません。
「ええい!へたくそ!約束通りにこれを返してやるから二度と来るな!」
そう言うと鬼は昨日もぎ取ったこぶをもう一人のおじいさんの右のほっぺにペタンとくっつけてしまいました。こうしてほっぺのこぶが二つになってしまったおじいさんは、泣きながら村に帰っていきました。
(おわり)

かちかち山

かちかち山(やま)

むかし、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。
ある日、おじいさんは、いたずらばかりするタヌキを捕(つか)まえてきて、家(いえ)の梁(はり)に吊(つ)り下げてから、自分が帰るまでにタヌキ汁(じる)にするようにおばあさんに伝えて畑(はたけ)に出ていきました。
「もしもしおばあさん。お手伝(てつだ)いをするのでこの縄(なわ)をとってくださいまし。」
タヌキはそう言って縄をほどいてもらうと、おばあさんをバーンと殴(なぐ)り殺(ころ)して逃げてしまいました。家に帰ったおじいさんは悔(くや)しくておいおい泣きました。

そこに裏山(うらやま)からうさぎがやってきたので相談(そうだん)すると、「何てひどいことを!私(わたし)が仇(かたき)を打ちます!」
そう言って、うさぎはさっそくタヌキを栗(くり)拾(ひろ)いに誘い、芝(しば)を背負(せお)わせて山に向かいました。
「カチカチカチ。」
道中(どうちゅう)、うさぎは小石で火を起こし、タヌキの背中(せなか)の芝(しば)にこっそり火をつけました。「アチ!アチ、アチチチチチ!」
ボウボウと芝(しば)が燃え始めてタヌキは泣き叫(さけ)び、背中に大やけどを負ってしまいました。
次の日、うさぎはやけどに効くと嘘(うそ)をついて唐辛子(とうがらし)入りの味噌(みそ)をタヌキの赤くただれた背中に塗(ぬ)り込みました。
「うわ!痛い!痛い!」
転(ころ)げまわって苦しむタヌキを横目(よこめ)にうさぎは帰っていきました。

数日(すうにち)経(た)ってから、うさぎはタヌキを海(うみ)釣(づ)りに誘いました。
うさぎは木の船に乗り、タヌキは土で作った船に乗り込みました。沖(おき)に行こうとうさぎが誘ったのでタヌキもどんどん漕ぎ出しました。
そのうち、だんたんと水がしみてきて、土の船は崩(くず)れ始めました。
「ああ!沈む!助けてくれ!」
うさぎはタヌキが慌(あわ)てる様子をおもしろそうに眺(なが)めて言いました。
「ざまを見ろ。おばあさんを騙(だま)して殺した報(むく)いだ」
タヌキはそのまま海の底に沈(しず)んでしまいました。
(おわり)

舌切りすずめ

舌(した)きりすずめ

むかしむかし、あるところに優しいおじいさんといじわるなおばあさんが住んでいました。
おじいさんは一羽(いちわ)の雀(すずめ)を飼っていたのですが、ある日、おじいさんの留守中(るすちゅう)におばあさんが作ったノリを雀(すずめ)が食べてしまったので、怒ったおばあさんは雀(すずめ)の舌(した)を「チョッキン!」と切ってしまいました。雀(すずめ)は泣きながら藪(やぶ)の中(なか)に飛んで逃げていきました。
家に帰ってそのことを聞いたおじいさんはたいそう雀(すずめ)を心配し、雀(すずめ)を探しに出かけました。

「お~い、雀(すずめ)や。舌切(したき)り雀(すずめ)や。どこにいる?」
すると藪(やぶ)のかげから、チュンチュンと鳴き声がして、大勢(おおぜい)の雀(すずめ)たちが現れました。見ると舌(した)を切られた雀(すずめ)もいます。
「おお、すまなかったな。大丈夫か?」
心配してきてくれたおじいさんをもてなそうと、雀(すずめ)たちはおじいさんを家に招(まね)き入れました。そこで雀(すずめ)踊(おど)りをしたり、おいしいごちそうをたくさん振舞(ふるま)ってくれました。
おじいさんが礼(れい)を言って帰ろうとすると「おじいさん、どちらか好きな方(ほう)を持って帰ってください」と言って大きなつづらと小さなつづらを持ってきました。
おじいさんは小さなつづらをもって家に帰って開けてみると、大判(おおばん)小判(こばん)がザックザックと出てくるではありませんか。それを見たおばあさんは、自分ももらいに行こうと、さっそく藪(やぶ)の中に向かい、雀(すずめ)の家に入るやいなや、「私にもつづらをおくれ」と催(さい)促(そく)しました。雀(すずめ)たちはあきれながらも、大きなつづらと小さなつづらを用意すると、おばあさんは迷(まよ)わず大きなつづらを選んで、そそくさと帰っていきました。

家までの道(みち)すがら、おばあさんは、つづらの中身(なかみ)が気になって仕方がありません。
「どれ、何が入っているのかね。きっと大判小判がザックザック。。。ひえ~~!!」
出てきたのはムカデにハチにヘビに、ろくろ首などの怖い(こわい)のお化けたちでした。おばあさんは一目散(いちもくさん)に家に逃げて帰り、もう欲張(よくば)りで意地悪(いじわる)なことはしないと心に誓(ちか)ったのでした。
(おわり)

一寸法師

一寸法師(いっすんぼうし)

むかし、摂津(せっつ)の国(くに)に子供の無い老夫婦がいました。子供を恵んで下さるよう神(かみ)さまにお祈りしたところ、小さな(ちい)親指(おやゆび)ほどの大きさの男の子を授かり(さずかり)ました。
「一寸法師(いっすんぼうし)」と名付けられたその子はとても大事に育てられたのですが、いくつになっても背が伸びませんでした。

そして一寸法師が十六になったある日、「どうかお暇(ひま)を下さい。京(みやこ)に行って運だめしをしてきます。」と申し出たので「よしよし、行っておいで。」と老夫婦は許しを出しました。
刀の代わりに縫い針(ぬいばり)を、鞘(さや)には麦わらをこしらえ、お椀(わん)の船に乗ってお箸(はし)の櫂(かい)を漕いで(こいで)、三日(みっか)三晩(みばん)で京に着きました。
京では立派な屋敷を見つけ、働かせてもらうことになりました。

ある日のこと、一寸法師は、お屋敷のお姫様のお供(とも)で島に行くことになりました。二人で歩いていると、突然目の前から二匹の鬼がひょっこり飛び出してきました。
「まてまて!このお方(かた)は姫(ひめ)君(ぎみ)だぞ。失礼なまねをすると、この一寸法師が承知しないぞ。」と声を張り上げましたが、鬼から見ると小さな豆粒くらいの姿です。
「何だ。面倒(めんどう)くさい、飲んでしまえ!」
というが早いか、鬼は一寸法師をつまみ上げて、ぱっくり一口(ひとくち)に飲んでしまいました。
しかし、一寸法師は刀を持ったまま、するすると鬼のおなかの中へすべり込み、大暴れするもんだからたまりません。
「アッ、痛い(いたい)!アッ、痛い(いたい)!こりゃたまらん!」
と地(じ)べたをころげ回り、一寸法師を口から吐き出して逃げてしまいました。
鬼の後姿を見送っていると、脇に願いが叶うという「打ち出の小槌(こづち)」が転げ落ち(ころげおち)ちているのを見つけました。
一寸法師は、その小槌(こづち)を振り上げて、「大きくなれ。」 といいながら、一度振ると背(せい)がずんと伸び、二度振るとずずんと伸び、三度めには立派な姿になりました。
そして一寸法師はお姫様をお嫁に迎えて仲良く幸せに暮らしました。

大江山の鬼

大江山の鬼

むかし、むかし、丹波の国の大江山に酒呑(しゅてん)童子(どうじ)という、それはそれは恐ろしい鬼が手下たちと住んでいて、夜な夜な都へ出かけては、子供たちをさらっていました。

天子様は親たちの嘆きを聞き、勇者と名高い源氏(げんじ)の大将、源(みなもと)の頼光(よりみつ)に大江山の鬼退治を命じられました。
頼光は家来らとともに、「大江山の鬼どもを退治させてください」と神様に武運を祈ると、山伏の姿になり、大江山へ向かいました。
道中、頼光らは奥深い山中の小さな山小屋に住む3人のおじいさんに出会いました。
じつは、この3人のおじいさんは武運を祈った神様の化身でした。
「あの鬼は、酒呑童子という名前で、その名の通りお酒が大好きです。このお酒を飲ませて、酔いつぶれたところをやっつけてください」
3人が神様の化身とは知らない頼光らは、お酒をいただくと酒呑童子の御殿へとさらに進みました。
「酒呑童子様へお酒を持ってまいりました」
「おお、そうか。(笑)よし、酒盛りを始めよう」
山伏姿の頼光をすっかり信じた酒呑童子は、頼光が差し出した酒を「(笑)うまいうまい」と何杯も何杯も飲みました。
すると・・・
このお酒、実は鬼が飲むと体がしびれてしまう神様のお酒でしたので、酒呑童子や手下の鬼たちは身動きが取れなくなってしまいました。
頼光らは、酒でつぶれた鬼たちを退治し、さらわれた子たちを連れて都へ凱旋しました。
天子様や都の人たちは大喜びで、頼光らの手柄を長く語り伝えたそうです。

浦島太郎

浦島(うらしま)太郎(たろう)

むかし、丹後(たんご)の国(くに)の浦島(うらしま)太郎(たろう)という漁師(りょうし)が海(うみ)で釣り(つ)をしていると、砂浜(すなはま)で子供達が一匹(いっぴき)の亀(かめ)をいじめているのを見つけました。
「かわいそうなことをするものではない。向こうに行きなさい。」
そういって子供たちを追い払い(おいはらい)、亀(かめ)を海(うみ)に逃(に)がしてあげました。

