世界一!頂点に立っても目指すのは「町のコーヒー屋さん」『豆香洞コーヒー』が追求する毎日の暮らしに寄り添う味(福岡・大野城市)【まち歩き】

大野城市白木原、西鉄の線路沿いに佇む小さなコーヒー店『豆香洞コーヒー』。店内に一歩足を踏み入れると、焙煎したてのコーヒーの芳ばしい香りに包まれる。店主の後藤直紀さんは、2008年の開業以来、変わらぬ想いで地域に寄り添い続けている。

■高品質なのに「毎日飲める味」

「コンビニや大手チェーンも、毎日飲んで美味しいコーヒーを目指していて、実際に多くの人が毎日楽しんでいますよね。私たちは世界中から厳選したコーヒー豆を使いながら、それとは違った角度から『毎日飲める美味しさ』を届けたいんです」。

開業当初から一貫して掲げてきたコンセプトだ。個性を感じられつつも、飲み飽きないバランス。

「良いコーヒーは後口がいい。嫌な雑味がなく、クリーンな質感。マグカップで飲んでも飲み疲れない」。

その品質は、世界中から厳選した生豆の選定から始まる。手作業で欠点豆を一粒一粒取り除き、焙煎工程で雑味を抑えながら豆の良いところだけを引き出す。地道な作業の積み重ねが、あの澄んだ味わいを生み出している。

■知らないことへの恐怖心が原動力

「プロになってから、『自分は何も知らないんじゃないか』という恐怖心がずっとあるんです」。

後藤さんは静かに、しかし真剣な眼差しで語る。

もともとは缶コーヒーのヘビーユーザーだった。1日5、6本も飲んでいた頃、節約と健康のために自分でコーヒーを淹れ始めた。そこから「焙煎」という世界に魅了され、コーヒー業界のカルチャーや人々に惹かれていった。

独学で4年間勉強したが、東京の名店『カフェ・バッハ』のセミナーを受講した際に自身の未熟さを痛感。当時20代後半、仕事を続けながら新設されたトレーニングセンターに5年間通い続けた。

「できると思っていたのに、全然できていなかった。その悔しさが今も続いています」。

開業後も技術を磨き続け、2013年には世界焙煎競技会(World Coffee Roasting Championship)でチャンピオンに輝く。しかし今も、新しい焙煎技術や市場の変化を追い続ける。コンビニコーヒーの新商品も全て試飲し、トレンドを把握する。

「お客さんの『美味しい』の基準は常に変化している。知っておかないと、いつの間にかずれていってしまう」

■高度な技術を日常のコーヒーへ

チャンピオンになった後、後藤さんは一つの葛藤に直面する。

「『世界一美味しいコーヒーが飲めるんでしょ』というお客様の期待と、うちのコンセプトである『町のコーヒー屋さん』との間にギャップが生まれたんです」。
その答えは、技術の「落とし込み」だった。

「競技会で培った高度な技術を、普段提供している日常のコーヒーに活かす。筋トレみたいなものです。最大筋力をつけることで、普段の動作がより良くなる」。

看板商品の「豆香洞ブレンド」は、この哲学が凝縮された一杯だ。中深煎りで、苦味・酸味・香り・コクのバランスを重視。ブラックでも、ミルクを入れても美味しい。

「派手な特徴がなくても、ふとした時に『やっぱりこの味が好きだな』って思ってもらえる。そんなコーヒーを目指しています」と笑う。

■家で淹れても美味しいコーヒーを

後藤さんのこだわりは、店舗での提供だけに留まらない。

「家で自分のペースで、大切な人と飲む一杯の良さを届けたいんです」。

そのため、家庭でも淹れやすい焙煎を追求。店では浄水やスーパーで手に入るミルク、一般的なドリッパーを使用する。

家庭で美味しく淹れるコツを尋ねると、意外な答えが返ってきた。

「一番大切なのは、自分に合う豆を見つけること。まず好みの焙煎度合いの豆を選ぶと、ぐっと美味しく淹れやすくなります」。

そして、こう続ける。

「家で淹れる時は、あまり難しく考えすぎないでほしいんです。濃すぎたらお湯で薄める、それでいいんです。一生懸命やっている方ほど悩んでしまう。でも、リラックスして淹れた方が、飲む時も楽しめるんです」。

■大野城市という場所で

「ここに出店したのは本当に偶然なんです」。

焙煎機の煙突を理想的に設置できる物件を探し回り、たどり着いたのが白木原だった。

「当時は西鉄がまだ高架化されていなくて、沿線沿いにプランターの花が並んでいたんです。電車が通る中で、のんびりものづくりをする。その雰囲気がいいなと思ったんです」。

開業当初は苦労したが、毎年チラシを配布し続けるうちに、徐々に地域に浸透していった。

「チラシを持ってきてくれる方が多くて。『こんな近くにコーヒー屋さんがあったんですね』って言ってもらえたんです」。

大野城市は人口増加が続き、コーヒーを飲む世代が増えていった。街の発展とともに、豆香洞コーヒーも成長してきた。

「もともと、町のコーヒー屋さんになりたかった。『あなたのうちの専属焙煎士』として、ご家庭のコーヒーを任されている。そんな距離感が心地いいんです」。


■山頂の缶コーヒーに勝つために

後藤さんは、興味深い話をしてくれた。

「山登りして頂上で飲む缶コーヒーに、平地ではなかなか勝てないんです。どんなに品質を上げても、あの達成感と一緒に飲む一杯には勝てない」。

コーヒーの美味しさは、品質のランク以上にシチュエーションに左右される。

「朝一番のコーヒー、疲れた時の休憩のコーヒー。そういう日常の特別な瞬間に寄り添いたいんです」。

後藤さんは、自分の役割を「裏方」だと語る。お客さんに豆を選んでいただき、暮らしの中でそれを楽しんでもらう。そこに価値を見出している。

■地域に根ざしながら、学び続ける

18年間、大野城市で地域に根ざしながら、技術を磨き続けてきた後藤さん。

「実は、いつも不安なんです。自分が知らないことがあるんじゃないか、取り残されるんじゃないかって。でも、その不安があるから学び続けられるんです」。

世界レベルの実績を持ちながら追求するのは、派手な個性ではなく、毎日の暮らしに寄り添う普遍的な美味しさ。その一杯には、地道な技術の積み重ねと、コーヒーを愛する人々への真摯な想いが込められている。

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■豆香洞コーヒー 白木原本店
住所: 福岡県大野城市白木原3-3-1
電話: 092-502-5033
営業時間: 11:00〜19:30
定休日: 水曜、第2・第4木曜
Instagram:tokado_coffee
https://www.instagram.com/tokado_coffee/
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■ 豆香洞コーヒー 白木原本店

住所:福岡県大野城市白木原3-3-1
Instagram:@tokado_coffee

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