進化するペースメーカー
2020年08月01日
[過去の放送内容]
■概要
超高齢社会を突き進む日本…。そのスピードはますます加速していくことが予測されています。
わずか5年後の2025年には、国民の実に4人に1人が75歳以上の後期高齢者になるとされています。
そんな中、高齢者を中心に、毎年新たに4万人を超える人たちが心臓にペースメーカーを装着しています。
国内で使用が始まってから半世紀以上の歴史を持つ心臓植え込み型の医療機器ですが、近年目覚ましい改良が続けられています。
今回、進化するペースメーカーについてお話を伺ったのは、
産業医科大学 医学部 不整脈先端治療学 教授の安部 治彦(あべ はるひこ)先生です。
■ペースメーカーとは
ペースメーカーとは、徐脈性不整脈(※脈が遅くなる不整脈)で起こる失神やめまいといった症状を防ぐために使われる医療機器です。
1年間に国内では4~4万5千人の患者さんが新規にペースメーカーの植え込み手術を受けています。
■ペースメーカーの仕組み
ペースメーカーは、本体と“リード”と呼ばれる管からなり、本体の中には集積回路と電池が入れられています。
手術で本体を胸元の皮膚の下に植え込み、リードの先端を、血管を介して心臓内の右心房と右心室にセットします。
そして患者さんの心臓を24時間チェック。脈が遅くなったときには電気信号で刺激を行って正常な働きに戻します。
■ペースメーカーの今後
現在、国内のペースメーカー装着者は25~40万人といわれていますが、そのほとんどが65歳以上の高齢者で、
今後も高齢化が進むため、ペースメーカーの患者さんはますます増えていくと思われます。
■ペースメーカーの最近のトピックス①
ひとつは「MRI検査対応型の登場」です。ペースメーカーは電気信号を送って働く性質上、磁力線の影響をかなり受けます。
医療機関ではMRI検査が該当します。MRIとは強い磁石と電波を使って臓器や骨などを写し出す検査です。
脳卒中や、脊柱管狭窄症など整形外科領域の疾患、さらには がんなどの診断に広く使われています。
しかしMRIが発生する強力な磁力や電波によってペースメーカーが誤作動を起こしたり、
リードが発熱したりする恐れがあり、これまでペースメーカー装着者はMRI検査を受けることができませんでした。
ところが最近、機械の改良により条件付きではあるものの、ペースメーカーの患者さんでもMRI検査を受けられるようになりました。
■MRI検査を受けられる意義
ペースメーカーの植え込み手術を受ける患者さんの平均年齢は77~78歳と、後期高齢者の方が非常に多いです。
ペースメーカーの患者さんも高齢になるにつれて、いろいろな病気を合併してくるケースがあるので、
MRI検査を受けられるということは非常に大きな進歩だと考えています。
■MRI検査の補足
ペースメーカー装着者がMRI検査を受けるのには、本体とリードがMRI対応型であることなど、いくつか条件があります。
また、今のところMRI検査を実施できるのは、必要な講習を受けた循環器科医や放射線科医などがいる医療機関に限られています。
■ペースメーカーの最近のトピックス②
もうひとつは「遠隔モニタリングシステムの登場」です。
これまでペースメーカーの患者さんは医療機関に出向いて、不整脈が出ていないかなど、定期的なチェックを受けていました。
しかし最近では遠隔モニタリングシステムによって、自宅から医療機関へ情報をほぼリアルタイムで送ることが可能になりました。
異常があればすぐ医療機関の主治医へ連絡が行くということで、“異常の早期発見”という面でも大きな役割を果たしています。