数日後(すうじつご)、また釣りをしていると、亀(かめ)が近づいてきて「先日は助けてくださってありがとうございます。お礼に龍宮(りゅうぐう)城(じょう)にお連れします。」
と言って、浦島(うらしま)太郎(たろう)を亀(かめ)の背中(せなか)に乗せて、海の中に向かったのでした。
しばらくすると、きれいな砂(すな)の道(みち)の向こうに、珊瑚(さんご)の柱(はしら)や瑠璃(るり)の廊下(ろうか)で飾られたきらきらと光る龍(りゅう)宮城(ぐうじょう)が現れました。
「亀(かめ)の命(いのち)をお助けくださりありがとうございました。どうぞゆっくりお過ごしください。」
と迎えに出てきた美しい乙姫(おとひめ)様(さま)がお礼を言うと、そこから宴(うたげ)が始まりました。
きれいな侍女(じじょ)たちが、鯛(たい)のかしらや、フグや鰹(かつお)などのたくさんのごちそうを運んできて、お酒をふるまい、歌って踊ってくれました。浦島(うらしま)太郎(たろう)はとても居心地(いごこち)が良くなって、そのまま遊(あそ)んで暮らして月日(つきひ)が流れました。

三年目の春、浦島太郎が家に帰りたいと乙姫(おとひめ)様(さま)に申し出たところ「それは残念です。この玉手箱(たまてばこ)には「大事(だいじ)な宝(たから)」がこめてございます。
お別れのしるしにさしあげますが、もしここに帰りたいと思われるなら決(けっ)して開(あ)けないでくださいね」
浦島太郎は、乙姫(おとひめ)様(さま)から玉手箱(たまてばこ)を受け取り、亀(かめ)の背中(せなか)に乗って、龍(りゅう)宮城(ぐうじょう)を去ったのでした。

浜についた浦島太郎は、通りかかった人に自分の家がどこか聞いたところ「はて。。。浦島(うらしま)太郎(たろう)は三百年も前に舟(ふね)にのったまま帰(かえ)ってこなくなったと聞きましたよ」と言われて驚きました。
「そうだ。この箱を開けてみたら何かわかるかもしれない」
浦島(うらしま)太郎(たろう)がうっかり箱を開けたところ、中(なか)から煙(けむり)がむくむくと立ち上り、スウッーっと煙(けむり)が引いたところで、浦島(うらしま)太郎(たろう)の髪(かみ)は真(ま)っ白(しろ)に、顔(かお)は皺(しわ)だらけになって、すっかりおじいさんの姿(すがた)になってしまいました。
そこで、浦島(うらしま)太郎(たろう)は、乙姫(おとひめ)様(さま)が言っていた「大事(だいじ)な宝(たから)」というのが「人(ひと)の寿命(じゅみょう)」だったと分かり、唖然(あぜん)とその場(ば)に立ちすくんだのでした。
(おわり)

花咲かじいさん

花咲かじいさん

むかしあるところに優しいおじいさんと、いじわるなおじいさんが住んでいました。
ある日優しいおじいさんは、可愛がっていた犬が「ココ掘(ほ)れ、ワンワン」と鳴くので畑(はたけ)を掘(ほ)ってみると、大判(おおばん)小判(こばん)がザックザックと出てきました。それを聞いたいじわるなおじいさんは、さっそく犬を借(か)りてきました。
「さあ早く!宝(たから)の場所を教えるんだ!」
そう言ってバチン!と犬をたたきました。「キャイン!」と鳴いた場所を掘ってみるとヘビや毛虫がゾロゾロ。お宝はひとつも見つかりません。怒ったおじいさんは犬を殴(なぐ)って殺してしまいました。
優しいおじいさんはとても悲しんで、犬の骨(ほね)を埋めてそこに木を植(う)えました。

何年(なんねん)か経ち、大きくなった木の切(き)り株(かぶ)で臼(うす)を作り、ある日その臼(うす)でお餅(もち)をペッタンペッタンとついていると、不思議(ふしぎ)なことにお餅(もち)が小判(こばん)に変わりました。
「うひゃ~!犬が小判(こばん)を恵(めぐ)んでくれた!」
おじいさんはたいそう喜びました。それを聞いたいじわるなおじいさんは、優しいおじいさんから無理矢理(むりやり)その臼(うす)を借りてきてお餅(もち)をついてみました。ところが出てくるのは犬の糞(ふん)ばかり。怒ったおじいさんは、臼(うす)を燃やしてしまいました。
優しいおじいさんは悲しんで、臼(うす)が燃えた灰をもらって帰りました。そして枯(か)れた木にその灰をかけるとどうでしょう。桜が咲き始めあっという間に満開になりました。

「花咲(はなさ)かじじいがいる」という評判(ひょうばん)は殿様(とのさま)の耳にも届き、おじいさんは殿様(とのさま)の前で腕前(うでまえ)を披露(ひろう)することになりました。
「それでは枯(か)れ木に花を咲かせましょう」
そう言って灰を撒(ま)いてはどんどん花を咲かせるおじいさんを見て殿様(とのさま)はとても喜び、たくさんの褒美(ほうび)を与えました。
それを見ていたいじわるなおじいさんも負けじと灰を撒(ま)きましたが、花が咲くどころか、灰が殿様(とのさま)の目に入ってしまいました。
「ニセの花咲(はなさ)かじじい!恥(はじ)を知(し)れ!」
殿様(とのさま)の怒りを買ったいじわるなおじいさんは捕らえられ牢屋に入れられてしまいました。
(おわり)

松山鏡

松山鏡

むかし、越後の国の松の山という田舎の村にお父さんとお母さん、そしてむすめの3人が暮らしていました。お父さんが旅に出て不在の間に、お母さんが病にかかり寝込んでしまいました。娘は懸命に看病しましたが、お母さんの病はどんどんひどくなってしまいます。ついには、枕元に娘を呼び、お父さんからもらった鏡を託すとそのまま亡くなってしまいました。
その後、お父さんは勧める人もあり、まま母を迎えました。

お母さんの3回忌にお父さんがお堂にお参りに行ったところ、娘がさっと何かを隠しました。「これは、むすめがまま母の像を作り呪っているに違いない」と思ったお父さんは、「隠したものを出しなさい」とむすめを叱りました。するとむすめは、「呪いをかけようと像を作ったのではありません。これは亡くなったお母さんの形見の鏡です。亡くなるときに、寂しくなったらこの鏡を見なさいと言っていただいたのです。」といい、鏡に映る自分の姿を見ては「若返ったお母さんの姿が見える」と、亡きお母さんをしのんでは、また涙をはらはらと流していたのでした。

亡き母を恋しがる娘の心を不憫に思い、ついには、亡くなったお母さんの魂があの世から帰ってきます。
しかし、地獄の鬼も現れて、お母さんを鏡の前に連れて行き、「これまで犯した罪が鏡に映るから見てみろ!」と怒鳴りました。ところが鏡に映ったのは金色に輝く菩薩さまの姿でした。娘の親孝行な気持ちに胸を打たれた地獄の鬼は、お母さんの魂を地獄に連れていくことなく、地獄へ帰っていきました。

(おわり)

田原の藤太のムカデ退治

田原の藤太のムカデ退治

むかし、近江の国に田原(たわら)の藤(とう)太(た)という勇者が住んでいました。
ある日、藤太が琵琶湖近くの橋を渡ろうとすると、橋の上に大蛇(だいじゃ)がとぐろを巻いて寝ていました。しかし、藤太は少しも恐れず、大蛇の背中をずしずしと踏んで渡りました。
すると「もしもし、すみません」と藤太の背中から呼ぶ声がしました。おまえは誰だ、と藤太が振り返ると、「私は長年この湖に住む龍王です。近くの山に大ムカデが住んでいて、私の子たちをさらっていくのです。」と人の姿になった大蛇が語りました。そして「このままだと私や子供たち、湖に住む生き物すべてが滅んでしまいます。大蛇の姿の私を恐れない勇者のあなたにムカデ退治をお願いできないでしょうか」と藤太に頭を下げました。

藤太はムカデ退治を引き受けました。
その夜、ムカデを待ち構える藤太の周りが闇に包まれると、向こうの空が怪しく赤くなり、山の端にずらっと松明(たいまつ)のような火が数えきれないくらい現れました。大ムカデが現れたのです。藤太は1本目の矢をギューッと絞ると、大ムカデへひゅっと放ちました!しかし、カキーンと音がして矢が跳ね返りました。そして、2本目もダメでした。残る矢は1本だけ。
その時、藤太はムカデの苦手なものをふと思い出しました。そして、鋭くとがったやじりを口に入れ唾を漬けると大ムカデへ放ちました!ばしっ。見事、矢は大ムカデの眉間を貫いていました。大ムカデは人間の唾をきらっているのでした。

あくる朝、湖には眉間を射抜かれた大ムカデがぷかぷかと浮いていました。大ムカデを退治した藤太の勇名はますます高まりました。
(おわり)

文福茶釜

文福茶釜

むかしむかし、上野(こうづけ)の国の茂(も)林寺(りんじ)と言うお寺の和尚さんが立派な茶がまを手に入れました。
ある夜(よ)、和尚さんが居間で居眠りしていると、飾ってある茶がまがむくむくと動き出し、ひょこっと頭が、ぽんと太いしっぽが、そして最後に4本の足が出てくると部屋の中を歩き始めました。歩く茶がまを見かけて小僧さんが騒ぐと、その声で和尚さんは目を覚ましました。「茶がまが歩いていたんです」と小僧さんが口々に騒ぎますが、和尚さんが見たときには、茶がまは元の茶がまに戻っていました。

また、ある日、和尚さんが茶をたてようと茶がまをいろりにかけました。
ジリリ、ジリリリ
しばらくしてお尻が熱くなって来ると茶がまは「熱い~」と叫んでいろりから飛び出しました。「うわ~~茶がまが化けたぞ~」と和尚さんが騒ぐと小僧さんがほうきをもって飛び込んできました。ところが、いつの間にか茶がまはまた、元の姿に戻り、布団の上にちょこんと座っていました。気持ち悪くなった和尚さんは茶がまを古道具屋に売ってしまいました。

その夜(よ)、「もしもし、もしもし」と茶がまから声(こえ)がしました。古道具屋の主(あるじ)が応えると、「わたしは文福茶がまといって、たぬきの化けた茶がまです。しばらくわたしをうちに置(お)いて下(くだ)さい。お礼(れい)はします」と主に頼みました。茶がまのお礼とは、見世物小屋で芸を見せることでした。

「さあ、さあ、大評判(おおひょうばん)の文福(ぶんぶく)茶(ちゃ)がまに毛(け)が生(は)えて、手足(てあし)が生(は)えて、綱渡(つなわた)りの軽(かる)わざから、浮(う)かれ踊(おど)りのふしぎな芸当(げいとう)、評判(ひょうばん)じゃ、評判(ひょうばん)じゃ。」との口上で茶がまが芸を見せる見世物は大当たり。古道具屋の主はたちまち大金持ちになりました。

