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命を懸けて遺したもの

2023年03月25日

[佐賀県]

一ノ瀬泰造(4)

アンコールワットに潜入直後、消息を絶った一ノ瀬。
安否不明のまま3年半が経ち、佐賀県武雄市の両親のもとに届いたのは大量の写真用フィルムでした。

生前、一ノ瀬は母に宛てた手紙にこう書いています。

「好きな仕事で命を懸けられるのだから、シアワセな息子が死んでも悲しまないで」

我が子のために何をすべきか?
考えた末、両親は膨大なフィルムの現像を始めます。
その数は、なんと2万枚以上ありました。

自宅に設けた暗室で現像を続けた2人は意外な写真を見つけます。
それは戦地で暮らす人たちが束の間に見せた笑顔でした。

一ノ瀬が生まれたのは、終戦後の昭和22年のこと。
彼が育った平和な時代とはかけ離れた戦火の光景を記録に残そうと必死だったのかもしれません。

彼がこの世を去って半世紀が経った今も、戦争はこの世界からなくなっていません。
命を懸けて遺した写真の数々は無慈悲な現実を捉えた彼の声なき声なのです。

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