「絹糸の進化」(福岡県北九州市小倉北区)
100年前の手織り機を受け継ぎ、
博多織の技法で大相撲の化粧まわしの生地を織っている大野浩邦さん。
その作業工程は緻密かつ複雑で、使用される絹糸は、縦糸だけで1万5000本。
長さ7m、幅70㎝の化粧まわしを作るのに、準備で10日間、織りで5日間かかるという。
工房の中には、横糸を通す音と、縦糸を織る音が、正確なリズムで刻まれ、
夏の音と共に響いている。
昭和35年、先代の父がはじめた博多織の化粧まわし。
大野さんは、その技術を引き継ぎ、50年近く、土俵を彩る生地を織ってきた。
1カ月に2本の化粧まわしの生地を織ることもあるそう。
78歳の大野さんだが、そのエネルギーは工房に満ち溢れている。
そんな大野さんは、今、化粧まわしのほかに「ランダム布」という、
大野さんが発案した絹糸作品も生み出している。
今後は海外に展開する予定もあるそう。
そこには博多織が築いてきた絹糸の魅力と伝統を
未来へ継承するという、強い意志が存在する。
大宰府で博多織を始め、北九州市小倉南区道原に工房を移したのは、
「職人には癒しが必要だから」というシンプルな理由だった。
しかし、大野さんは道原の自然や町並みから
作品に繋がるアイデアと刺激を強く受けているという。
景色を見ていると自然がアイデアを伝えてくれるので、
それを感じ取るための能力が必要だという。
生まれついてのアーティスト、この言葉がぴったりの男性は、
100歳まで現役を続けると誓ってくれた。
※この記事は2022年の情報です(「STORY」9月11日放送)。