(おわり)

牛若と弁慶その①

牛若と弁慶その①

むかし源氏(げんじ)と平家(へいけ)が争って、勝ったり負けたりしていた時のことです。源氏(げんじ)の大将義(よし)朝(とも)には3人の小さな子供がおりました。一番下の牛(うし)若(わか)が生まれた時、源氏(げんじ)が負けそうになり、大将(たいしょう)で義(よし)朝(とも)が殺されてしまいました。義(よし)朝(とも)の奥方(おくがた)は、小さな子供たちの身を案(あん)じ、すぐに平家(へいけ)の大将(たいしょう)清(きよ)盛(もり)のところに行き「清(きよ)盛(もり)様(さま)、お願いです。子供たちはまだこんなに小さく復讐(ふくしゅう)などしようはずもありません。どうか命だけはお助け下さい」と必死になってお願いしました。
小さな赤子(あかご)を抱えて懇願(こんがん)する奥方(おくがた)の姿に清(きよ)盛(もり)もさすがに不憫(ふびん)に思い、「分かった。では、子供たちを寺に預けて僧侶(そうりょ)にさせるなら許してやろう。」「ありがとうございます!ありがとうございます!」奥方(おくがた)は何度も頭を地面(じめん)にこすりつけ、礼を言って、子供たちを方々(ほうぼう)の寺に預けたのでした。

時が経ち、牛(うし)若(わか)が物(もの)が分かるようになると、牛(うし)若(わか)は、父が殺されたことを知り、父の仇(かたき)を打ちに行くことを決意(けつい)しました。「こんなところで坊主(ぼうず)になっている暇(ひま)は無い。剣術に励み強くなって、平家(へいけ)の大将(たいしょう)の首(くび)を取ってやる!」それから毎晩、皆(みな)が寝静(ねしず)まってから裏山(うらやま)に行き剣術の練習に励(はげ)みました。

ある晩、いつものように裏山に行くと、やたら鼻(はな)が馬鹿でかい羽(は)団扇(うちわ)を持った大男(おおおとこ)が現れました。「お前は誰だ!」すると大男(おおおとこ)は「わしはこの山に住む天狗(てんぐ)じゃ。お前の剣術(けんじゅつ)は見てられん。わしが手ほどきをしてあげよう」この日から特訓が始まりました。牛(うし)若(わか)が「バサッ」と素早く刀を振り下ろすと、天狗(てんぐ)は難(なん)なく「ヒラリ」と羽(は)団扇(うちわ)を振って避(よ)けてしまいます。
「おのれ~!見ておれ!」牛(うし)若(わか)は特訓を重ねるとだんだんと天狗(てんぐ)の動きの先を読めるようになり、牛(うし)若(わか)の剣術(けんじゅつ)の腕(うで)はみるみる上達していきました。

そんなある日、牛(うし)若(わか)は村人(むらびと)からある噂を耳にしました。「牛(うし)若(わか)さん、京都の比叡山(ひえいざん)ってところに弁慶(べんけい)というとても強~い坊(ぼう)さんがいて、五条(ごじょう)の橋を渡る人から刀という刀を力づくで奪ってるそうな。みんなとても怖がっているんだと。」「ふん、それはおもしろい。天狗(てんぐ)でも鬼(おに)でもそんな奴、やっつけて家来(けらい)にしてくれる!」牛(うし)若(わか)はそう言って、弁慶(べんけい)をこらしめるため、ひとり京都に向かったのでした。

(つづく)

牛若と弁慶その②

牛若と弁慶その②

むかし京都の比叡山(ひえいざん)に、武蔵坊(むさしぼう)弁慶(べんけい)という強いお坊さんがおりました。生まれつきたいそう気の荒い上に、とてつもなく力が強いので、村人から怖がられていました。
ある時弁慶は「宝は何でも千という数を揃(そろ)えて持つものだそうだ。奥州(おうしゅう)の秀衡(ひでひら)は馬を千頭と鎧(よろい)を千りょう揃(そろ)えて持っている。おれも刀を千本(せんぼん)揃(そろ)えてみようではないか!」こう考えて、弁慶は黒い鎧(よろい)の上に墨(すみ)ぞめの衣を着て、白い頭巾(ずきん)をかぶり、なぎがたを杖について、毎晩、五条の橋のたもとに立っていました。そして、良さそうな刀を腰にさした人が来ると飛び掛かり、なぎなたでバサッと一撃(いちげき)して刀を奪い取っていくのでした。
ある時弁慶が取ってきた刀を数えると、ちょうどあと1本で千本でした。「おお!最後に一番いい刀を取ってやろう!」その晩、弁慶が五条の橋のたもとに立っていると、一人の小柄できれいな若者が現れました。弁慶の噂(うわさ)を聞きつけ、京都にやってきた牛(うし)若(わか)です。牛(うし)若(わか)は、満月(まんげつ)の下(もと)、腹巻きをして、その上に白い直垂(ひたたれ)を着て黄金(こがね)づくりの刀を腰に備(そな)え、笛を吹きながらゆっくりと近づいてきました。
初めは子供かと見過ごしそうになった弁慶でしたが、牛若の腰に光る刀を見つけると道に立ちはだかり「その太刀(たち)をわたせ!」と言いました。「やってもいいが、僕はただではやられないよ」牛若はこう言ってキッと弁慶をにらみました。弁慶はいらだって「ならば力づくで取ってやる!」そういってなぎなたで切りかかりました。すると牛若はヒラリと飛びかわし、ひょいと欄干(らんかん)の上に飛びあがると、持っていた扇(おうぎ)を弁慶の眉間(みけん)めがけて打ち付けました。「あいたたた・・!!」弁慶が面食(めんく)らった間に、牛若は弁慶の後ろに回り突き飛ばし、そのまま弁慶に馬乗りになり言いました。「どうだ、まいったか!降参(こうさん)しておれの家来になるか!」
弁慶は全く動けなくなり、「ハイ、降参(こうさん)します。あなたはとてもお強い。何者ですか?」「おれは源氏(げんじ)の若君(わかぎみ)、牛(うし)若(わか)だ!」「どおりでただの人ではないと思いました。あなたのような立派なご主人を持てば私も本望(ほんもう)です」こうして牛(うし)若(わか)と弁慶は固い契り(ちぎり)を交わしました。そして、牛(うし)若(わか)が元服(げんぷく)して義経(よしつね)と名乗った後も一緒に戦に出て平家(へいけ)滅ぼしに尽くしました。その後、義経(よしつね)の兄、頼(より)朝(とも)と義経(よしつね)の仲が悪くなり、最後追い詰められた時、弁慶は義経(よしつね)のために討ち死にしました。体中(からだじゅう)に矢を受けながら、じっと立って敵をにらみつけたまま死んだので、「弁慶の立ち往生(おうじょう)」といわれて今に伝えられています。

(おしまい)

錫の兵隊

錫の兵隊

あるとき25人のおもちゃの錫(すず)の兵隊がいました。最後に生まれた錫(すず)の兵隊は錫(すず)が足りず片足だけでした。
机の上には錫(すず)の兵隊をはじめ、おもちゃたちが山のようにいましたが、中でも錫の兵隊は、お城の前でかわいらしいポーズをとっている踊り子の娘を特にお気に入りでした。
そんなある日、びっくり箱の鬼のいたずらで錫(すず)の兵隊は窓から外へころころと落っこちてしまいました。さらにざあざあと雨が降ってきました。やがて雨が上がると街の子供たちが錫(すず)の兵隊を見つけました。子供たちは「船に乗せてやろう」と言い、紙の船に乗せて溝へ流しました。雨上がりの溝の中は濁流(だくりゅう)で上に下に激(はげ)しく揺れます。やがて川へ出ると、船はたちまち沈んでしまいました。錫(すず)の兵隊は、踊り子の娘のことを思いながら川に飲まれていきました。すると、今度は大きな魚がぱくっと丸のみにしてしまいました。

どれくらい真っ暗な魚のお腹の中にいたでしょうか。錫(すず)の兵隊の目の前が突然明るくなりました。「錫(すず)の兵隊がこんなところに!」元の家の料理番が居なくなったはずの錫(すず)の兵隊を見つけ、びっくりしました。錫(すず)の兵隊が元の机の上に戻ってくるとおもちゃの仲間たちがやんやとその勇気(ゆうき)を誉(ほ)め、踊り子の娘もその様子を微笑(ほほえ)ましく眺(なが)めていました。
ところが、家の子供が錫(すず)の兵隊をつかむと暖炉(だんろ)の中へとポイっと放り込んでしまいました。錫(すず)の兵隊は赤々とした炎の中でじっと立って踊り子の娘を見つめながら、体がだんだん溶(と)けていくような気がしました。
その時でした。がたん、と戸が開き、風がひゅっと吹いて、踊り子の娘が錫(すず)の兵隊の隣にふわりと飛んできました。しかし、踊り子の娘は紙でできていたので一瞬(いっしゅん)にしてぱっと燃(も)え上がりました。火が消えた後、暖炉(だんろ)を見てみると、ハートの形に溶けた錫(すず)の塊(かたまり)が残っていました。

(おしまい)

みにくいアヒルの子

みにくいアヒルの子

昔、ある晴れた夏の日のこと。お母さんアヒルが巣の中に座って、卵をかえそうとしていました。やがて……。「ピー、ピー、ピー」卵のカラが次々に割れ、産まれた子どもたちが可愛い声で鳴きだしました。お母さんアヒルは満足そうに子供たちをみまわしますが、あら不思議。最後に生まれた子どもだけ、ほかの子たちとは色も大きさも違うではありませんか。
きょうだいや仲間たち、近くに住むニワトリたちまでもが、バカにしたり、いじわるをするようになりました。「なんて大きいんだ」「なんてみにくいんだ!」とうとうお母さんアヒルまで「おまえがどっか遠くに行ってくれたらいいのにねぇ」とため息をつくようになりました。悲しくなったアヒルの子は、家を飛び出してしまいました。

