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【硯職人❶】「硯の海」堀尾信夫さん・高原祐二さん

2026年08月30日

「硯の海」と和歌に詠まれる関門海峡。
その海辺のまち山口県下関市で、江戸時代以前から受け継がれてきた伝統工芸品が『赤間関硯(あかまがせきすずり)』です。
下関市に唯一残る硯工房『玉弘堂』の3代目・堀尾信夫さん(83)が手がけるのは、“縁(ふち)のない硯”です。
硯は、墨をする「陸」、墨をためる「海」、墨の漏れを防ぐ「縁」で構成されますが、「縁がないほうが硯が大きく見え、美しさが際立つ」という理由から、父の代より縁のないデザインを追求しています。

美術品としての評価も高い美しさを持つ硯ですが、堀尾さんは「硯は使われてこそ、墨がすれてこそ意味がある」と語ります。
堀尾さんが追い求めているのは、道具としての実用性に、美しさが調和した“用の美”です。
一度や二度落としても長く使い続けられるよう、側面には原料である赤間石の質感をあえて残しています。
一度購入すれば親子代々で使い続けられるという、職人ならではのこだわりが込められています。

37年前、下関市の職員ながら、堀尾さんに師事してきたのが、高原祐二さん(69)です。
「師匠の作品を見たときの衝撃が忘れられない」と技術に惚れ込み、弟子入りが叶うまで1年間工房へ通い続けました。
以来、一番弟子として妹弟子の中村一姫さん(40)とともに、堀尾さんの技と心を継承しています。

堀尾さんが未来に残したいのは、関門海峡の風景です。
「硯の海」と称されるこの地で、歴代の硯司たちが情熱を注いできた歴史に思いを馳せ、「この場所があったからこそ、硯を作り続けてこられた」と振り返ります。
関門海峡をモチーフにした作品を手がけたこともあるほどで、この海こそが堀尾さんにとって一番の規範であり、インスピレーションの源となっています。

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