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薫と有紀の日曜日もダイジョブよ!

黒澤明監督の偉大さが感じられ…。 映画『最後の決闘裁判』

2021年10月13日

[薫と有紀の日曜日もダイジョブよ!]

この作品のさらに詳しい情報はこちらまで→https://www.20thcenturystudios.jp/movies/kettosaiban

© 2021 20th Century Studios. All Rights Reserved.

 日本は南北朝時代だった1386年12月29日のこと。自らの命を懸けた決闘シーンで物語の幕があがる。

 テニスコートよりもやや広い決闘場を取り囲む石積みの壁からは、もう逃げ出すことはできないぞと圧力がかかる。場所はパリのサン・マルタン・デ・シャン修道院とされるが、とても修道院の広場とは思えない殺伐としたムードが漂っていた。

 メインスタンドに鎮座する貴族とおぼしき人々をバックスタンド側からカメラがとらえると、両サイドの幾重にも群がる見物人や遠くの木々に登る人々も見える。フランス全土から数千人が押し寄せたという史実を忠実に再現した映像だ。

 軍馬を操って決闘に臨むのは、マット・デイモンとアダム・ドライバー。ともに手にする“長い槍”はファンタジーRPGでもおなじみだが、その先端は意図的に尖らせたかのように鋭い。

 いざ決闘の時を迎え、その恐ろしい槍が両者の胸に突き刺さると思えた瞬間、場面は14世紀後半、1370年代の戦場へと切り替わる。

 「エッ!さっきの二人はなぜ決闘しているの?二人の人間関係は…」などなど、知りたいことが頭の中にあふれだし、一気に引き込まれる絶妙なオープニングだ。

マット・デイモンvsアダム・ドライバーの決闘シーンは、妥協を許さないリドリー・スコット監督の“怖さ”すら感じた。

 内容はおおむねこうだ…。マット・デイモン演じる騎士“ジャン・ド・カルージュ”の妻“マルグリット(ジョディ・カマー)”が、ある人物から性的暴行を受けたと主張する。

 その容疑者は、アダム・ドライバー扮する“ジャック・ル・グリ”…こともあろうに夫の友人!だ。彼が無実を強く主張し、目撃者がいないことで“事件”は混迷の度合いを深めていく。

 当時の決め事に“悪い意味”で忠実なフランス国王シャルル6世は、決闘による決着を命じる。それは“神による絶対的な裁き”とされ、いずれかが命を落とすまで続けられる。

 カルージュが勝てば、ル・グリは凶悪な犯罪者とみなされ、末代までも不名誉が続く。逆に彼が勝てば、カルージュが命を落とし、妻のマルグリットは偽証の罪で火あぶりの刑になる。この理不尽なルールによって「フランス最後の“決闘裁判”」になったわけだ。

 その実話が基になった原作は、2004 年に出版された「決闘裁判 世界を変えた法廷スキャンダル」。作者のエリック・ジェイガーは、10年間にわたり、あらゆる歴史的記録を探し出し、翻訳し、詳細に調査したうえで「何世紀にもわたり、妻のマルグリットの証言を単なる誤解かウソだったと主張する専門家がいたが、私にはそれが真実とはとても思えない」と語る。作品を見た自分も同じ感覚だ。

カルージュの妻を演じたジョディ・カマーの“熱演”は、思わず目を覆うほどで…。

 それをベースにした脚本は、主役のマット・デイモンと、自らも悪役として登場するベン・アフレックによるもの。日本では1998年に公開され、アカデミー賞脚本賞を受賞した『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』以来24 年ぶりにタッグを組んだという。
 
 さらに、彼らは『ある女流作家の罪と罰(2018年/日本はデジタル配信のみ)』でアカデミー賞脚本賞にノミネートされたニコール・ホロフセナーに声をかけた。

 なぜ彼女を起用するのか?脚本家が3人になったのはなぜか?これが本作の最大のポイントだ。

 なんと、それぞれの冒頭に「第一幕・第二幕・第三幕」と表示され、同じ“事件”をジャン・ド・カルージュ、ジャック・ル・グリ、そしてカルージュの妻マルグリットの順に、彼らの視点で描いていくのだ。特に第三幕は「これが真実だ!」と掲げられる。

 したがって、同じシーンが複数回登場し、最も重要な場面は3回も見ることになる。しかし、いずれもそれぞれの視点から描かれているため、アングルや間合い、演技も微妙に違っていて、第三幕になるころにはマルグリットの表情から彼女の本心を導き出したくなる。そう、観客は目撃者のいない事件を裁く“陪審員”のような気持ちになるのだ。

自ら脚本も手掛けたマット・デイモンの演技からは“鬼気迫るもの”が感じられ…。

 この演出について、リドリー・スコット監督はこう語る。「(マット・デイモンが)とりつかれたように黒澤明監督の『羅生門(1950年)』の話をしていた。一つの行為が三つの視点で語られることをね。私がこの企画に惹きつけられたのはそれが理由だ」と。

 確かに、三船敏郎、京マチ子、森雅之の3人によって紡がれるあの物語との共通点は複数ある。

 さらに加えて、こちらは「真実」を求めるがゆえに写実的な描写が行われ、中世の騎士がまとう甲冑から数百本におよぶ“ロウソク”、そして“事件の核心”まで、リドリー・スコット監督の“執念”を感じさせる徹底ぶりなのだ。

『ブラック・クランズマン』と『マリッジ・ストーリー』でアカデミー賞ノミネートのアダム・ドライバーは、文句なしに“上手い!”

 同じ騎士であっても片方は重用され、もう一方は冷遇されたのはなぜか…に始まり、中世の騎士の“メンツ”のことから“嫁・姑の人間関係”まで緻密で丁寧な描写が積み重なるがゆえに、最初の決闘シーンに戻るクライマックスではスクリーンに拍手を送りたくなった。関係者向けの試写会場だったので実際にはできないが、素直な気持ちとして…。

 そして、すべての「真実」が明かされて2時間30分を超えるドラマが幕を閉じるその瞬間、印象的なシーンが登場する。それは「マット・デイモンがとりつかれた『羅生門』はこっちのことか!」と思えるのだった。


 ※この作品は「PG12…12歳未満の方は、保護者の助言・指導が必要」となりました。
 ※10月15日(金)から福岡中洲大洋、T・ジョイ博多、ユナイテッド・シネマキャナルシティ13、ユナイテッド・シネマ福岡ももち ほかで全国ロードショー
 ※文中の1950(昭和25)年の黒澤明監督(アカデミー賞名誉賞受賞)作品『羅生門』はレンタルが可能なほか、2008年の「羅生門復元プロジェクト」によるDVDとBlu-rayが『羅生門 デジタル完全版』のタイトルで販売中。

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