【2/27~3/1】佐賀つくるまちの開放日!「世の中を明るくしたい」終戦から80年、土鈴に込めた想い『のごみ人形工房』で出会う郷土玩具の未来(佐賀・鹿島市)【まち歩き】

鹿島市能古見地区にある『のごみ人形工房』。カラカラと鳴る土鈴の音が響く工房で、三代目の鈴田清人さんが語ってくれたのは、戦後から80年続く家族の物語だった。


■戦地から帰還した祖父の想い

「祖父は28歳の時、派兵先の中国で病にかかり除隊。闘病生活を経て終戦を迎えました。そのまま南下した部隊はほぼ全滅していて...」。

清人さんが静かに語る祖父・鈴田照次さんの戦争体験。20代を「無駄にしてしまった」という悔恨を抱えながら帰郷した照次さんは、戦後の混乱と飢えの中で、ある決意を胸に刻んだ。

「世の中を明るくしたい。人々に潤いと楽しみを届けたい」。

その想いが、のごみ人形の原点だ。

当初は木切れを拾って作った小さな玩具だった。地元の郷土芸能「面浮立」やカチガラスなど、佐賀のモチーフを木片に描いた素朴な作品。それが資料館に今も大切に保管されている。

「木製だと量産ができないことと、祖父自身が『鹿島のお土産がない』と気づいて、祐徳稲荷神社の宮司さんに相談したところ『ぜひ』とのお声がけもいただき、土物のお土産として作るようになったんです」。

有田の佐賀県窯業試験場に嘱託として携わり、焼き物の絵付け指導にあたっていた照次は、石膏型での成形についても知識があった。その経験が、土鈴という形へとたどり着く礎になる。神事に使われる鈴の「魔除け・清める」意味を込めながら、丸みを帯びた愛らしいフォルムと鮮やかな色彩で、参拝客の心を明るく照らす玩具を生み出していった。

■人間国宝を生んだ探究心

工房に併設された染織資料館には、照次さんのもうひとつの偉業が展示されている。一度途絶えた「鍋島更紗」の復元だ。

「40代後半から更紗の研究を始めて、インドまで渡り現地の技術を調査しました。インド渡航にあたっては、当時、インドに行く人はあまりいなかったので、佐賀新聞社から『インドへ行かれるのであればぜひお願いしたい』と特派員という形で委嘱を受け、現地からの記事も寄稿したそうです」。

木版と型紙を併用し、継ぎ目を見せない緻密な技法。その植物モチーフの美しい染織作品は、息子の鈴田滋人さん(二代目)へと受け継がれ、滋人さんは2008年に重要無形文化財保持者(人間国宝)に認定された。

「戦争で20代を失った悔しさが、帰ってからの爆発的な創作意欲につながったんだと思います。郷土玩具も、染織も、すべて『やりたいことをやる』という祖父の生き方でした」。

戦地で描いたスケッチも残っている。南下する際の身辺整理で託されたという図工の先生らしい細密な植物画からは、どんな状況でも創作への情熱を失わなかった照次さんの姿が浮かび上がる。


■三代目が紡ぐ「背中を押すメッセージ」

「物心ついた頃からこの工房に遊びに来てました。でも継ぐって意識したのは大学進学の時です」。

24歳でこの道に入った清人さん。既存の型を守りながらも、現代に響くメッセージを込めることを大切にしている。

「例えば馬。よく『うまくいく』って言われますけど、私は違う意味を込めてます。馬って、人の感情を読み取る動物として知られていますよね。つまり『信頼』の象徴なんです。人から信頼される行動をすれば、理想の場所へ行けるはず。そういう背中を押すメッセージを届けたいんです」。

縁起物を「縁を起こせるよう背中を押したい」として再解釈する。牛、ミミズク、カチガラス、タヌキ、カッパ...約50種類の人形それぞれに、前向きなメッセージが込められている。

「郷土玩具は『愛でるもの』なんです。だから色は鮮やかで、フォルムは丸く。気持ちが明るくなるデザインが大事なんです」。

■職人3人が守り続ける伝統

工房では現在、3人のスタッフが分業体制で年間約5,000個を手作業で制作している。成形から焼成までを担当するスタッフ1名と、絵付け以降を担当するスタッフ2名。清人さんは監修とサポートを行う。

