過去作の“猿マネ”ではな~い! 『猿の惑星/キングダム』
2024年05月13日
[薫と有紀の日曜日もダイジョブよ!]
この作品のさらに詳しい情報はコチラ→https://www.20thcenturystudios.jp/movies/kingdom-apes
受け取った試写会招待状の差出人は“ウォルト・ディズニー・ジャパン”だった。
あのシンデレラ城が象徴の“夢と魔法の王国”なのに、同じ王国(キングダム)でも“猿が支配する王国”を描くのはピンとこない。ただ制作したのは、このシリーズの権利を持ったまま2019年にディズニーの子会社になった“20世紀スタジオ(20th Century Studios, Inc.)”なので、ディズニーはあくまでも映画の公開やPRを担当する配給会社だ。
では、はじめてディズニー配給となった“SF映画史に残る神話的名作シリーズの完全新作”はどうだったか…SF世界の設定、アクション映画としての完成度、第一作へのリスペクトに極めつけは“内に秘めたる社会性”など何拍子もそろった秀作。しかも、そのいずれもが満点に近い。
VFXは、猿を演じる俳優の表情をステレオペアの小型カメラで撮影する最新技術で、CGだと強調しないとアカデミー賞Ⓡで「視覚効果賞」ではなく「メイクアップ&ヘアスタイリング賞」の候補になってしまうほどの仕上がりだ。その自信の表れで、いずれの猿も表情のアップが多い。
見終わってすぐに、監督・脚本・プロデュースに名を連ねる面々を調べたが、監督(プロデュースも)は、あの『メイズ・ランナー』シリーズのウェス・ボールだった。よく思いついたな~と感じる高度な設定で、たいへんなアイデアマンだとわかる。今後制作が予定されている実写版『ゼルダの伝説』の監督に起用されたというニュースにも納得だ。
“完全新作”と書いたが、監督は「(リブート版の3作目で)2017年に『猿の惑星:聖戦記(グレート・ウォー)』のタイトルで公開された前作から300年後の設定だ」と20世紀スタジオ公式HPのインタビューで明言している。
そのリブート版3部作に登場した高度な知能を持つ猿シーザーの名前も出てくるから過去作との関連がまったくないわけではない。ただ、共通点は“猿が支配する惑星が舞台”というだけの完全なオリジナル作品なので、事前情報なしでも全く問題はない。
本作の主人公は発展途上とおぼしき若い猿ノア。冒頭、仲間のアナヤとスーナの3匹によって自分たちの生活の一部が描かれる。それは日本で言う“鷹匠(たかじょう)”のようなもので、時間をかけた丁寧な説明だな~と思っていたら、これが後から大きな意味を持つようになる。
舞台となった惑星では人類が退化して森の奥や動物園にいた猿との立場が逆転しているが、そこに猿からノヴァと呼ばれる人間の女性が現れる。いやはや、1968年の第一作でリンダ・ハリソンが演じた人間の役名もノバ(Nova)だった。
ある日、ノアの家族を含む一族がある不幸に襲われ、仲間たちがどこかに連れ去られる。ところがノヴァは、彼らの居場所はわかっていると語り、彼女が退化した人類の中で特殊な存在だと示唆される。
ここからが後半で、第一作にも登場した不穏な映像&サウンドとともに“キングダム”への扉が開く。そこではある猿の種族が強大な王国を築こうとしていた。演説を始めたその独裁者を思わせるリーダーは、今にも「MAGA」ならぬ「MGGA=メイク・ゴリラ・グレート・アゲイン」と言い出すのではないかというキャラ設定なのだ。
ここまでくると、いくらニブイ自分でも登場する猿や人間に加え、描かれる出来事にも何らかの別の意味があるのでは…と思えてくる。
その感覚は終盤に向かってさらに高まり、他の解説にもあるように“人間の女性に隠された秘密”とか“この惑星の驚くべき真実”としか書けない急展開を見せる。
それは、ただ面白くしちゃおうという演出ではない。第一作で主演のチャールトン・ヘストンが全身全霊で演じた最後のシーンに通じる“人間の怖さ”や“人間の愚かさ”がテーマとして浮き彫りになるのだ。
気になるエンディングはぜひとも映画館で体験してほしい。自分は、閉園時間を迎えた東京ディズニーランドⓇからシンデレラ城を背にして出ていく時の感覚に加え“地球上の争いのニュースの洪水”が押しよせる現実にもどるのか~という気持ちになった。
※この作品は5月10日(金)からユナイテッド・シネマ キャナルシティ13、T・ジョイ博多、TOHOシネマズららぽーと福岡、ユナイテッド・シネマ福岡ももち ほかで大ヒット上映中です。