400年の時を経て蘇る!町民の想いを込めた「芦屋釜」の復元 ~ふるさとWish芦屋町~

繊細な文様が美しい、室町時代につくられた芦屋釜

福岡県芦屋町は一級河川・遠賀川の河口に位置し、サワラなど海の幸が豊かな町です。現在は人口約1万4千人と減少傾向にあり、町おこしが課題の一つとなっています。

美しい形と文様で15世紀に人気を博した「芦屋釜」

芦屋町の町おこしの切り札として期待されているもの。それは、茶道で使われる茶釜です。芦屋町で作られていた茶釜は「芦屋釜」と呼ばれ、15世紀頃、京都の貴族や武士に支持されていました。

芦屋釜の展示などを行っている「芦屋釜の里」の新郷 英弘学芸員によると、「とにかく薄くて美しく、今の人ではなかなかできない技術でできている」といいます。実際、その薄さはわずか2ミリ。国の重要文化財に指定されている茶釜は9つありますが、そのうち8つが芦屋釜となっており、その文化的価値がうかがえます。

ところが当時、主要な釜の需要地である京都でも盛んに釜が作られ始めたことで、京都から遠い芦屋は次第に分が悪くなってしまい、その製法や技術が400年前に途絶えてしまったのです。


復活への道には、ある鋳物師の存在が

一心不乱に芦屋釜づくりに取り組む八木さん

しかし1989年、芦屋釜は復活へと動き始めます。きっかけとなったのは、その年に行われた「ふるさと創生事業」です。国が全国の市町村に1億円を交付したこの施策で、芦屋町は「芦屋釜の里」と工房を建設。1995年からは、職人の養成事業をスタートさせました。

そしてこの養成事業で「鋳物師(いもじ)」となったのが、八木(やつき)孝弘さん。400年途絶えていた芦屋釜を現代に復活させようと取り組む、鋳物師の一人です。しかし八木さん、当初は鋳物師になるなど、思いもよらなかったといいます。

八木さんは大学卒業後に大手運送会社に就職したものの腰を痛め、25歳のときに退職。そんなとき、一人でふらっと訪れたのが「芦屋釜の里」でした。何もわからず中をのぞき込んでいたら、当時働いていた鋳物職人さんに「何や、兄ちゃん興味あるんか」と声をかけられたそう。そして、誘われるままに受けた競争率20倍の試験で、なんと八木さん一人だけが合格!

「一瞬で、人生がこんなに変わるとは思っていなかった」と当時を振り返ります。以来、養成事業で16年間修行。それを終えた八木さんでも、芦屋釜の復活は決して簡単ではないといいます。「(文献もなく)誰かが答えを知っているわけでもないし、それを見つけないといけない。この先、一体どうなるのかと考え始めると全く動けなくなる時は多々あった」とこれまでの苦労した日々を明かしてくれました。

ベテランでも成功率は4割弱!繊細な芦屋釜づくり

細いヘラで描いている様子。この繊細な線が美しい文様を表現します

外型と中子(なかご)を作り、鉄を流し込んで作られる芦屋釜。特徴である美しい文様は、その外型にヘラを使って描いていきます。

取材に訪れた日は、梅の文様に初挑戦していた八木さん。スタッフが「梅にされようと思ったのは?」と尋ねると、「それは、もう“令和”ですよ。梅は小さくて気品のある花じゃないですか。それをいかに表現できるかな」と新元号・令和の典拠とされている万葉集の「梅花の歌」にちなんで、梅の文様に取り組んだことを教えてくれました。

文献や現存する当時の芦屋釜を参考に、技術に磨きをかけている八木さん。しかし、そんな八木さんでも苦労しているのが「(上下を)別個に作って、ピタッと合わせないといけない」という終盤の作業。2ミリの薄さを目指すため、失敗すると合わせたときに穴が開いてしまうこともあるといいます。

鋳型を作るのには3カ月かかりますが、実は鉄を流し込めるのはたった1度だけ。成功率は、八木さんでも4割弱だといいます。「私が芦屋釜の復元に挑戦し始めて、3年は釜が1個もできなかったですね。」とその難しさを語ってくれました。


制作だけでなく、芦屋釜の魅力を伝える活動も

「芦屋釜の里」で来場者に芦屋釜の説明をする八木さん

試行錯誤の制作をする一方で、八木さんは「芦屋釜の里」でその魅力を伝える活動も行っています。来場者に話を聞くと、「いやぁ、すばらしい。芸術品だ」と感動する男性や、「作る人の魂が入っているのかなと思う」と語る女性も。現代においても、多くの人を魅了しているようです。

「芦屋釜の職人を町が育てようという揺るぎない想いがないと、こんなことは絶対にできない。不可能と言われていたものが、今、実際に形になってきたというのは、(町の)本当に皆でやり遂げた結果ですので」と最後に八木さんが、感慨深く語ってくれました。

ちなみに八木さん、鋳型の“型を作って流し込む”という技術を何かに応用できないかと考え、同じように溶かして型に流し込む、チョコレート作りも行っているそう。今後は、芦屋釜の復元はもちろん、この技術の応用についても期待が持てますね。

芦屋釜の里
住所:福岡県遠賀郡芦屋町大字山鹿1558-3
TEL:093-223-5881

※この記事は2019年の情報です(「シリタカ!」7月3日放送)。内容は変更している可能性があります。事前にご確認ください。

芦屋釜の里

住所:遠賀郡芦屋町山鹿1558-3
電話番号:093-223-5881
営業時間:室町時代に一世を風靡した「芦屋釜」の資料館や工房がある

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