アヒルの子は、あちらこちらをさまよいますが、みにくい姿のせいで、どこに行っても相手にされません。野(の)鴨(がも)や渡り鳥、犬や猫…誰も愛してはくれません。アヒルの子は辛く悲しい気持ちになりました。「あぁ、僕がみっともないからなんだな」アヒルの子は冬の厳しーい寒さを、沼のしげみの中で、ひとりぼっちでじっと耐えしのぎました。やがて雪が降り、その雪が解け…時が過ぎ、季節は春になりました。
アヒルの子は、なぜだか急に翼を動かしたくなりました。パサッ、パサパサッ。すると、体がすうっと持ち上がり空高く飛んだアヒルの子は、ある大きな庭の中に降り立ちました。池にはたくさんの白鳥が泳いでいます。子供のころからずっと白鳥の美しさに憧れていたアヒルの子は、勇気を出して白鳥の近くに羽ばたいていきました。
「僕はどこに行っても嫌われる。それなら白鳥さんが、いっそ僕を殺してください」と思ったその時です。アヒルの子は、水面(みなも)に映る自分の姿を見て驚きました。そこには美しい真っ白な白鳥の姿が映っていたからです。そう、アヒルの子は、実は白鳥だったのです。「僕がこんな幸せになれるなんて、思いもしなかった!」アヒルの子は、いままで受けてきた、多くの苦しみや、悲しみのことを思いだして、いまの幸福(しあわせ)を心から嬉しく思いました。

(おしまい)

猫の草紙

猫の草紙

昔、むかーし。京の町ではネズミが暴れて、困ったことになっていました。チューチューチュー、ドタバタバタ。天井裏を走り回ったり、食べ物を盗んだり、タンスをかじったりと悪さばかり。そこでお上は「家の中で飼っている猫の紐(ひも)を外して、放し飼いにしなさい」と京の町に御触れを出したのです。

人々は一斉に猫の紐(ひも)を外しました。ニャーニャーニャー!たくさんの猫が、大喜びで街を自由に駆け回ります。ネズミたちは、鋭い爪で攻撃してくる猫のことが、怖くってたまりません。そこで、代表のネズミが、お寺の和尚さんにお願いに行くことにしました。「和尚様、お願いがあります」部屋に忍び込んだネズミが囁きました。「ネズミか。これは驚いた」「このままではネズミは一匹残らず食われてしまいます。もう一度猫に紐(ひも)をつけるよう、和尚様からお上に話してください」「たしかに少しかわいそうだが…。でも、お前たちにも悪いところがある。自業自得というものだよ」ネズミはすごすごと帰っていきました。

翌日。猫も、和尚さんに会いに行きました。「ネズミの奴らは、泥棒と同じです。ずっと悪さばかりしてきたんですよ!」「うんうん、お願いは聞けないと言って、ネズミは帰した。安心なさい。」その返事に、猫たちは大喜び。手を繋いで「猫じゃ猫じゃ」と踊りを踊りました。

それでもやっぱり猫とネズミは憎みあい、ついに生き残りをかけて戦うことになりました。互いに飛びかかろうとした、その瞬間!和尚様が現れて、まず猫に話しかけました。「ネズミには二度と悪さをさせない。だから、罪のないネズミには、もう意地悪をしないでやってくれないか」「はい、それならば、なにもしません」次はネズミに言います。「二度と悪さをしないと約束するか」「はい、もう決して悪さはしません」和尚様はニコニコして話します。「ネズミは猫にはかなわないし、猫は犬にはかなわない。上には上の強いものがある。ここでどちらが勝ったところで、世の中に怖いものがなくなるわけではないし、世の中が自由になるものでもない。仲間同士で仲良く暮らすのが一番なのだよ」猫とネズミは和尚さんにお辞儀をして、それぞれ帰っていきましたとさ。

(おしまい)

夢占い

夢占い

むかし、摂津国(せっつのくに)に、一匹の牡(おす)の鹿が住んでいました。この牡鹿(おすじか)には仲のいい牝(めす)の鹿が二匹いて、一匹の牝鹿(めすじか)は摂津国(せっつのくに)に。もう一匹の牝鹿(めすじか)は、海をへだてた淡路国(あわじのくに)に住んでいました。二匹の牝鹿(めすじか)の間を行ったり来きたりして過ごしていた牡鹿(おすじか)ですが、本当は淡路国(あわじのくに)の牝鹿(めすじか)のほうが、より好きでした。ですから、淡路国(あわじのくに)で遊ぶことが多くなっていたのです。
摂津国(せっつのくに)の牝鹿(めすじか)は、牡鹿(おすじか)とたくさん会えないことが寂しくて、淡路国(あわじのくに)の牝鹿(めすじか)をそっと心の中で恨んだりしていました。

ある日、珍しく摂津国(せっつのくに)の牝鹿(めすじか)の元で一日を過ごした牡鹿(おすじか)。翌日の朝、目覚めると、心配そうな顔で溜息をひとつつきました。それを見た牝鹿(めすじか)は「どうしたんですか、あなた。ひどく顔色が悪いようですが」と声をかけます。「いいや、なんでもないよ」「なにかご心配なことがあるのでしょう。どうぞ話してくださいな」「実は昨日嫌な夢を見た。野山(のやま)を歩いていると、いつの間にか頭の上に草が生え、背中には雪が積もった。気持が悪くて、雪を払おうとした時に、夢から覚めたんだよ」
牝鹿(めすじか)は「これはちょうどいい機会だ」と考えました。でたらめな夢占いで牡鹿(おすじか)を怖がらせて、淡路国(あわじのくに)に行くことを諦(あきら)めさせようとしたのです。

「夢占いでは、頭に草が生えるのは、狩人の矢が首に当たる知らせ。背中に雪が積もるのは、殺されて塩漬けにされる知らせです。あぁ、なんて不吉な。あなた、今日はどこにも行かず、どうかここでゆっくりしてくださいませ」怖くなった牡鹿(おすじか)は、ぐずぐずと摂津で時間を過ごしていましたが、夕方になるとやっぱりどうしても淡路国(あわじのくに)へ遊びに行きたくてなってしまいました。牝鹿(めすじか)が止めるのも聞かずに、摂津国(せっつのくに)を飛び出してしまったのです。

すると……なんていうことでしょう。夢占い通(どお)りのことが起こってしまったのです。淡路国(あわじのくに)に向かって海を渡る途中で、牡鹿(おすじか)は狩人に見つかり、矢で首を射られて殺されてしまいました。そして雪のような真っ白な塩の中に体を漬けられ、食べられてしまったのです。
うっかり冗談に占いなんかをすると、それが本当になってしまうことがあるそうです。摂津の牝鹿(めすじか)がそれを知っていたら、夢占いなどしなかったことでしょうね。

(おしまい)

山姥 その1

山姥 その1

昔、あるところに馬を引いて荷物を運ぶ、馬子(まご)の馬(うま)吉(きち)と呼ばれる男の子がいました。
冬の寒い日。大根をたくさん馬に載せて、町に売りに行った帰り道のことです。山に入ると日が落ちて、冷たい風がざわざわと吹きだしました。その瞬間、後ろから「馬吉、馬吉」と呼ぶ声が。馬吉は襟元に冷たい水をかけられた気がしました。この山には山姥(やまんば)が出る……その話を思い出したのです。
馬吉は前に進もうとしますが、思うように動けません。するとまた「馬吉」と呼ぶ声。馬吉が振り返るとそこには……ぼろぼろのネズミ色の着物を着て、なんともいえず嫌な顔をした痩せこけたおばあさんが立っていました。
「その大根をおくれ」大根を渡すと、おばあさんは、耳まで裂けているような真っ赤な口を開けて、むしゃむしゃと食べ始めました。噛むたびに真っ赤な髪の毛が逆立ちます。間違いなく山姥です。あっという間に、百本の大根を食べてしまった山姥。次は「馬の脚を1本おくれ」と言います。馬吉は馬を置いて、必死で走りだしました。
でもいくら走っても、なぜか里には降りられません。途方に暮れた頃、ようやく谷の中に1軒の家を見つけました。ほこりだらけで今は使われていないようです。「夜が明けるまでここに隠れよう」。二階に隠れましたが、どきどきして眠れませんでした。

夜もふけた頃、家の扉がすーっと開きました。馬吉が下をのぞくと、月あかりに照らされたそこには山姥の姿が。「大根も馬もうまかった。だが、馬吉に逃げられたのだけが残念だ」とつぶやいています。「今度こそおらも食べられてしまう」と馬吉は震えがとまりません。ところが山姥は「寒いから今日はお釜の中で眠るとしよう」と言って、大きなお釜の中に入り、いびきをかいて眠ってしまったのです。
馬吉はそーっと階段を下り、庭に出て大きな石を運び、それをお釜の蓋の上に置いておもしにしました。それから落ちている木の枝をかき集め、小さく折ってお釜の下に入れて火をつけたのです。パチパチパチ、火が燃え盛ると中にいた山姥は「アチアチッ」と言って飛び上がろうとしました。けれども、石が重くて蓋が外れません。とうとうお釜が上まで真赤に焼けました。山姥の体は火に包まれて、やがて骨ばかりになってしまいました。

(おしまい)

山姥 その2

山姥 その2

昔ある村に、可愛い女の子が住んでいました。ある日、お父さんとお母さんは畑仕事に出かけることに。「誰が来ても、戸をあけてはならないよ」と女の子に言って、鍵をかけて出て行きました。女の子がいろりにあたっていると、外の戸をトントンと叩く音がします。
「だあれ」
「私だよ。あけておくれ。」
「あけてはいけないって、お父さんとお母さんに言われてるの」
「そうかい。なら、蹴破ってやるぞ」
 大きな音がするので、びっくりした女の子は戸を開けてしまいました。その瞬間、恐ろしい顔をした山姥(やまんば)がぬっと入ってきたのです。
「お腹がすいた」女の子が震えながら、ご飯が入ったお鉢を渡すと、山姥は手づかみでご飯を食べ、たくあんを丸ごとかじり始めました。その間に女の子は、そうっとうちから出て、山へ逃げ出しました。

気づいた山姥は怒り狂い「おう、おう」と叫んで追っかけてきます。女の子は、通りがかったおじいさんに「山姥が追ってくる。助けて」とお願いをしました。おじいさんは背中に背負った木の束の中に女の子を隠します。追いついた山姥は、木の束にむしゃぶりつきましたが、脚がすべって谷底に落ちて行きました。女の子はその隙に走り出し、今度は沼の側の木に上りました。「おう、おう」と言いながら追いついた山姥。沼の水面(みなも)に映った女の子を見て沼に飛び込んだので、女の子はまた走り出し、一軒の小屋を見つけました。小屋の中にいた若いお姉さんに事情を話し、石でできた箱の中に隠してもらいました。

