“古民家王子”の挑戦!町の“悩みのタネ”で賑わいを咲かせる!~ふるさとWishうきは市~
勇壮な耳納連山や雄大な筑後川をはじめ、豊かな自然環境がもたらす、情緒あふれる風景に魅せられ、幅広い世代に人気のうきは市。そんな町に一軒の古民家が佇んでいます。一面ガラス張りの解放感ある店内は、まるで高級リゾートホテルのような空間です。しかし、その一角にあるのは、かまど?!
実はここ、築150年の古民家を改装したレストラン「きふね」。一見、現代的なデザインを施し、大胆に変身した建物に見えますが、店内の天井には、歴史を物語る梁や柱が残され、古民家の風合いとモダンデザインが見事に融合されています。
衝撃の大変身!古民家がモダンなレストランに
きふね責任者の鍋島崇暢さんは、「来店した高齢の方は『わぁ、懐かしい!』と歓声を上げられますね」と、シニアに限らず、若いカップルやファミリーなど幅広い世代で賑わう様子に、穏やかな笑顔を浮かべます。
今や多くの人が集う「きふね」ですが、元は10年以上誰も住んでいない空き家。うきは市には、そうした空き家が現在、約750軒も存在しています(2017年2月時点)。
古い民家が残るエリアを担当する区長の足立善男さんも、「ここも空き家。あそこも違う地区に引っ越していってね…。後継者がいなければ空き家は増え続けるだろうし…」とまちの賑わいにも影響を及ぼす問題に憂いています。「所有者や地元の人だけで解決するのも限界があるし、若い人のアイデアとか、よその人のチカラも借りて何とかせんと」と足立さんは言います。
町の救世主は“古民家王子”?!
そんなうきは市で、空き家をテーマにしたセミナーが開催されました。主催者は福岡市から来た川口智廣さん。一般社団法人福岡県中央古民家再生協会の理事を務めています。「古くて価値がない建物(の売却)を不動産会社に相談しても、断られるケースがほとんどです。既存の業種では解決できないところを、我々が担っていると思っています」と川口さん。川口さんは現在、個人や企業、自治体から依頼を受け、古民家の構造上の診断を行い、隠れた価値を調査しています。
これまで600軒を超える古民家を診断してきた川口さんは、古民家のプロフェッショナルな上に、根っからの古民家好き。調査の途中も天井を見上げ、「あんな梁は、今や稀少価値が高く、どこででも手に入るものではないんですよ」とうっとり…。「100年以上の経年劣化も立派な“価値”なんです」と言う川口さんの姿に、“古民家王子”の異名も納得しました。
現在、川口さんは空き家の魅力や価値を地域活性化の資源につなげようと、うきは市と共に古民家再生のプロジェクトを進めています。「誰もが首をかしげるような物件に、もう一歩高い次元のアイデアを!」と川口さんが提案するのは、「住居」にしばられない古民家の活用です。その第一歩が、冒頭に登場した「きふね」です。
築150年以上の空き家だった「きふね」は、地元の人々からも「取り壊すべき」という声が上がっていました。しかし川口さんは、「敷地を見回った時、風景に溶け込んでいるなと感じて…。150年前からこの場所にあった建物は、地域と共にあるべきもの。残すべき風景だと感じました」と言います。
耐震補強工事や修繕費は市の補助金を活用し、設計や運営はノウハウのある企業にバトンを渡しました。そうして「きふね」は、うきは産の野菜や果物を使った料理、とくに天然水で打つ蕎麦が自慢の人気レストランへと生まれ変わったのです。
単なる「古民家」というだけでなく、きちんとコンセプトを打ち立て、そば職人歴40年の料理長を福岡市から招へい。宿泊できる部屋も完備した「きふね」の再生プロジェクト。「建物のデザインを見て、行ってみたくって」「SNSで見て素敵だなと思って」と、今では「泊まれる古民家レストラン」として注目を集め、来店客の多くが、「うきは市を訪れたのはきふねがお目当て」という人気ぶりです。
「自分たちが忘れてしまった大事なものがここにある気がします。ゆっくりした時間を過ごして、大事なものを見つけてほしいと思っています」と鍋島さん。
きふねの成功を足掛かりに、今年、うきは市では古民家を活かしたまちづくりを考える「うきは福富古民家まちづくり協議会」を発足。参加者は地元の農家や建設業関係者のほか、川口さんをはじめとする外部のチカラも積極的に受け入れ、新たな賑わいづくりを目指しています。
協議会に参加する佐賀在住の斉藤光治さんは、筑後川でのカヌーをはじめ、さまざまなアウトドアが楽しめる拠点を古民家でと企画しています。「地元の皆さんに信頼されないと何も進まないと思っています。つながりを大事にしたいですね」と斉藤さん。古民家再生は町の賑わいだけでなく、地域の人々とうきは市を訪れる人々をつなぐ、新たな架け橋にもなっているのです。
「古民家を通じて、歴史や背景があって、今の私たちが生活している、そのことにもっと多くの人に気づいてほしいですね。それに子どもたちや次の世代に、そんな場所を残してあげたいという思いもあります」と川口さん。古民家が持つ時を経た風合いこそ、町に、人に、残すべき大切なものを教えてくれるのだと言葉を結びました。
まちが抱える「悩みのタネ」が、資源となって新たに息づき、活気をもたらしているうきは市。たくさんの夢と希望を融合させた「新たなまちづくり」がプラスされ、暮らし集まる人々、そして未来の子どもたちに「笑顔」を咲かせてくれるに違いありません。
■泊まれる古民家レストラン きふね
福岡県うきは市浮羽町山北 694-1
TEL:0943-73-7380
時間:11:00~蕎麦が無くなり次第終了
定休日:火曜・第2水曜
※定休日が祭日の場合は営業、代休をとる場合もあるので詳しくはお問い合わせください
※この記事は2019年の情報です(「シリタカ!」11月7日放送)。内容は変更している可能性があります。事前にご確認ください。