“害”を“財”に!技術を継承しながら「猪の国」で獣害に立ち向かう父娘 ~ふるさとWish田川市~
福岡県田川市猪国(いのくに)。地名の通りイノシシの多いエリアのようで、地元で大豆農家をしている星野さんによると、ここ数年、イノシシやシカに作物を荒らされる被害が続いているといいます。「これだったら農業やってもね…」と星野さんはこぼします。
農家を悩ませる甚大な“獣”による被害
被害を受けているのは星野さんだけではありません。田川市では昨年、1万2000㎏の農作物が被害を受け、その被害額はおよそ260万円。深刻な問題です。そんな田川市で、農作物被害に立ち向かう父娘がいました。猟師歴30年のベテラン・市村 栄二さんと次女の舛野 雅美さんです。雅美さんは2年前に猟師資格を取り、最近では父娘二人でほぼ毎日、猟に出向いています。栄二さんの経験に基づいて猟の場所を探し、慣れた手つきで罠を仕掛けていきます。
もともと雅美さんは福岡市内で会社員などをしていたそうですが、高齢になった父の技術を継承したいと思い、猟師を継ぐことを決意。「山のことは全く初心者なので。獣道が最近やっと分かるようになってきましたけど」と、まだまだこれからと話す雅美さん。
現場に着いた二人は、ある場所に罠を仕掛けました。「セット完了!」と栄二さんの声が響きます。このあたりは「去年のイノシシ被害で全滅して、今は耕作放棄した感じ。作ってもまたイノシシにやられる、という考えではないですかね」と残念そうに話す栄二さん。耕作放棄地の増加もイノシシが山から下りてくる原因だといい、まさに悪循環に陥っている状況。「山のほうに餌が少なくなったのではないでしょうか。植林してイノシシの食べる実のなる木がないから」と、栄二さんはイノシシ側の事情についても教えてくれました。
別の場所に仕掛けていた罠を見に行くと、一匹のイノシシがかかっていました。その場所は、やはり田んぼのすぐ近く。「ワイヤーで足をひっかけ、吊り上げて喉仏からヤリを刺して」と、イノシシの仕留め方を説明してくれた雅美さん。「鉄砲で打ったら、身が傷むんです」と栄二さんも補足してくれました。つまり、“殺して終わり”ではないのです。
さらに、「慣れるものですか?」スタッフから聞かれた雅美さんは、「慣れちゃいけないかな」と一言。猟をするからこそ、命の重みも深く感じていることが伝わってきました。
捕まえたイノシシを持ち帰った先は、「ジビエ猪之国」。イノシシなどの解体・加工・販売までできる施設で、田川市が昨年、約4000万円をかけて建設しました。施設の中を見せてもらうと、そこには「金属探知機」も。「お肉に鉄砲や空気銃の弾が入っていないかをチェックするんです」と雅美さんが教えてくれました。
“害”を“財”に…広がる取り組み
仕留めたイノシシについて、「命なので無駄にはしたくない。骨まで商品化して、すべてを活用したいと思っています」と雅美さん。「“害”を“財”に」というのが、雅美さんや田川市の目指す次のステップです。
この日の雅美さん宅の夕食はイノシシ鍋。子供たちは「うまっ!」と笑顔で食べています。雅美さんのお母さんから「(お父さんの技術を)絶やすのはもったいないといつも思っていたみたい」と、父の跡を継いだ雅美さんの想いについても伺うことができました。
その想いは、徐々に地域にも広がっています。例えば、市内にある「八丁うどん」では、雅美さんが加工した肉をメニューに取り入れ、「ジビエカレー」を提供しています。店長の石下谷 英生さんは、「(イノシシが)本当にたくさんいるんですよ。だからそれを生かした料理は何かないかなと思って(カレーを考案した)。今は憎き敵ではないですね」と笑顔で話します。
「獣害は多分なくならないから。父たちの技術が、次の世代に引き継げるようになれば」とこれからの決意を語ってくれた雅美さん。技術の継承はもちろん、命の重さを伝えるため、小学校などに出向き命の授業も行っているそうです。「“害”を“財”に」という考えが広がり、田川市の皆さんにとって良い取り組み・環境になるといいですね。
※この記事は2019年の情報です(「シリタカ!」11月13日放送)。内容は変更している可能性があります。事前にご確認ください。