そこへ飛び込んできた山姥。
「女の子がここに来ただろう」
「知らないよ」
「そうか、まあいい。走って疲れたから、ひと眠りしようかね」
「木の箱と、石の箱、どちらで寝ますか」
「石は冷たいから、木にしよう」木の箱に入った山姥が寝た後(あと)、お姉さんは箱に鍵をかけ、「もう大丈夫」と女の子を石の箱から出してくれました。それからお姉さんは太い錐(きり)をいろりで焼き、真っ赤にしてから、木の箱に突っ込み穴をあけました。その穴から煮えたぎったお湯をざあざあと注いだのです。「熱い、熱い」と叫びながら、山姥はどろどろに煮え崩れて、死んでしまいました。

お姉さんは、女の子と一緒にうちへ帰りました。実はこの人も山姥にさらわれて、こんな所に来ていたのでした。

(おしまい)

星の銀貨

星の銀貨

むか~し、むかし、外国のある村に、小さな女の子が住んでいました。この子には、お父さんもお母さんもいませんでした。大変貧乏な暮らしをしていて、ついには住んでいた部屋から追い出されてしまいました。着ている服のほかには、パンをひとかけら手に持っているだけ。このパンは、さっき情け深い人が、めぐんでくれたものでした。

この子は、心の素直な、信心の厚い子でありました。それでも、こんなに風に世の中からまるで見捨てられてしまっているのです。行き場を失った女の子は、優しい神様のお力にだけすがって、ひとりぼっちで野原を歩いていました。すると、そこへみすぼらしい身なりをした男の人が出てきて、こう言います。「なにか食べるものをおくれ。お腹がすいてたまらないよ」女の子は、持っていたパンを、ひとかけ残らず男にあげて「どうぞ神さまのお恵みがありますように」と祈りました。そして、また歩きだします。

今度は、子どもがひとり泣きながらやって来て、「頭が寒くって、凍りそうなの。ねえ、なにか頭に被るものをちょうだい」と言いました。女の子は、被っていたずきんを脱いで、子どもに渡します。それからまた歩き出すと、今度出てきたのは、着物を一枚も着ないで震えている子どもでした。女の子は自分の上着を脱いで着せてやりました。

それからまた少し行くと、「そのスカートが欲しい」という子どもが出てきました。女の子は自分のスカートを脱いで、子どもにあげました。そして暗くなった頃。女の子はある森に辿り着つきました。森の中を行くと、また、もうひとりこどもが出て来て、今度は肌着をねだります。女の子は、「もう真っ暗だし誰にも見られやしないでしょう。いいわ、肌着も脱いであげることにしましょう」と、とうとう肌着も脱いであげてしまいました。

きれいさっぱりなくなったそのとき……パラパラパラ、高い空の上から、突然お星さまがたくさん落ちてきたのです。それは、チカチカと白銀色(しろがね)に輝く銀貨でした。さっき肌着を脱いであげてしまったはずが、不思議なことに、女の子はいつのまにか肌触りのいい、まっさらな麻の肌着を着ていました。銀貨を拾い集めた女の子は、そのお金で一生豊かに暮らしました。

(おしまい)

白い鳥~天女の羽衣~

白い鳥~天女の羽衣~

昔、近江国(おうみのくに)に、伊香刀美(いかとみ)という狩人が住んでいました。ある朝、山へ出かけた伊香刀美(いかとみ)は、大きな雲の中から白いものがふわりといくつも湖に落ちて行くのを見つけました。白い翼を持った白鳥たちです。
「なんて綺麗なんだ」伊香刀美(いかとみ)が湖の近くまで行くと、そこには、楽しそうに泳ぐ八人の乙女の姿が。近くの松の木の枝には、真っ白な美しい着物が八枚掛かっています。

「あれは天女で、この着物は昔からいう天の羽衣というものに違いない。」伊香刀美(いかとみ)は一枚を脇に抱え、木の裏に隠れました。やがて湖から上がってきた乙女たちは羽衣を身にまとうと、白鳥の姿になり、ひとり、またひとりと空へ舞い上がっていきます。最後にやってきた八番目の乙女は羽衣がないのに気が付いて「天に帰れないわ」としくしくと泣きだしました。
「あなたの羽衣はここにあります」と木の陰から出た伊香刀美(いかとみ)が羽衣を差しだすと「まぁ。ありがとうございます」と乙女は大喜び。けれども、伊香刀美(いかとみ)は衣を後ろに隠し「私はあなたを好きになってしまった。私のところにきて一緒に暮らしましょう」と言って歩きだしてしまいます。乙女はついていくしかありません。家に戻った伊香刀美(いかとみ)が羽衣を隠したので、乙女は仕方なく伊香刀美(いかとみ)のお母さんと3人で暮らすこととなりました。

それから3年が経ち、人間の暮らしに馴れた乙女は、お母さんと色んな話をするようになっていました。ある日、伊香刀美(いかとみ)が狩りに出かけた後、お母さんが「おまえは今も天に帰りたいだろうね」と乙女に尋ねました。「いいえ。人間の暮らしもいいものだと思っています。でも羽衣が痛んでいないかが心配で…。ひとめ見せてくれませんか」「駄目だよ。羽衣を見せたら、天に帰りたくなるだろう」「気になるだけなのです。ひと目だけでいいので」
お母さんは少しならいいかと考えて、隠してあった箱を持ってきて蓋を開けると……羽衣は美しいままでそこにありました。
「どこか痛んではないかしら」と言って、乙女は羽衣を手に取り、さっと身にまといます。その瞬間、体がふんわりと舞い上がり、白い鳥となって空へと昇っていってしまいました。狩りから戻った伊香刀美(いかとみ)はたいそう悔しがりましたが、もうどうしようもありませんでした。

(おしまい)

赤ずきんちゃん

赤ずきんちゃん

昔、あるところにいつも赤いずきんを被った「赤ずきんちゃん」と呼ばれる小さな女の子がいました。ある日、森の中に住む病気のおばあさんのお見舞いに行くことに。「途中で寄り道をしてはダメよ」とお母さんに言われて、赤ずきんちゃんは約束の指切りをします。葡萄酒とお菓子の入ったカゴを持って、出発しました。

赤ずきんちゃんが森に入ると、目の前に一匹の狼が現れました。「赤ずきんちゃん、どちらへ?」「おばあさんのお見舞いに」「おうちは何処にあるのかな?」「森の奥、大きな樫の木が三本立っている下にあるの」
狼は「若い、柔らかそうな小娘だ。ばあさまも両方一緒にパクっと食ってやろう」と考えました。「そんなに早く歩かないで、ちょっとこの美しい森を見てごらんよ」そう狼に言われて、綺麗なお花を見つけた赤ずきんちゃん。おばあさんに摘んでいこうと、どんどん横道へ進んでしまいます。

狼は一目散に森の奥のお家に行って、おばあさんをパクっと丸のみしました。そしておばあさんのずきんと着物を身に着け、毛布をかぶり、赤ずきんちゃんが来るのを待ちました。そこにやってきた赤ずきんちゃん、いつもと様子が違うおばあさんに、尋ねます。
「あら、おばあさん、なんて大きなお耳」「おまえの声が、よくきこえるようにさ」「あら、おばあさん、なんて大きなおめめ」「おまえが、よく見えるようにさ」「でもおばあさん。なんて気味の悪い大きなお口」「おまえをパクっと食べるためさ」赤ずきんちゃんを丸のみした狼は、お腹がいっぱいで、いびきをかいて寝てしまいました。

ところが、その時偶然通りかかった狩人が「家の様子が変だそ」と中に入り、はちきれそうなお腹で眠る狼を見つけました。「お腹の中に誰か生きているかも」と、鋏で狼のお腹をジョキジョキ切ると……飛び出してきたのは赤ずきんちゃんとおばあさん!狩人は温かい狼の毛皮を喜んで持って帰り、おばあさんは葡萄酒とお菓子で元気になりました。赤ずきんちゃんは「お母さんと約束したことは、きちんと守らなきゃいけないわ」と考えるのでした。

(おしまい)

瓜子姫

瓜子姫

昔、あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。おばあさんが川で洗濯をしていると、大きな瓜がぽっかりぽっかりと流れてきました。瓜を持って帰ったおばあさんが、包丁でふたつに割ろうとしたその瞬間! 瓜が割れ、中から小さな可愛い女の子が現れたのです。子どもがいなかったふたりは、瓜子姫と名付け大切に育てることにしました。

瓜子姫は、いつまでも小さな可愛い女の子のままでした。おじいさんに機織り機を作ってもらい、毎日とんからりこ、とんからりこ、ぎいぎいばったん、ぎいばったんとはたを織って暮らしていました。

ある日、瓜子姫がひとりで留守番をしていると、トントンと戸を叩く音が。
「瓜子姫、開けておくれ。一緒に遊ぼうよ」「知らない人が来たら、絶対に開けてはいけないと言われています」「では、せめてこの手が入るぐらいまで」
瓜子姫が小さく戸を開けると、山に住む天邪鬼(あまのじゃく)が無理やり家の中に入ってきました。「裏の山に柿の実を取にいこう」と嫌がる瓜子姫を無理やり連れだしたのです。そして、瓜子姫に自分の着物を着せて、柿の木の高いところに縛り付けてしまいました。

とんからりこ、ぎいばったん。瓜子姫の着物を着た天邪鬼が、瓜子姫のふりをしてはたを織っています。帰ってきたおじいさんとおばあさんは「よく留守番をしていたね」と、それが天邪鬼だとは気づきません。すると突然表が騒がしくなり、家にお侍が入ってきて、こう言いました。「瓜子姫の織る布が美しいと評判だ。お殿様の奥方様が、お城ではたを織るところ見たいとおっしゃっている」。おじいさんとおばあさんは大喜びです。
瓜子姫のふりをした天邪鬼は、立派なカゴに乗ってお城へと進みます。ところが……裏山を通ったときに「ああん、ああん、瓜子姫の乗るカゴに、天邪鬼が乗って行く」と、声が聞こえてきたのです。辺りを見回したお侍が、柿の木に縛られた瓜子姫を見つけました。おじいさんはすぐに瓜子姫の縄をといてやりました。

お侍は大層怒って、天邪鬼をカゴから引きずり出し、本物の瓜子姫を乗せてお城に連れていきました。そしてお侍は天邪鬼の首を切り落とし、畑の隅に捨てました。天邪鬼の首から流れ出た血が、きびの殻に染まって、きびの色はその時から赤くなったそうです。

(おしまい)

