「もったいない」から始まる森づくり革命!「京築(けいちく)ブランド館」が描く6次産業化の未来(福岡・築上町)【まち歩き】

福岡県築上町にある『京築(けいちく)ブランド館』は、単なる木材販売店ではありません。「もったいない」の精神を軸に、山から消費者まで一貫した森林資源の活用を目指し、30年も前からSDGsの理念を実践してきた先駆的な取り組みを続けています。店長である豊築森林組合の神﨑さんに、その理念と未来への展望を伺いました。

■30年前から取り組むSDGsの先駆け

「SDGsなんて最近表立ってきましたが、私たちは30年前からやっているんですよ」と話す神﨑さん。京築ブランド館の根幹にある「もったいない」の精神は、今でこそ注目されるサステナブルな取り組みの先駆けとも言えます。

その背景には、山の価値が見失われている現状への危機感があります。「昔は山を持っていたら財産持ちだったけれど、最近はどんどん山への関心が薄れていて」。
しかし神﨑さんは、山の真の価値を強調します。「本当は山はすごく大事なんです。環境や災害、水にしても、さまざまなことに山が関わっています。最近の災害の原因も、魚が取れなくなるのも、根本的には山の問題です」。

■植林から販売まで、森林組合による一貫体制

京築ブランド館を運営する豊築森林組合の特色は、植林、伐採、加工、製品化、販売という全工程を一貫して担うことです。「森林組合が植えて、切って、育てて、切って、加工して、作って、売ってまで、全部一通りやったらすごいですよね」と神﨑さんは説明します。

この一貫体制により、通常なら廃棄される端材まで有効活用し、付加価値の高い商品として生まれ変わらせています。工場で出た端材を持ち帰り、手作業で小物や家具に加工し、「捨てるような木でもちゃんと売り物になる」ことを実証しています。

■京築ヒノキの特色と土壌の関係

京築地域で育つヒノキには、独特の特徴があります。「京築地方は痩せた土地が多く、同じ大きさになるのに、他地域では20年かかるところ、こちらでは35年かかります。その15年の違いで年輪幅が細かくなり、強度が違ってくるのではないかと考えています」。
土壌の違いも木材の色合いに影響します。「黒い土がなく、赤っぽい土や白っぽい土が多いので、それが木材にも反映され、薄いピンクから濃いピンクまで様々な色合いが生まれているのではないかなと」。
今後このような感覚的な特徴を科学的に裏付けるため、強度試験などのデータ収集を進める予定で、「実験したデータがあれば、もっと価格や品質を向上させることができる」と期待を込めます。

■地域連携と体験重視の取り組み

京築ブランド館では、地元の大工や木工作家70人と連携し、委託販売の仕組みを整備しています。「お客さんの要望に応じて、各得意分野の職人に作業を依頼する仕組み」が確立され、まさに「駆け込み寺」のような存在に。
「築上町物産館 メタセの杜」の隣という立地の良さも活かし、「毎日100人程度、休日には300人近くの来客」があります。また口コミで評判が広がり、本州からの来客も多く、リピーターも多いということです。
体験イベントにも力を入れていて、「丸太切りや端材活用、竹馬作りなど昔の遊び体験では、大人の方がムキになる」と笑顔で話します。

■森からのおくりもの事業

今年から築上町の新しい取り組みとして、町内で生まれた赤ちゃんに京築ヒノキを使った木のおもちゃを贈呈する事業が始まりました。「ままごとセット、スロープトイ、積み木、机と椅子セット、乳歯の保管ケースの5種類を準備し、今年生まれた人限定でカタログから選んでもらう」仕組みです。
「一番最初に触れるのが地元の木というのは、とても意義深いことです」と神﨑さんは語ります。

■6次産業化の理想と課題

森林組合による6次産業化は形としては完成していますが、課題も残ります。「一本の木全体を活用して加工・販売していますが、そういうものがまだきちんと所有者さんや木材の金額に反映されていません」。
理想は、ブランド化により付加価値が向上し、「今1500円や2000円の製品が5000円で売れるようになれば、山の所有者にもより多く還元できる」ことです。

■自然体験の教育的価値

神﨑さんは、現代社会の問題の根本に、自然体験の不足があると考えています。「子どもの時から自然に触れることで、人間本来の感情をコントロールする力が身につくのではないかなと。都会の若いお母さんたちが、わざわざ子どもに野菜収穫や稲刈り体験をさせたがるのも、そういう本来の体験の大切さを感じているからでしょう」。

■未来への展望
京築ブランド館の取り組みは、単なる木材販売を超えた社会的使命を担っています。「利益はないけれど、世の中への使命感で運営している」と語る神﨑さんの言葉からは、次世代への責任感が強く感じられます。
「もったいない」から始まった取り組みが、今や地域資源の持続可能な活用モデルとして注目されています。山の価値を見直し、自然との共生を取り戻す―京築ブランド館の挑戦は、これからの地域づくりのヒントを示しています。

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■『京築(けいちく)ブランド館』
住所:福岡県築上郡築上町弓の師729
電話:0930-53-1155
営業時間:9:00~18:00
定休日:2月・5月・7月・9月・11月の第2水曜
Instagram:@keichiku.brandshop
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