故郷の海を守れ!業種を越えて繋がる若き漁師の挑戦~ふるさとWish宗像市~
玄界灘に面した宗像市は漁業がさかんなまち。福岡県最大の水揚げ港、鐘崎(かねざき)漁港では、玄界灘の荒波にもまれた絶品の天然ふくをはじめ、アナゴやアジなど、脂乗りがよく、身が締まったおいしい魚が水揚げされています。
漁業さかんな街が直面する海洋ごみ問題
しかし、そんな宗像の海が今、危機に直面しています。沿岸や沿岸海域から流れてくるプラスチック、海岸でのレジャーで発生したごみ、台風や大雨で流れ着いた流木などで、豊かだった海が汚染されているのです。
「魚を捕って生活するだけじゃ、生きていけなくなってきて。地域の平均年収は200万円を切ってしまったと言われています。環境改善をやらないと魚が増えない、海の環境が良くないと漁ができないんです」。そう語るのは権田幸祐さん(35歳)。祖父の代から続く現役漁師で、宗像が直面する深刻なごみ問題を身をもって感じている若者です。
権田さんの言葉通り、鐘崎漁港の漁獲量は現在、最盛期の1/3まで減少しています。油の高騰や水産資源の枯渇で、廃業を余儀なくされる漁師もいます。こうした現状を何とかしたいと、権田さんは「漁村文化を次代へつなぐ会」を結成。さまざまな活動の一環で、定期的に海岸の清掃活動を行っています。
1時間ほどの海岸清掃でトラックの荷台がいっぱいになるほど、浜辺にはたくさんのごみが流れ着いています。しかしそれはほんの一部。海中を漂流するごみや、海底に沈んでしまったものなど、まだまだ大量のごみが海にあふれているのです。
「このままでは連綿と受け継がれてきた大事な漁村文化が次の世代に受け継がれなくなってしまう」と権田さんは強い危機感を抱いています。海底清掃は国の補助金によって行われますが、増え続けるごみには全く追いつきません。その対策が国頼みになっているのも、目下の悩み。「補助金がなくなったら清掃活動は中止ではなく、清掃活動自体に生産性を持たせる仕組みが必要だ」と考え、故郷の海を守るために行動を起こしたのです。
ごみを資源に!保存活動の資金づくりに奮闘
権田さんの思いに賛同した飯塚農園の飯塚太さん(35歳)は、権田さんたちが行うビーチクリーンで出た大量の藻を肥料にできないかと、自身のイチゴ畑で試験的に散布して検証しました。藻に肥料としての有効性が認められれば、処分にかかる費用が省けるだけでなく、新たな資金となる道が見えてきます。しかし、農家の飯塚さんにとっては、海水の塩害も懸念されるこの大胆なアイデアを、どうして受け入れたのでしょうか―。
「(権田さんが)こんだけ頑張りよるなら…。何かためになるんならと思って」と飯塚さん。同じように権田さんの熱意に心を動かされ、職種を越えた若い世代が今、共に海の保全活動に力を注いでいます。さまざまなアイデアを持ち寄り、「豊かな宗像の海」を子どもや孫だけでなく、先の世代にまで残していくために、今できることを模索、実践しているのです。
「僕はただの漁師なので何もできません。でも、同じ思いが一つになって、いろんな人の協力が広がれば広がるほど可能性が出てきます。横のつながりがなければ成し得ることができないので、周りの支えは何より大事だと思っています」。権田さんの故郷を思う情熱が人を動かし、その輪が広がっていくことで、いつかきっと宗像の海は美しい姿を取り戻すに違いありません。
「母なる海」を汚染するごみ問題は、私たちにとっても「対岸の出来事」ではありません。たった1つの小さなごみ、たった一度の「これくらい」で生じたごみが、海に暮らす魚だけでなく、私たち人間の生活にも大きな影を落とすということをぜひ、知ってください。
※この記事は2019年の情報です(「シリタカ!」9 月25日放送)。内容は変更している可能性があります。事前にご確認ください。