おおかみと七匹のこやぎ

おおかみと七匹のこやぎ

むかし、あるところに、お母さんやぎと、七匹(しちひき)の子どものやぎが住んでいました。
ある日森へ出かけることになったお母さんは、子やぎたちに言い聞かせます。
「狼(おおかみ)を家に入れないでね。狼(おおかみ)はガラガラした声で、足は真っ黒だから、お母さんのふりをしてやってきても、騙(だま)されたらダメよ」「はい、お母さん!」
こうして子やぎたちは、仲良(なかよ)く留守番(るすばん)をすることになりました。しばらくすると、表(おもて)の戸(と)を叩(たた)く音(おと)がします。トントントン。
「あけておくれ、お母さんだよ」「お母さんはもっと綺麗(きれい)な優(やさ)しい声だよ。お前は狼(おおかみ)だ!」と子やぎたちは叫(さけ)びました。すると狼(おおかみ)は、お店に行って飴玉(あめだま)を買い、それを舐(な)めて声を綺麗(きれい)にしてから、また戸を叩(たた)きました。トントントン。
「あけておくれ。おかあさんだよ」「お母さんみたいな綺麗(きれい)な声だ!」子やぎたちが近くまで行くと、扉(とびら)の下から見えているのは真っ黒な脚(あし)。「お母さんの脚(あし)は真っ黒じゃないよ。お前は狼(おおかみ)だ!」狼(おおかみ)は今度はパン屋に行って、白い粉(こな)を足に塗(ぬ)り、また戸を叩(たた)きます。トントントン。
「あけておくれ、お母さんだよ」綺麗(きれい)な声に白い足。「お母さんだ!」と戸を開けた瞬間(しゅんかん)「ガオー!」、狼が家の中に!「わぁーー」。みんなはあちらこちらに隠(かく)れましたが、狼(おおかみ)は見つけだして、子やぎたちをパクっと丸(まる)のみにしました。そして外に出て昼寝(ひるね)を始(はじ)めたのです。

しばらくするとお母さんが戻(もど)ってきましたが、家はめちゃくちゃ、やぎたちはどこにもいません。順番(じゅんばん)に名前を呼ぶと、柱(はしら)時計(どけい)の中に隠(かく)れた七番目の子やぎがようやく姿を現しました。みんなが狼(おおかみ)に食べられたことを知ったお母さんが外を探(さが)すと、昼(ひる)寝中(ねちゅう)の狼(おおかみ)を見つけました。なんと、膨(ふく)れ上がった狼(おおかみ)のお腹(なか)が、もそもそと動(うご)いているではありませんか。
「子どもたちは、まだ生きてる!」そう思ったお母さんは家から鋏(はさみ)を持ってきて、狼(おおかみ)のお腹(なか)をジョキジョキと切りました。すると…ピョンピョンピョンピョンピョンピョン。何と、六匹の子やぎたちが次々と飛び出してきたのです。お母さんは、狼(おおかみ)のお腹(なか)に石を詰め込み(つめこみ)、糸(いと)で縫(ぬ)っておきました。
やがて目覚めた狼(おおかみ)は、水を飲(の)もうと井戸(いど)の近くまで歩きましたが、お腹(なか)の石が重(おも)くって井戸(いど)に落ちて死んでしまいました。それを見ていた七匹(ひき)の子やぎたちは井戸(いど)の周りを飛んで駆(か)け回り、皆(みな)で喜(よろこ)びました。

(おしまい)

うば捨山

うば捨山

むかし、ある国に、お年寄(としよ)りのことが大嫌(だいきら)いなお殿(との)様(さま)がいて、「六十歳(ろくじゅうさい)になった年寄(としより)りは、親であっても山へ捨(す)てるように」という決まりを作ってしまいました。

ある日、ひとりの若者(わかもの)が六十歳(ろくじゅうさい)になった母親(ははおや)を捨(す)てるために、おぶって山を歩いていたところ、背中(せなか)からぽきん、ぽきんという音が。母親(ははおや)が、木(き)の枝(えだ)を折(お)っては下(した)に捨(す)てているのでした。「なぜそんなことをするのですか」、尋(たず)ねても母親(ははおや)はなにも言いません。
やがて山の奥(おく)に泣(な)く泣(な)く母親(ははおや)を下(お)ろし、若者(わかもの)は来た道(みち)を戻(もど)ります。途中(とちゅう)、捨(す)ててある木(き)の枝(えだ)を頼(たよ)りに歩(ある)くと、山道(やまみち)を迷(まよ)わずに帰(かえ)ることができました。「お母さんは『帰りに道(みち)に迷(まよ)わないように』と木(き)の枝(えだ)を折(お)ってくれていたんだ」胸(むね)がいっぱいになった若者(わかもの)はまた山に行き、母親(ははおや)をおぶって家に帰り、床下(ゆかした)に隠(かく)しました。

ある日のこと。お殿様(とのさま)は隣(となり)の国(くに)から「灰(はい)の縄(なわ)を作って見せてもらいたい。できなければ、国(くに)を攻(せ)めるぞ」と書かれた手紙(てがみ)を受け取りました。隣(となり)の国(くに)はとても強く、戦い(たたかい)になれば勝(か)ち目(め)はありません。お殿様(とのさま)はすぐ「灰(はい)の縄(なわ)を作った者(もの)に褒美(ほうび)をやる」と御触(おふ)れを出しました。それを見た若者(わかもの)が解決(かいけつ)方法(ほうほう)を母親に尋(たず)ねると、「縄(なわ)によく塩(しお)を塗(ぬ)りつけて焼(や)けば、崩(くず)れないものだよ」と教(おし)えてくれました。若者(わかもの)は灰(はい)の縄(なわ)を作り、お殿様(とのさま)のお屋敷(やしき)へ持っていきました。お殿様(とのさま)は大喜(おおよろこ)び。
ところが、隣(となり)の国からの手紙(てがみ)はこれで終(お)わらなかったのです。

あるときは、玉(たま)に開(あ)けた小さな穴(あな)に絹糸(きぬいと)を通せと言い、またあるときは二匹のそっくりな雌(めす)馬(うま)を連れてきて、「どちらの馬が母親か当ててほしい」と言うのです。そのたびに御触(おふ)れが出て、若者(わかもの)は母親から聞いた解決(かいけつ)策(さく)を、お殿様(とのさま)に申(もう)し出るようになりました。
若者(わかもの)がすべてを解決(かいけつ)したことに感激(かんげき)したお殿様(とのさま)は「なんでも好きなものを褒美(ほうび)にやる」とおっっしゃいました。
そこで若者(わかもの)は「無理(むり)難題(なんだい)を解(かい)決(けつ)したのは、床下(ゆかした)に隠(かく)した母親なのです」と正直(しょうじき)に話したのです。するとお殿様(とのさま)は「なるほど、年寄(としよ)りの知恵(ちえ)というのは素晴(すば)らしいものだな」と言って、お年寄(としよ)りを捨(す)てることを止(や)めるよう御触(おふ)れを出しました。国中(くにじゅう)の人々は、たいそう喜(よろこ)んだということです。

(おしまい)

空飛ぶかばん

空飛ぶかばん

昔々、外国のとある国に、お父さんからたくさんのお金を受け継いだ青年がいました。ところが毎日楽しく遊んで暮らしたせいで、お金はすぐに底をつき、青年は一文無しになってしまいました。
可哀そうに思った友だちが、青年に大きな鞄をあげましたが、入れるものがありません。そこで青年は自分が入ってみることにしました。カチッ。金具を止めると、あら不思議。ぴゅ~。鞄は高く舞い上がり、空をふわふわと飛んでいったのです。

やがて青年を乗せた鞄はトルコの街につきました。鞄を森に隠した後、町を歩いていると、高いところにしか窓がない変わったお城を見つけました。道行くおばあさんが言うには「お城にはこの国のお姫様が住んでるんだよ。お姫様が生まれた時の占いで『大変運の悪い男と結婚する』と出てしまってさ。だから誰とも出会わないよう、暮らしてるんだ」
それを聞いた青年は、鞄に乗り空を舞って、お姫様の部屋に忍び込み言いました。「私はトルコの神様で、空を飛んでここにきました」

するとお姫様がにっこり笑ったので、ふたりはそこからいろんな話をしました。青年の話はどれも面白く、お姫様は大喜び。ついに二人は結婚を誓いあいました。
「土曜日にお父様とお母様にあってください。ふたりの前でまた面白い話をしてくださいね」お姫様に言われた青年は、鞄を隠した森に戻り、一生懸命お話を考えました。
そして土曜日。王様とお妃様の前で、青年はマッチ棒とその仲間たちの物語を披露しました。お話も青年のことも気に入った、王様とお妃様。「神様となら結婚してもいいでしょう」と言ったので、ふたりは翌日結婚式を挙げる事に。
それを知った街の人々は、その夜(よ)、結婚祝いで大騒ぎ。嬉しくなった青年は花火をたくさん買って鞄に乗り、空の高いところで打ち上げました。シュルシュルシュル、パン!人々は「なんて素晴らしい!本当に神様なんだ!」と青年を褒めました。

ところが…まぁ大変。鞄が真っ黒に焼けこげて、もうお姫様のところに飛んでいくことができ無くなってしまいました。なにも知らない可哀そうなお姫様は、青年が来るのをいつまでもいつまでも待ち続けたということです。

(おしまい)

ぬえ退治

ぬえ退治

ある時、天皇がとても重い病(やまい)にかかりました。なんでも毎晩夜中になると、天皇の寝室の屋根の上に得体の知れないなにかが現れ、なんともいえない気味の悪い声で鳴くというのです。初めてその声を聞いたとき、天皇は体を震わせて気を失い、ひどい熱が出て、その日から充分に眠れなくなりました。やがて、食事も喉を通らなくなってしまったのです。

お祓(はら)いやお祈りをしても、天皇の体は弱っていくばかり。「いったい、どんな化け物がやってくるのだろう」武士たちは、ある晩寝室にそっと隠れて、化け物がやってくるのを待ちました。

夜(よ)が更けた頃。東の方からもくもくと真っ黒な雲が湧き出して、寝室の屋根を覆い隠すようにぐんぐん広がり始めました。やがて、雲は恐ろしい大きな化け物の形に変わり、御所(ごしょ)の屋根でするどい爪をとぎはじめるではありませんか。「なんと恐ろしい!一刻も早く退治しなければ!」。御所(ごしょ)を守る偉い人たちは相談して、弓の名手として知られる源頼政(みなもとのよりまさ)に化け物退治を命じる事にしたのです。