「一番気をつけているのは、模様の意味を守ることです」。

清人さんが見せてくれたのは、ネズミの土鈴。

「ヒゲって、根元が太くて先端が細いですよね。でもこれをただの棒線で描いちゃうと、それを見本にした次の人がもっと簡略化して...最終的には3本線になっちゃう。四角の角も、代々丸くなっていって、いつか丸になってしまう」。

デザインの「劣化」を防ぐため、線の一本一本に込められた意味を理解し、厳密に継承する。それが80年の歴史を守る職人の矜持だ。

大牟田の山の粘土と天草の磁土を混ぜた土を型に押し付け、直径1センチの土の玉を入れて鈴の仕掛けを作る。900℃で焼成し、貝を砕いた胡粉で白塗りをしてから、膠(にかわ)を混ぜた顔料で絵付け。最後に竹の皮とイグサで取っ手を仕上げる。

「顔料と膠は天然素材だから水に弱いんです。だから手入れは埃を払うだけ。去年、60代の方が何十年も前に買った稲荷駒(のごみ人形工房で作られる、祐徳稲荷神社の参詣土産として有名な伝統土人形)を持ってきてくださったんです。汚れも色抜けも『自分の人生と一緒だから大切にしてる』って。それを聞いた時は本当に嬉しかったですね」

■オープンファクトリーで伝える「現場の空気」

2月27日から3月1日まで開催される「佐賀つくるまちの開放日」。のごみ人形工房も参加する。

「この時期は干支の制作が落ち着いて、馬以外にもいろんな種類を作るタイミングなんです。だからバリエーション豊かに並んで、色とりどりで楽しいですよ」。

工房を開放する意義について、清人さんはこう語る。

「ただ買うだけじゃなくて、作ってるところを見てもらうと親近感が湧くんです。スタッフみんなおしゃべり好きで、楽しみながら作ってるのが伝わると思います。竹の皮をくるくる丸めて結んでる日もあるし、絵付けしてる日もある。その日その日の空気感を味わってもらえたら」。

制作環境は温度や湿度に気を配る繊細なものだが、「潤いと楽しみをダイレクトに届けたい」という想いが、工房開放へと背中を押した。

「カラカラと鳴る音、職人の手元、色とりどりの人形たち。五感で体感してもらえると嬉しいですね」。

■参拝土産から、暮らしのお守りへ

のごみ人形は年賀切手のデザインに3度採用され(うさぎ・ひつじ・稲荷駒)、全国に知られるようになった。今では祐徳稲荷神社の参拝土産だけでなく、結婚祝いや新築祝い、贈り物として、人々の暮らしに寄り添う存在になっている。

「この前も『稲荷駒を新築の玄関に飾りたい』ってメッセージをもらって。魔除けとか開運とか、そういうかっちりした意味じゃなくて、インテリアとして、気持ちが明るくなるものとして手に取ってもらえるのが嬉しいです」。

県内外のセレクトショップなどへも販路が広がり、時には色違いや特注の依頼にも応えている。

「いろんな人に届けられるのが嬉しいです」。

戦地から帰還した祖父が木片に込めた「潤いと楽しみ」。それは土鈴となり、三代目の手で「背中を押すメッセージ」として現代によみがえる。工房を訪れる人々は、カラカラと鳴る音色とともに、80年の想いを五感で体感することになる。


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■『のごみ人形工房』
住所:佐賀県鹿島市 大字山浦甲1524
電話番号:0954-63-4085
営業時間:8:00〜17:00
定休日:土・日曜
公式HP:https://www.nogominingyo.com/
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■イベント情報『佐賀つくるまちの開放日』
日程:2026年2月27日(金)〜3月1日(日)
会場:のごみ人形工房ほか、佐賀県内14事業者
内容:工房見学、ワークショップ、製品販売
公式サイト:https://saga-tsukurumachi.com
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■ のごみ人形工房

住所:佐賀県鹿島市 大字山浦甲1524
のごみ人形工房 公式サイト
佐賀つくるまちの開放日 公式サイト

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