
わざわざ訪ねたくなる理由がある。糸島・前原「龍上」、2代目の味と夫婦のぬくもり(福岡・糸島市)【まち歩き】

JR筑前前原駅から歩いて数分。赤い提灯がゆれる店先に、屋根の上から存在感を放つ龍の看板。初めて訪れる人にも、どこか記憶に残るような佇まいの「龍上(ロンシャン)」は、糸島・前原で40年にわたって愛されてきた“まち中華”だ。
現在の店主は林直樹さん、33歳。先代のもとで修業を積み、引退後にいちど店が他人の手に渡るも、半年で閉店。それなら自分がやるしかない——そんな思いから再び暖簾を掲げて8年目。今では、先代の味を守りながらも、自分らしい一皿を追い求める日々が続いている。

■ 看板メニューは、まちの定番
「何を食べようか迷ったら、まずは『皿うどん(税込800円)』を」。そんな声が常連のあいだで聞こえてくる。たっぷりの野菜に、エビやキクラゲ、カマボコなど海の幸もどっさり。主役は、事前に焼いてから寝かせた太麺だ。表面は香ばしく、中はもちっとした弾力。その麺が鶏ガラスープをじんわり吸い込み、甘じょっぱい味が口の中に広がる。
麺を焼いて寝かせるようになったのは、よりおいしく仕上げるため。提供スピードのためではなく、「ただ、うまい皿うどんを出したい」という思いから自然とたどり着いたやり方だという。その一皿に、2代目としてのこだわりがしっかりと詰まっている。

■ もうひとつのこだわり、『鶏のみそ炒め』
実はもうひとつ、静かに人気を集めているのが『鶏のみそ炒め(税込950円)』だ。福岡の名店「小笹飯店」のとりみそ定食に感動し、自分なりの解釈で生まれた一皿。鶏肉は軽く揚げてから炒め、味噌と砂糖で仕上げる甘めのたれがごはんとよく合う。やわらかな鶏の食感とコクのある味つけに、知らず知らず箸が進む。
「自分が食べて、うまいと思ったからつくってるだけですけどね」と店主。特別な看板ではないが、その肩の力の抜けたスタンスに、料理人としての真っ直ぐさがにじむ。

■ 呼吸を合わせる、夫婦のチームワーク
そんな厨房を支えるのは、パートナーでもある奥さま。接客も、配膳も、会話も、すべてがていねいで温かい。初めて来た人でも、ふっと肩の力が抜けるような空気をつくってくれる存在だ。
店内には小上がりの座敷席もあり、子ども連れの家族もゆったりと過ごせる。料理だけでなく、空間そのものにやさしさがにじんでいる。

休みの日は、お子さんとの時間を何より大切にしているという店主。「将来はどこかで修行させて、もし本人がその気なら…」と、次の世代への期待をふと漏らす場面もあった。味も、店も、家族の形とともに、ゆっくりと受け継がれていくのかもしれない。(写真:仲の良い店主と奥さま)
「自分ひとりじゃ絶対に回らない。夫婦だから続けられてるんです」と店主。言葉数は多くないが、料理と同じく、そのひとことにしっかりと“芯”がある。
どこか懐かしくて、でもどこにもない。そんな2代目のまち中華が、今日も扉の奥で変わらぬ湯気をあげています。糸島の街角で、心に残る一皿と出会ってみませんか?
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◼️『龍上(ロンシャン)』
住所:福岡県糸島市前原中央1丁目2−11
電話:092-332-2984
営業時間:11:00~14:30, 17:00~翌1:00
定休日:木・日曜
駐車場:あり(店舗向かい側、佐賀銀行隣)
◼️ オールタイムサービス セット 税込1,150円
・定食 一品料理又は炒め物と白ご飯(スープ付き)
・麺セット 麺類と半チャーハンか餃子
・ご飯ものセット ご飯ものと中華そばか餃子
※2025年6月取材時の価格・店舗データです。変更している場合がございます。