弓を持ち、家来をふたり連れた頼政がすぐさま御所(ごしょ)にやってきました。夜(よ)がふけると、空を黒い大きな雲が覆いだしたので、頼政と家来は外に出て、御所(ごしょ)の屋根を見上げました。辺りは星さえ見えない真っ暗な闇。化け物の姿もよく見えません。それでもあきらめずにじっと見続けていると、雲の中になにかがいるのがうっすらとわかるようになりました。
たとえ真っ暗闇であろうと、失敗は絶対に許されません。頼政は「南無八幡大菩薩」と唱えながら、気持ちを集中させて、弓を放ちました。びゅーん。勢いよく飛んだ矢は、見事化け物に命中しました!「ひょー、ひょー」。鵺(ぬえ)のような不気味な声を出し、化け物は地上に落ちていきました。すかさずそこに家来のひとりが駆け付けて、刀でとどめをさしたのです。

「化け物が退治されたぞ!」。御所(ごしょ)の人々が集まり、ろうそくをつけてその正体をよーく見ると…頭は猿、背中は虎、しっぽは狐、足は狸という不気味な化け物でした。化け物の死体はすぐに焼かれ、お寺の近くの山の上に埋められました。頼政の活躍を大層喜んだ天皇は、褒美として獅子王という立派な剣を頼政に贈りました。

(おしまい)

忠義な犬

忠義な犬

むかし、あるところに、ひとりの猟師(りょうし)がいました。犬(いぬ)を何匹(なんびき)も連(つ)れて山(やま)に出(で)かけ、猪(いのしし)や鹿(しか)を茂(しげ)みの中(なか)から追(お)い出(だ)しては、犬(いぬ)に噛(か)ませて捕(と)らえ、その皮(かわ)や肉(にく)を売(う)ることで暮(く)らしていました。

ある日(ひ)、猟師(りょうし)はいつものように犬(いぬ)を連(つ)れ、山(やま)に行(い)きましたが、その日(ひ)は獲物(えもの)が一向(いっこう)にありません。獲物(えもの)を探(さが)すうちに、山(やま)の奥深(おくふか)くへ入(はい)り、いつの間(ま)にかとっぷり日(ひ)が暮(く)れてしまいました。
真っ暗(まっくら)な中(なか)を戻(もど)るのは危(あぶ)ないので、仕方(しかた)なくひと晩(ばん)野宿(のじゅく)をすることにしました。真中(まんなか)に穴があいた大(おお)きな木(き)があったので、焚火(たきび)を炊(た)き、犬(いぬ)を周(まわ)りに集(あつ)め、猟師(りょうし)は木(き)の中(なか)でぐっすりと眠(ねむ)ってしまいました。

夜(よ)も更(ふ)けた頃(ころ)。ワンワン、ワン!けたたましい犬(いぬ)の鳴(な)き声(ごえ)で猟師(りょうし)は目(め)を覚(さ)ましました。外(そと)をみると、犬(いぬ)の中(なか)でも一番(いちばん)賢(かしこ)い犬(いぬ)が、火(ひ)のまわりをぐるぐる回(まわ)りながら、狂(くる)ったように吠(ほ)えているではありませんか。「なにごとだ!」猟師(りょうし)は山刀(やまがたな)を手(て)に持(も)ち、あたりを見回(みまわ)しましたが、なにも怪(あや)しいものはありません。ワンワン、ワン!他(ほか)の犬(いぬ)も吠(ほ)えながらそこらを嗅(か)ぎまわっていましたが、何(なに)も見(み)つからず、尻尾(しっぽ)を振(ふ)って戻(もど)ってきました。
ところが賢(かしこ)い犬(いぬ)だけは吠(ほ)えるのをやめません。猟師(りょうし)の着物(きもの)の裾(すそ)を引っ張(ひっぱ)り、背中(せなか)に飛(と)びつき、今(いま)にも噛(か)みつきそうな勢(いきお)いでほえたてます。「静(しず)かにしろ」猟師(りょうし)は気味(きみ)が悪(わる)くなり刀(かたな)を抜(ぬ)いておどしましたが、犬(いぬ)はついに猟師(りょうし)の胸(むね)に飛(と)びつきました。「この犬(いぬ)は狂(くる)ってしまった」猟師(りょうし)は犬(いぬ)を突(つ)き放(はな)し、刀(かたな)でその首(くび)を切(き)り落(お)としたのです。
ところが切(き)られた犬(いぬ)の首(くび)は、いきなり飛(と)び上(あ)がり、猟師(りょうし)が眠(ねむ)っていた上(うえ)にあった木(き)の枝(えだ)に噛(か)みついたのです。すると…うう、うう、暗闇(くらやみ)の中(なか)から恐(おそろ)ろしい唸(うな)り声(ごえ)が聞(き)こえ、大(おお)きな木(き)が倒(たお)れたような音(おと)と共(とも)に何(なに)かが落(お)ちてきました。
火(ひ)をともしてよく見(み)ると…それは見(み)たこともないような長(なが)く太(ふと)い大(おお)きな蛇(へび)。犬(いぬ)の頭(あたま)は、その喉首(のどくび)にしっかりと噛(か)みついていました。木(き)の上(うえ)に棲(す)みついていた大蛇(だいじゃ)が猟師(りょうし)を丸(まる)のみしようと出(で)てきたのを、賢(かしこ)い犬(いぬ)が見(み)つけ、主人(しゅじん)を助(たす)けようと吠(ほ)えたて、そして殺(ころ)されてもなお、主人(しゅじん)を思(おも)う一念(いちねん)が首(くび)に残(のこ)り、飛(と)んで行(い)って大蛇(だいじゃ)を嚙(か)み殺(ころ)したのです。「かわいそうなことをした」猟師(りょうし)は涙(なみだ)をこぼして、立派(りっぱ)なお墓(はか)をこしらえました。
村人たちは、忠義(ちゅうぎ)な犬(いぬ)のお墓(はか)だといって、花(はな)やお線香(せんこう)を上(あ)げたそうです。

(おしまい)

春山秋山

春山(はるやま)秋山(あきやま)

昔々、但馬国(たじまのくに)に出石少女(いずしおとめ)という美しい女神がいました。色んな神様が結婚を申し込みましたが、少女(おとめ)はお嫁にいくのが嫌で、誰のいうことも聞きませんでした。

この神様たちの中に、秋山下氷男(あきやまのしたびおとこ)と春山霞男(はるやまのかすみおとこ)という兄弟がありました。
ある日、兄の秋山(あきやま)は、「私も少女(おとめ)をお嫁にもらいたいと頑張ってみたが、いうことを聞いてくれない。どうだ、お前なら結婚できると思うか」と弟の春山(はるやま)に聞きました。春山(はるやま)は「私なら結婚できますよ」と自信満々。癪(しゃく)に障(さわ)った秋山(あきやま)が「もしお前が少女(おとめ)と結婚できたら、この着物と、大きな甕(かめ)に入れた酒と、豪華なごちそうをあげよう」といいました。ようございますとも。万一私が負けたら、私がごちそうしましょう」と返事をした春山(はるやま)は、家に帰りお母さんに賭けの話をしました。
するとお母さんは「私が勝たせてあげよう」と言って、藤のツルをたくさん使って着物に袴、靴から靴下、そして弓と矢をひと晩でこしらえました。そして、それら全てを身に着けた春山(はるやま)が、少女(おとめ)の家の前に着いた瞬間…全身に、それは美しい紫色の藤の花がパァっと咲きました。同じように花が咲いた弓矢を戸にたてかけると、ちょうど少女(おとめ)が出てきて、弓矢を手に取りました。春山(はるやま)は「私のお嫁さんになってください」と声をかけます。驚いて振り返った少女(おとめ)が見たのは…目もくらむような美しい花に飾られた気高い神の姿!少女(おとめ)は結婚を承諾し、ふたりの間には子どもが生れました。

ところが、この結婚を妬(ねた)んだ秋山(あきやま)は弟との約束を守りませんでした。春山(はるやま)がお母さんにいいつけると、お母さんは「あなたは神のくせに、まるで人間のように嘘をつくとは!何事です」と秋山(あきやま)をきつく叱りました。それでも秋山(あきやま)は約束を守りません。怒ったお母さんは、青竹で作ったカゴの中に、塩をふりかけた石を竹の葉に包んだものを入れ 「嘘つきは、竹の葉が青くなって、やがてしおれるように、青くなってしおれてしまえ。塩が干からびるように、干からびてしまえ。石が沈むように、沈んでしまえ」と呪いをかけました。
すると秋山(あきやま)は呪文通りに、ひからび、しおれて8年間も苦しい思いをしたのです。秋山(あきやま)が泣きながら謝ったので、お母さんが呪いをとくと、秋山(あきやま)は元通りの丈夫な体に戻ることができたということです。

(おしまい)

はまぐり姫

はまぐり姫

むかし、筑後川と有明海の川と海が出会うところに、貧しい魚とりの老夫婦が住んでおった。
ある日二人揃って舟で海に出かけらした。しばらくすると、風が吹きだし舟が揺れて、魚ば釣るどころじゃなかごつなったげな。そんな中、じいさんが小さなはまぐりを釣り上げたげな。ばあさんな「夕飯の足しにもならん、海に捨てんの」というた。ところが、はまぐりが、じいさんだけに聞こえるごていうた。「海に捨てないで」「こんはまぐりは人の言葉ば話すばい」とじいさんはたまげたげな。そいでん、じいさんな、はまぐりば家に持って帰らしたげな。

ひと月もたつと、はまぐりは人間の頭ぐらい大きくなったげな。ある晩、がさがさと音がして、なんとはまぐりが動きだしたげな。その日は満月で、月が闇を明るく照らしていたげなばい。やがて、「ぽーん」と大きな音とともに、はまぐりが二つに割れて、中から赤ちゃんが生まれたげな。びっくりしたじいさんとばあさん。でも二人には子どもがいなかったので、出てきた女の子を「はまぐり姫」ち名付けて、自分の子どもとして、可愛がって育てらしたげな。

