STORY
KBCの舞台裏日々の放送を支えている、電波に乗らないたくさんのこと

12月、福岡国際マラソン。世界トップレベルの戦いを余すことなく伝えるために、技術者たちは数か月に及ぶ準備を経てその日を迎える。刻一刻と変わるレースの状況。往々にして起きる駆け引きやアクシデント。ランナーの表情、息遣い、空気感。どの瞬間もチャンスは一度きりしかない。リアルタイムで映し出す、2時間と数分のドラマ。果たしてその結末は――。
2021年の大会を前に、去年の大会を振り返ります。
放送3か月前からの準備
新型コロナウイルスの影響により、2020年は数々の大型イベントが中止になっていたので、福岡国際マラソンも中止になるかもと思っていましたが、準備期間ギリギリとなる9月下旬に実施の方向となり、バタバタ準備を始めました。福岡国際マラソンとなると技術スタッフだけでも150人はおり、この人数を開催が確定していない状態で振り回すわけにもいかず、例年よりも動き出しが遅れてしまいました。
10月上旬には、マラソンコースに新しいビルが建っていないか、景色を遮るものが出来ていないか等を確認するための下見、撮影ポイント・移動中継車の使用願いを警察署に申請、中継をする上で必要となるマンションや中継ポイントへの挨拶などを行わなければならず、その辺の段取りも急いで行いました。急なスタートとなりましたが、本当にありがたいことに毎年ご協力を頂いている方々から変わらずのご支援を頂くこととなり、まずはこれで放送への第一歩を踏み出すことができる状態となります。

上から見たマラソンコース。中継には入念な準備が必要です。
コロナで想定外の事態
「今大会は外国人の参加は無し、国内選手も100人程度、中継規模も縮小」
「中継全スタッフに1週間分の検温結果提出を義務付ける」
「選手と中継スタッフはもちろん、中継スタッフ間の密も避けること」
順調にスタートを切ったかに思えた福岡国際マラソンの準備ですが、コロナ禍ではやはり一筋縄ではいきませんでした。スタッフが選手に近づかないようにするのはカメラや音声など現場の工夫で対応できそうでしたが、問題はスタッフ間の密。こういった大きな大会の場合、1日だけ参加するアルバイトの方や工事業者の方も多数おり、その方々一人残らず意識を徹底してもらう必要があります。
また福岡国際マラソンは全国の系列各社に応援をお願いしていますが、全社納得する形のコロナ対策ルールを作ることも苦労した一つです。例年であれば、社内にいるスタッフは全員「サブ」という副調整室1か所に集まるのですが、2020年は半分近くを別の場所に移動させることにしました。これによりスタッフ間の密を避けられる一方、顔を合わせて話ができない分、本番中のコミュニケーションには不安が残ります。そのため、連絡系統をしっかりと準備する必要もありました。
移動中継車
ハード面が固まりつつある中、次はソフト面の充実ために準備をします。マラソン中継には走っている選手を追いかける「移動中継車」が不可欠なので、はるばるテレビ朝日からお借りしています。道路を走行すると車は当然上下左右に揺れるわけですが、防振レンズが新しくなったので、画面上では揺れを全く感じさせないものとなっています。また機動性の高いトライクもテレビ朝日からお借りして、選手の息遣いや表情、前後の距離感を伝える移動中継車として大活躍します。
ただそれらを単独で動かしても意味がなく、全体の中での位置取りや何を撮影するのかが大事で、なおかつ撮影した映像を絶えずKBCまで届けなければ中継はできません。そのため無線設備を何系統分も設置し、映像が落ちるポイントがないか、連絡系統が途切れる場所はないか、3日間本番と同じコースを走りテストを繰り返します。

