新時代の写真家が挑む地域に根ざす写真館の新たな役割『ひさやま写真館』が未来へと繋ぐ、久山町の文化と家族の記憶(福岡・久山町)【まち歩き】

■元スノーボーダーから写真家へ、そしてひさやま写真館の誕生

福岡県久山町に、従来の写真館とは一線を画す活動を展開する『ひさやま写真館』がある。代表を務める中山淳平さんは、元々スノーボードのプロを目指していたが、怪我をきっかけに写真の道へ進んだ。「友人がフリーランスのウェディングフォトグラファーで、仕事を紹介してくれたんです。接客販売の経験があったので、コミュニケーション面では問題ありませんでした」。
約10年のキャリアを積んだ中山さんが転機を迎えたのは、コロナ禍だった。結婚式の仕事がなくなる中、10年住み続けている久山町の魅力を改めて発見する。「町の97%が市街化調整区域で、60年ほど前に人口8000人規模のまちづくりが計画されていたことに、とても興味を抱いたんです」。
その時、中山さんは重要なことに気づいた。「久山町は同じ日に6〜7個の祭りが地域ごとに開催される。町に写真館がなく、祭りの記録も一部を切り取って広報誌に載るくらいなのかなと。町の記録をしっかり残した人がいないんじゃないかと思ったんです」。こうして約5年前、地域の歴史と文化を残すという使命を込めて『ひさやま写真館』が誕生した。

■単なる撮影業から、人とのつながりを重視する仕事へ

中山さんの哲学は明確だった。「クライアント案件は、コロナのような時には全てなくなってしまったり、いつだって打ち切られる可能性がある。一人ひとりと直接つながる仕事を大切にしていきたい」。家族写真を中心とした直接的な関係性を重視し、クライアントワークとは異なる持続的なビジネスモデルを構築した。
撮影スタイルも独特だ。キラキラした写真館のトレンドを追うことはせず、「人にフォーカスする」ことを重視。撮影場所についても、「久山町への思い入れがない人がわざわざ久山で撮る意味はない。その人たちの思い出の場所、自分たちの家の前でもいい」と語る。
「ある有名な場所では土日に結婚式の前撮りが1日に5-7組行われるんです。同じような写真になりがちで、個性が出しにくいと感じています。自分に撮ってほしいと思う人を増やすことを大切にしていきたい」。

■農業・林業への参画が生む、新たな価値観

中山さんの活動は写真撮影にとどまらない。3〜4年前から米作りを始め、地域住民の協力を得ながら自分たちが食べる米や野菜を栽培している。さらに注目すべきは、林業だ。
久山町猪野地区の財産区では、森林組合に委託せず住民自身が林業を運営している。「これは非常に珍しいケースで、九州大学の論文にもなるほどです」と中山さんは説明する。財産区とは市町村の一部に存在する「財産」や「公の施設」を管理・処分するために設けられた、法人格を持つ特別地方公共団体を指す・この地区ではコロナ禍を機に自分たちで重機を購入し、伐採や間伐を主体的に行うようになった。
「町の山や土地を手入れして守り、その水がお米や野菜作りにつながる循環に関わりたかった」。現在の参加者は60歳代の区長を筆頭に50代の方が中心で、若い世代の参加は新しいアイデアや活動継続への期待が寄せられている。
これらの多様な活動が写真にもたらす影響について、中山さんは「いろんなことを見ないといろんなことがわからない。いろんな価値観を吸収することによって、写真に対しても影響がある」と分析する。