はまぐり姫はどんどん大きくなって、じいさんと魚を捕(と)り、ばあさんと畑仕事をして、村の人たちからも好かれとったげなばい。でもな、はまぐり姫が日に日に痩せていくので、ある日、ばあさんが心配して聞いたげな。するとはまぐり姫が「私はこの世の者ではなく、月の世界に住んでいました。月ではわがままだらけで、月の神様が怒って、私を海へと落としました。はまぐりとなって海をさまよっていたところを、助けてもらいました。月の神様は私が人間として働く姿をご覧になり、次の満月に帰ってくるようにとお伝えになられました。帰るのは嬉しいのですが、おじいさんとおばあさんとお別れするのは寂しいのです」といって泣き崩れたげな。
じいさんとばあさんも泣きながら「はまぐり姫よ、私たちの子どもとして生まれてきてくれて、ありがとう」あとは言葉にならんじゃったげな。
満月の日、今まで見たことのなか大きな月じゃったげな。はまぐり姫は月の光に吸い込まれ、あっという間に消えてしもうた。

今日の物語は 原作・川野栄美子/民話いっちょ、食べてみらんの筑後川流域の民話/梓書房刊でお送りしました。

(おしまい)

おはぎとびきたん

おはぎとびきたん

むかしある村に、おはぎが好きな婆さんがおらした。婆さんな頑張りやで、稼いだ金で砂糖ばこうて、おはぎ作って一人で食べよらしたげな。ところが、息子にしっかり者の嫁さんがこらしてからは「まーた、砂糖ばこげんつこうて。おはぎ作ったじゃろ。金持ちじゃなかけん、おはぎば作るこつはやめんの」と嫁さんに言われるようになってしもうた。

そいから婆さんはな、おはぎ作るこつ、やめらした。畑仕事もやめてしまい、ぼんやりと過ごしておったげな。嫁さんな、婆さんを少しかわいそうに思い、おはぎば四つ作らして、一つ食べてみらしたところ「天にも昇るごつ、うまか」と、すぐに全部食べてしもうた。
「こげんうまかもんちゃ、はじめて知ったばい。婆さんにまた食べさせよったら、砂糖がすぐなくなるばい。はよう砂糖隠さんと」そいからさい、戸棚の奥の古いかめに砂糖ば隠したげな。ばってん、婆さんがそれば見よらしたばい。

ある日嫁さんがいうた。「今日は夕方まで畑の仕事ばするけん、だれんおらんもんの」婆さんな、さっそく砂糖がたっぷり入ったおはぎを五つ、作ったたげな。二つ、すぐ食べた。あと三つは戸棚に直して、婆さんは、幸せな気持ちになって、うとうと寝てしもうたげな。
「いま帰ったばい」嫁さんの声に飛び起きた婆さんな、戸棚の中のおはぎが気になって仕方がなかったげな。そこで庭にいたびきたん三匹捕まえると、嫁さんに聞こえないように「びきたんよ、びきたんよ、嫁が戸を開けておはぎを見つけたら、びきたんになれ」と、びきたんにようと頼んだげな。ところが嫁さんな、これを聞きよらしたげな。そいで婆さんが部屋に入ってる隙に、おはぎば三つ、食べたげな。食べた皿には婆さんが捕まえたびきたん三匹ば入れて、戸棚に戻したげなばい。婆さんな、嫁さんが部屋に入って出てこらっさんことば知ると、戸棚を開けた。おはぎが入っている皿を出すと、びきたんが「ぴょん、ぴょん、ぴょん」と三匹飛び出してきたけん、慌てていうた。
「これ、びきたんよ。婆さんだよ。はようおはぎに戻らんの」ち、何回でもいうばってん、いっちょんおはぎには戻らんじゃったばい。

今日の物語は 原作・川野栄美子/民話いっちょ、食べてみらんの筑後川流域の民話/梓書房刊でお送りしました。

(おしまい)

百叩きになった鯰

百叩きになった鯰

むかし、むか~しのお話じゃけど。筑後(ちっご)川(がわ)に住む鯰(なまず)が、天(てん)の神様(かみさま)に仕(つか)えておったげな。

ある日のこと、神様(かみさま)からありがた~いお言葉(ことば)があったとげな。
「川(かわ)ば守ってくれとる鯰(なまず)たちよ。お前(まえ)たちのおかげで、魚(さかな)たちは元気(げんき)で仲間(なかま)も増(ふ)えてきたけん、褒美(ほうび)に長(なが)~いひげば与(あた)えちゃろう。このひげは、川(かわ)に災難(さいなん)が起(お)こったらすぐに知(し)らせてくれる不思議(ふしぎ)なひげなんじゃ。もし何(なに)かあったら、必(かなら)ず私(わたし)に知(し)らせるように。」
そうして鯰(なまず)に長(なが)くて、立派(りっぱ)なひげがついたとげな。
鯰(なまず)は嬉(うれ)しうて嬉(うれ)しうて、長~いひげば四六時中ぴくぴく、ぴくぴくと動かしながら一生懸命働いたとげな。

鯰(なまず)が神様(かみさま)からひげをもらってから、一年(いちねん)・・・
川(かわ)の魚(さかな)は元気(げんき)で、なーんも起(お)こらんじゃった。三年(さんねん)が経ったばってん・・・川(かわ)の魚(さかな)も貝(かい)もみ~んな元気(げんき)で、なーんも起(お)こらんじゃった。
そして、(ためて)五十年(ごじゅうねん)が経(た)った時(とき)・・・、「筑後(ちっご)川(がわ)は平和(へいわ)な川(かわ)で、これから先(さき)も、な~んも起こらんやろうけん。安心じゃ安心じゃ」
すっかり安心(あんしん)してしまった鯰(なまず)は、働(はたら)かず、寝(ね)たり食(た)べたりして、の~んびりと過(す)ごすようになったとげな。 ところがたい、百年(ひゃくねん)経(た)ったある朝(あさ)のこったい。
「大変(たいへん)じゃ、大変(たいへん)じゃぁ。たまげたばい~
阿蘇(あそ)のお山(やま)があばれだしたばい!逃(に)げんといかんばい~」ていうて、小魚(こざかな)たちが大勢(おおぜい)で逃(に)げ出(だ)したとげな。
そしたら……。ガタガタ、ガタガタガタッ。川底から、聞いたこともないようなものすごい太(ふと)~か音(おと)が鳴(な)り響(ひび)きはじめたとげな。 音(おと)ば聞(き)いてたまがった鯰(なまず)が飛(と)び起(お)きると、
長~かひげがびゅーんて伸びて、ようやく筑後(ちっご)川(がわ)に危険(きけん)が迫(せま)っとることがわかったとげな。
「こ、これは、はよう神様(かみさま)にお知(し)らせせんと、しかられっぞ。急(いそ)げ~急(いそ)げ~~」
鯰(なまず)は泳(およ)いで神様(かみさま)の元(もと)に行(い)こうとしたばってん、寝(ね)てばっかりおったせいで、まるまると太(ふと)って、体(からだ)が重(おも)とうて重とうて、どげん頑張(がんば)っても早(はよ)う泳(およ)ぐことができんじゃった。そしたら、その時たい……、どーん!
ものすごい太(ふと)か、恐(おそ)ろしか音(おと)とともに大地震(おおじしん)が起(お)きて、たくさんの魚(さかな)や貝(かい)が死(し)んでしもうたとげな。鯰(なまず)が長年(ながねん)の間(あいだ)、すっかり怠(なま)けとったことば知(し)った神様(かみさま)は、たいそう怒(おこ)って
「鯰(なまず)のばかちんば、百(ひゃく)叩(たた)きの刑(けい)にするったい」て、言(い)わしたげな。

だけん、ばち被(かぶ)った鯰(なまず)は今(いま)でも、お寺(てら)の木魚(もくぎょ)となって、百回(ひゃくかい)、ぽく、ぽく、ぽく、ぽくと叩かれとるとげな。おしまい。

今日の物語は 原作・川野栄美子/民話いっち、食べてみらんの/筑後川流域の民話梓書房刊でお送りました。

(おしまい)

貧乏人の知恵

貧乏人の知恵

むかし貧乏百姓の家に、親思いの息子がおったげな。父ちゃんが亡くなり、代わりに働きに出らした母ちゃんも病気がちになって、村の医者がやってきて、「もう働くことはできんじゃろう」ち、いうたげな。
息子は悲しくなって、きいた。
「母ちゃん、何か食べたかもんな、なかか」
すると母ちゃんが
「死ぬ前にもういっぺんだけ、泥鰌ば食いたかのう」
「母ちゃんの好きなもんばぜったい食わせてやるけん、待っとかんの」
ち、息子が答えたげな。そげんいうたもんの、息子は心配になってきた。
「村長は権力ば持っといて、泥鰌が捕れても一匹でん分けてやらん。どげんしたら母ちゃんに食わせられるじゃろうか」
ち、考えたげな。

ある日のこと、村長さんの家の前ば通ったらなにやら騒がしかけん、そおっと覗いてみると、泥鰌がいっぺ捕れとったばい。息子はいてもたってもおられんごつなって、村長さんに頼んだげな。
「母ちゃんが死ぬ前にどうしても、泥鰌の煮汁で炊いた豆腐ば食べたか、ちいいますけん、どうか泥鰌と一緒に豆腐を煮てください。お願いします」 すると村長さんな「村の川でとれた泥鰌はぜんぶ俺んもんばい。泥鰌は一匹たりともやらんぞ。豆腐ばいっしょに煮てやるけん、早よう豆腐ばもってこんか」
ち、いわしたげな。息子は喜んで家に帰り
「母ちゃん、今日は泥鰌ば食わせてやるばい」ちいうて、夕飯にほんなこつ泥鰌のにおいのする豆腐ば持ってきたげな。
「早よう食べんの」
ちいうけん、母ちゃんが食べよっと、「あれまあ!豆腐から泥鰌が出てきたばい」と驚いいて「うまか、うまか」ちいうて、喜んで食べらしたげな。全部食べ終わってから、息子に
「こげんうまかもんば食うたけん、もう少し生きらんと罰が当たる」ち、いわした。
息子は母ちゃんが「うまか、うまか」ち食べる姿を見てるだけでん幸せじゃったげな。

さてその頃、村長さんの家では泥鰌が二匹たらんちいうて、大騒動じゃったげな。なんでもな、豆腐と泥鰌を一緒に煮たら、泥鰌は冷たい場所を求めて豆腐の中に潜り込んでいくそうな。それを知っとった息子が、母ちゃんを思って知恵を絞ったちいうことばい。はい、おしまい。

今日の物語は 原作・川野栄美子/民話いっちょ、食べてみらんの/筑後川流域の民話梓書房刊でお送りしました。

(おしまい)

こんなときこそ