テレビ朝日からお借りしている移動中継車。

機動性の高いトライク。
移動中継車が撮影できないポイントと受信点
福岡国際マラソンのコースには折り返しの部分があり、移動車は選手の前方を走るのが基本なので、どうしても折り返すと選手を撮影できない空白の部分が出てきてしまいます。その部分を補うのが「定点ポイント」といって※、固定カメラを使って移動車では撮影できない箇所を補います。また折り返しのポイントは道路の真ん中に設置されるので、先頭の選手が来る直前、交通規制後の数分間に機材などのセッティングをするというのも特徴の1つです。
もう1つマラソンの大事なポイントに、マンションの屋上や公園の展望台などで、移動中継車の電波を受信する「受信ポイント」と言われているものがあります。マラソンを生放送するには走っている移動中継車の映像をリアルタイムにKBCに送り届ける必要がありますが、コース上の地形やマンションの陰になる関係で、どうしてもKBC本社では受信できない範囲が出てきます。そこをカバーするため合計4か所の受信ポイントを設け、1秒でもコース上の映像を途切れさせないよう移動中継車からの電波を確実に受信し、KBCへ送るポイントとのことです。このポイントは、主に全国のテレビ朝日系列の方々の応援で成り立っています。
※折り返し地点以外にも3か所の定点ポイントがあり、ヘリコプター、移動中継車など合計30台ほどのカメラを駆使して臨場感のある映像を撮影しています。

道路の真ん中の「定点ポイント」。目の前をランナーが折り返していきます。

建物の屋上に設置した「受信ポイント」。全コースを中継するには必要不可欠です。

さまざまな方法でリアルタイムの映像を本社に届け、ひとつの生中継番組を作っています。
そして本番…
本番の朝は異様な緊張感に包まれます。3か月以上の準備を行っても、この日がダメなら全てが台無しです。生放送とは一瞬を切り取る連続。特にスポーツの生中継はやり直しがききません。全スタッフの集中力も必然的に高まります。
この日のために何度もシミュレーションを重ねたカメラマン、いつもと違い歓声のない難しい状況に臨む音声、カメラマンが撮影した映像を瞬時の判断で切り替えるスイッチャー、全カメラの色を合わせるVE、移動車の映像を途切れさせないようアンテナを振る受信ポイントなど、まだまだ書ききれないメンバー達も、本番となると表情を変え、一人の表現者となります。私、テクニカルディレクターの仕事は準備段階でほとんど終わるので、あとはスタッフを信じて無事終了することを見守るのみ…。
結果は、放送中のアクシデントもなく、数々のマイナス要素があったことが嘘のような出来栄えとなりました。全スタッフがそれぞれのセクションで熱い思いを持って仕事を果たしてくれたおかげです。大きな中継終了後は喜びよりもホッと安心することがほとんどで、無事に放送を終えただけでなく、コロナ禍で体調不良者を出さなかったことも良かったと思っています。
そして最後に技術スタッフは撤収作業へ…。

本番当日のKBC本社・副調整室(サブ)。
みなさんへ
福岡国際マラソンのTV中継では、制作スタッフなども入れると総勢200名以上の人が関わって番組を作り上げています。こういった多くの人がひとつの目標に向かって一丸となることはとてもやりがいがあり、達成感もあります。コロナといった逆風の中でも、それぞれが知恵を出し合い、フォローし合い、力を出し切って作り上げたものは、何事にも代え難い経験となります。そのような中で働くことは純粋に楽しいです。一人での作業もありますが、基本的にはこのようにチームを組んで仕事をすることがほとんどです。若いうちから大きな仕事を任される可能性も高いです。チームワークが求められる仕事が好きな方、少しでも興味を持った方、現場に興味を持っている方、ぜひ一緒に働きましょう!!

文 元木亮太(中央) / 技術・IT推進局 制作技術部
2003年入社。福岡国際マラソン技術責任者。技術管理部、スポーツ部を経て2014年に現在の部署へ。自社制作レギュラー番組・特別番組の他、系列局のスポーツ中継にも数多く携わる。海外旅行が大好き。
掲載日:2021.11.09