大牟田リノベのシンボル!吊り革の残る昭和の路面電車がカフェに!『hara harmony coffee』が伝える、まちの記憶と新しい物語(福岡・大牟田市)【まち歩き】
西鉄大牟田駅前広場に、一台の路面電車が静かに佇んでいる。
昭和27年に現役を退いたこの電車は、かつて炭鉱で栄えた大牟田のまちを縦横に走り、市民の足として愛された存在だった。その後、児童図書室として第二の人生を歩み、2011年に市民有志「204号の会」によって大牟田へ里帰り。そして2021年3月、カフェ『hara harmony coffee』として、また新たな物語を紡ぎ始めた。
この路面電車カフェは、単なる観光スポットではない。大牟田という地域に根付く「リノベーション文化」の象徴であり、まちの記憶を継承しながら新しい価値を生み出す実験場なのだ。
■歴史を残し、新しさを加える——DIYリノベという哲学
『hara harmony coffee』を運営するのは、大牟田ビンテージのまち株式会社。代表の冨山氏は、この路面電車のリノベーションについてこう語る。
「当時の記憶を残しつつ、DIYリノベを実施しました。吊り革や座席、運転席や照明など、残せる部分を残した、歴史と新しさがちょうどいい空間になったかと思います」。
車内に足を踏み入れると、確かにレトロな吊り革や運転席がそのまま残されている。しかし、綺麗にリノベーションされた座席やカウンターとの融合が、まるでタイムスリップしたかのような独特の雰囲気を作り出している。
実際に当時、この電車に乗って通勤・通学していたというおじいちゃんやおばあちゃんが訪れ、思い出話を聞かせてくれることもあるという。路面電車という「箱」が、世代を超えた記憶の継承装置として機能している。
■56年間愛されたコーヒーの味を、次の時代へ
店名の『hara harmony coffee』には、特別な意味が込められている。
大牟田市本町の銀座通り商店街で56年間愛され、2019年に惜しまれつつ閉店した老舗喫茶店『コーヒーサロンはら』。その味と文化を引き継ぐべく誕生したのが、このカフェだ。
「コーヒーサロンはらさんのコーヒーは、当時も、はらさんの娘さんがコーヒー豆を焙煎されていて、僕らも娘さんに焙煎頂いたコーヒー豆を頂いています。はらさんから、コーヒーの淹れ方を教わりもしました」。
しかし、継承されたのはコーヒーの味だけではない。『コーヒーサロンはら』の店主は、日本フィルハーモニー交響楽団の大牟田事務局の事務局長を務め、毎年2月に大牟田文化会館でオーケストラのコンサートを主催していた。音楽で大牟田を元気にしたいという想いを引き継ぐべく、『hara harmony coffee』ではカフェの売上の一部を「大牟田日本フィルの会」の運営費に充てている。
店名の由来もここにある。コーヒーサロンはらの「はら」と、日本フィルハーモニー交響楽団の「ハーモニー」を組み合わせた『hara harmony coffee』という名前には、味と文化、そして想いの継承が込められている。
「ホットコーヒー マイルドブレンド 」(450円税込)
■大牟田に根付く「リノベ文化」のエコシステム
『hara harmony coffee』の背景には、大牟田というまち全体に広がるリノベーション文化がある。
大牟田ビンテージのまち株式会社は、路面電車だけでなく、市内の複数の空き店舗や空き家をリノベーションし、新たな価値を生み出してきた。その哲学は明確だ。
「私達は、空き家や空き店舗を街の資産ととらえ、取り壊して建て替えるのではなく、ワインやジーンズのような、歴史や時間、記憶に価値があるのではと考えています」。
DIYリノベのテーマは「自分たちの欲しい暮らしは自分たちで作っていこう」。建物やコーヒー、文化を地域のみんなを巻き込み、協力を得ながら進めてきた。
この取り組みは孤立したものではない。冨山氏はこう語る。
「同じ大牟田市の『taramu books and cafe』の村田さん(旦那さん)が、デザインや設計ができる方で、一緒にチームを組んで空き店舗のDIYや街づくりを進めています。また、そこに大牟田市さんや大牟田商工会議所さん、宅建協会さんなど、色々な方の協力や連携により根付いてきたのかもしれません」。
書店『taramu books』を営む村田氏のように、デザインや設計の専門性を持つ人材が協働し、行政や商工会議所、宅建協会といった多様な組織が連携する——大牟田のリノベ文化は、こうしたエコシステムの中で育まれてきた。