■消えゆく伝統を記録する使命

中山さんの地域記録活動は、久山町独特の伝統行事に焦点を当てている。大晦日と年明けの「上久原白山神社獅子舞」、柿の葉を10,000枚奉納する「中久原祇園祭」の万度参り、お盆最終日のご先祖様を送る「上山田盆綱引き」など、他地域では失われつつある文化が今も息づいている。
「これらの行事を一部始終撮っている人はいません。町の広報も部分的にしか記録しない」。撮影した写真は地域のコミュニティスペースや西日本シティ銀行久山支店で展示し、地域住民に町の文化の価値を再認識してもらう機会を提供している。
しかし課題もある。「地元から出たことのない人や若い世代は、子どもの頃からある行事を『当たり前』と捉え、その貴重さを認識していない」。後継者不足や運営の困難さから、将来的に祭りを続けることが困難になる懸念もあると中山さんは語る。

■自由料金モデルに込められた価値観

中山さんのユニークな取り組みの一つが「自由料金制撮影」だ。このシステムは、価格を顧客が決定する画期的な仕組みだ。
「金銭的価値だけでなく、コミュニケーションやつながりを重視したかった。美味しい料理でも作る人の人柄が悪ければ行きたくないが、人柄が良く会いたくなる人なら料理の味に関わらず行くでしょう。人との繋がりに価値を払うべきだという思想です」。
開始直後にSNSで拡散され、1週間で200〜300人が来場。先日も福岡市植物園のイベントにて開催され、好評だったという。

■家族の「今」を未来への贈りものとして

中山さんが最も大切にするのは、かけがえのない瞬間を残すことだ。「家族写真は生きている時にしか撮れない。元気なうちに撮っておくべきです」。正月の親族の集まり、寝たきりの祖母の自宅での撮影、餅つきイベントでの集合写真など、依頼は多岐にわたる。
「そこでしか撮れない、今しか撮れない瞬間を撮影することに大きなやりがいを感じています。感情や思い出といった目に見えないものを大切にする、それが写真の重要な役割だと考えています」。

■50年、100年続く写真館を目指して

中山さんの展望は明確だ。「バズることは望まない。50年、100年と長く静かに写真館を続けていきたい。自分の子どもが継がなくても、名前と写真が残り続けることが理想です」。
街の風景を撮り、残していくことが最も根幹にある欲求だと語る中山さん。「現状維持は絶対衰退していく。新しいことをやっていかないと残すものも残らない」との信念のもと、地域に溶け込みながらも革新的な取り組みを続けている。

■地域に根ざした新たな挑戦:妻と母が営む惣菜店

中山さんの多角的な活動は写真や農業、林業にとどまらない。2025年6月から奥様が中山さんの母親と共に手作り惣菜店『つきみ』を開始した。隔週月曜日の夕方、久山町のカフェ『いちしろ』で提供を行っている。
「この辺りには店が少なく、特に車の運転ができない高齢者はスーパーまで行くのも大変です。需要は絶対にあると思った」と中山さんは語る。コロッケ、唐揚げ、春雨の酢の物、豚軟骨とこんにゃくの煮物など、家庭料理を中心としたメニューを、量り売りするスタイルで提供している。
「子育て中の母親にとって、おかずを1品増やす手間が省けるので非常に助かると言ってもらえます。少しでも地域の人たちが楽になれば」。現在はタイミングの問題で継続的な営業は難しいというが、写真館と同様に地域住民の暮らしに寄り添う姿勢が一貫している。

■未来への贈りもの

久山町という豊かな自然と歴史ある文化の中で、中山さんは写真を通じて人と地域をつなぐ架け橋となっている。単なる記念撮影ではなく、その瞬間に込められた想いや歴史を未来へと繋ぐ——それが「新しい写真のかたち」なのかもしれない。

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■『ひさやま写真館』
住所:福岡県糟屋郡久山町猪野656-1
TEL:080-1720-6541
営業時間:10:00~17:00
定休日:不定

Instagram:@hisayama_shashinkan
https://www.instagram.com/hisayama_shashinkan/

公式HP:https://www.hisayama-shashinkan.jp/

■ ひさやま写真館

住所:福岡県糟屋郡久山町猪野656-1
URL:https://www.instagram.com/hisayama_shashinkan/

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