通いたくなるまち久留米のとっておきの隠れ家カフェ。築50年余のアパートで淹れるオーガニックコーヒーの物語。『3po cafe .home』が紡ぐ、発見と休息の時間(福岡・久留米市)【まち歩き】
久留米市小頭町の住宅街。古いアパートの細く急な階段を上ると、そこには時間がゆっくり流れる特別な空間がある。『3po cafe .home(サンポカフェ ホーム)』――有機無農薬・フェアトレード専門の自家焙煎珈琲を提供する、知る人ぞ知る隠れ家的カフェだ。
■アパートの2階に生まれた特別な居場所
引き戸を開けると、築50年を超える木造アパートの一室がそこにある。でも決して古びているわけではない。アンティークの家具や雑貨、ファイヤーキングのコーヒーカップ。まるで友人の家を訪ねたような居心地の良さが漂う。
「この階段がいいなと思ったんです」。
オーナーの上野さんは、この物件を選んだ理由をそう語る。一人で切り盛りするため、大通りではなく裏手の静かな立地を意図的に選んだという。
「東京に住んでいた時は当時からアパートをリノベーションしてお店にする人たちが結構いたんですよね。こっちはあんまりなかったので、大家さんがいいよって言ってくれて、ちょっとやってみようかなと」。
2009年の開業から17年。当時、下の階にはおばあちゃんが住んでいて、洗濯物が干されているような普通のアパートだった。それが今では、若者たちが「ここを知っている」という小さな誇りとともに訪れる場所になっている。
■ワーゲンバスから固定店舗へ――コーヒーへの道
上野さんのコーヒー人生は、移動販売から始まった。大学卒業後、東京で働いていた上野さんは、30歳を前に福岡への帰郷を決意する。
「東京は遊んだり、仕事をするのにはとてもいい場所だと思うんですけど、個人的には住む場所ではなかったので。いずれ福岡に戻りたかったんです」。
29歳で帰郷後、ワーゲンバスを購入し、移動カフェとして3年間活動。週7日のうち2日間を久留米市で営業していた。しかし、天候に左右され、福岡では出店許可が下りにくいという課題に直面する。
「雨が降ると営業できないし、当時は営業できる場所をなかなか見つけるのが難しかった。自分が全然飲食に携わったことがなかったので、修行も兼ねて固定店舗でやってみようかなと」。
こうして2009年、このアパートに固定店舗を構えることになった。ワーゲンバスは今もイベントやケータリングで活躍し、固定店舗とは違う楽しみを提供し続けている。
■「オーガニック」が通じなかった時代から
『3po cafe』の最大の特徴は、すべてのコーヒー豆が有機無農薬・フェアトレード専門であること。しかし、2006〜2009年頃、「オーガニック」という言葉自体がまだ一般的ではなかった。
「当時はオーガニックって何?という時代でした」。
もともとコーヒーが好きで、自分で豆を買って淹れていた上野さん。当時の有機豆は、焙煎度合いや鮮度の問題で美味しさを感じられなかったという。
「値段が高いので、なかなか売れてないのかなって。でも自分でやるんだったら安全で安心なものがいいなって。自分で焙煎してみたら、結構美味しかったんです」。
■焙煎する人で変わる味――自家焙煎へのこだわり
店の奥には、手入れの届いた美しく輝く焙煎機が置かれている。最初は手回しのサンプルロースターから始め、今ではパソコンに接続して温度などのデータを管理できるようになった。
「でもあくまでも参考資料でしかないんですよ。取れた年によっても違うし、湿度とか気温でも味って変わるんで、どれぐらいの焙煎度合いかっていうのは、その都度変わる」。
毎回毎回、調整しながら焙煎する。データは取れても、最終的な判断は経験と感覚だ。
「大手の豆を使った方が、自分で焙煎しなくていいから楽だと思うんですよ。でも、それだったら自分ではなくて、他の人がやればいいのかなって。同じマシンを使っても焙煎する人で味が変わるんで、そういうのもすごい面白い」。
提供するものは全て手作りで、自分が手を加えているもの。メニューは厳選されているが、一人で切り盛りするスタイルが、この店の個性を作り上げている。
■若い世代も訪れる、発見の楽しみ
最近、変化が起きている。制服姿の高校生や若い世代が訪れるようになったのだ。お目当ては人気の「オムライス」(単品税込1,080円、ドリンクセット税込1,280円)。でもそれだけではない。
「自分の時代は、西通りとか大名とかの隠れ家的なところを見つけて『あ、良かった』って自己満足なんですけど、そういう楽しみがあったんです。今そういう楽しみがないじゃないですか」。
SNSで情報が先に行く時代。行く前に店の様子がわかってしまう。
でもここは違う。階段を上って、引き戸を開けて、初めて出会う空間。その「発見」の楽しみが、若い世代にも響いている。
■休憩できる場所として
「皆さん忙しいと思うので、ちょっと休憩できる場所になってほしいなと思います。疲れたな、今日はちょっとゆっくりしたいな、っていう時に」。
静かに時を過ごす場所。アパートの一室だからこそ、住宅のような落ち着きがある。
一人でふらっと来てもいい。本を持ち込んで読んでもいい。特別な用事がなくても、ただコーヒーを飲みにくる。そんな気軽さがある。
上野さんにとって、提供するものは全て自分の手で作り上げたもの。自分の店だからこそ、こだわりを貫きたいという思いがある。
■隠れ家が紡ぐ、通いたくなるまち
古いアパートの階段を上る時、少し緊張した。でもそれが良かった。扉を開けた瞬間の「発見」の喜びは、SNSで事前に店内を見ていたら味わえなかっただろう。
高校生や若い世代が訪れ、海外からの観光客がホテルを拠点に足を運ぶ。久留米市には、わざわざ訪れたくなる小さな名店が増えている。目的地となる街、そこにしかない時間を過ごせる街だ。
階段を上り、引き戸を開ける。そこには変わらない、丁寧に淹れられたオーガニックコーヒーと、温かな空間がある。
一杯のコーヒーに、これほど多くの物語があるとは思わなかった。豆の選択、焙煎の技術、空間づくり――すべてが重なって、この居心地の良さが生まれている。
「通いたくなるまち」――それは、こうした小さな、でも確かな居場所の積み重ねから生まれるのかもしれない。
________________________________________
■『3po cafe .home(サンポカフェ ホーム)』
住所: 福岡県久留米市小頭町14-10 榎アパート2階
電話: 0942-80-4202
営業時間: 11:30〜19:00
定休日: 日曜
Instagram: @3po_cafe
https://www.instagram.com/3po_cafe/
________________________________________
■ 3po cafe .home
住所:福岡県久留米市小頭町14-10 榎アパート2階
Instagram: @3po_cafe
GENRE RECOMMEND
同じジャンルのおすすめニュース
AREA RECOMMEND
近いエリアのおすすめニュース