■炭鉱のまちから、わかものが挑戦できるまちへ
かつて炭鉱で栄えた大牟田。その建物や文化を活かしながら、新しい価値を生み出していく。この「まち文化としてのリノベ」が、大牟田の未来にどんな可能性をもたらすのか。
冨山氏はこう展望する。
「現在、大牟田わかもの会議といった、10代から30代のわかものの活動が地域に広がっています。新しい事にチャレンジしても、町のみんなが寛容し、受け入れ、挑戦できる風土や雰囲気ができて行っています。リ・イノベーションがおきやすく、わかものが楽しく暮らせる未来がありそうです」。
実際、2015年には20店舗だった銀座通り商店街周辺の営業店舗・事務所等は、2020年には32店舗まで増加。DIYリノベーションによって開業した店舗は、地域住民やイベント参加者のファン層に支えられ、開業時から盛況だった。成功事例を目にした出店希望者が次々と現れ、既存店舗の一部を分割して出店するほどの人気エリアとなっている。
「たまご」( 450円税込) 、「キウイ」( 550円税込)
■地産地消が生み出す、地域内循環
『hara harmony coffee』では、地域の食材を使ったフルーツサンドも提供している。生クリームはオーム乳業から、サンド用の丸型食パンは石窯ぱん工房どんぐりの樹から——主に大牟田市内の事業者から仕入れを行い、地産地消に力を入れている。
クリームも具材もたっぷりのフルーツサンドは、レトロな路面電車とベストマッチ。テラス席で味わえば、駅前広場の雰囲気とともに、大牟田の「今」を五感で感じることができる。
【メニュー】
・「たまご」( 450円税込)
・「キウイ」( 550円税込)
■全国に広がる、大牟田のファンづくり
大牟田ビンテージのまち株式会社の取り組みは、地域内にとどまらない。
令和2年7月豪雨の際には、支援物資の整理・分配のボランティアを取りまとめた。その活動を通じて、冨山氏は日本全国に大牟田を気にかけてくれる人がいることに気づき、関係人口を増やして「大牟田に閉じない経済圏」を作ろうと考えた。
そこで始まったのが「マルシェのがっこう」という取り組み。マルシェを軸に全国の人々とつながりを作り、大牟田への来訪機会を持ってもらうために、マルシェの開催やマルシェ屋台制作DIYワークショップ、全国のマルシェ実践者による勉強会を実施している。
資金調達にはクラウドファンディングを活用。クラウドファンディングは資金調達だけでなく、活動開始前から全国に情報を発信し、ファンを獲得する効果も発揮したという。
■建物・ミセ・モノ・ヒトのリノベーション
路面電車204号は、単なる建物のリノベーションではない。コーヒーサロンはらの味と文化の継承、大牟田日本フィルの会の活動拠点としての役割、地域事業者とのネットワーク形成——建物だけでなく、ミセやモノ、そしてヒトのリノベーションが、この小さな路面電車の中で静かに進行している。
「古くて新しい」をコンセプトに掲げる『hara harmony coffee』は、大牟田のリノベ文化を象徴する存在だ。歴史を大切にしながら新しい価値を生み出し、地域の人々を巻き込み、全国にファンを広げていく。
炭鉱で栄えた時代から、次の時代へ。大牟田のまちづくりは、路面電車のレールのように、過去と未来をつなぎながら進んでいく。
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■『hara harmony coffee』
住所::福岡県大牟田市久保田町2丁目300番(大牟田駅西口駅前広場 路面電車204号内)
電話:0944-57-2042
営業時間::9:00~18:00(フルーツサンドの販売は11時から)
定休日::火曜(祝日の場合は翌日)
Instagram:@haraharmoneycoffee
https://www.instagram.com/haraharmonycoffee/
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■ hara harmony coffee
住所: 福岡県大牟田市久保田町2丁目300番
Instagram:@haraharmoneycoffee
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