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薫と有紀の日曜日もダイジョブよ!

まったく違う解釈なので驚かないでね! 『エマニュエル』

2025年01月09日

[薫と有紀の日曜日もダイジョブよ!]

この作品のさらに詳しい情報はコチラ→https://gaga.ne.jp/emmanuelle/

© 2024 CHANTELOUVE - RECTANGLE PRODUCTIONS – GOODFELLAS – PATHÉ FILMS

 このコラムは新作映画の個人的な感想だが、今回は妻から「慎重に書いた方がいいよ…」とアドバイスがあった。つまり“セクハラ”にならないようご注意を…ということなのだろう。

 もちろん“スケベごころ”で鑑賞したわけではない。あくまでも「官能シーンが登場する映画の文化的考察」を試みたわけだ…などと、たまにはカッコいいことを言わせてくださいな。

 最初は本作の公開を信じられなかったし、試写を見るまでは「本当に制作されるの?」という気持ちだった。なぜなら、この「エマニュエル(Emmanuelle)」は、私たちの世代にとって特別な意味を持つからだ。

 もしも「ふてほどな007」とか「絶対に失敗しないインディ・ジョーンズ」なんて映画が登場したら見に行きたくなるだろう。「エマニュエル」は、そんなインディや007並みに取扱注意な人名で、一歩間違えば「お金儲けのために権利を手に入れたのでは…」と勘繰られる可能性だってあるだろう。

エマニュエルの周りには複数の男性が登場するが、いずれも意外な展開になって…。

 シルビア・クリステル主演で1974年12月に公開された一作目のタイトルは『エマニエル夫人』。キネマ旬報のデータによる配給収入(1975年)は、1位の『タワーリング・インフェルノ(36億4000万円)』、2位の『大地震(16億8400万円)』には及ばないものの15億6000万円で3位につけた。人気シリーズの『007/黄金銃を持つ男』が9億3800万円だから、まさに社会現象だったわけだ。

 当時の内容は、有閑マダムのエマニエル夫人が体験する官能シーンの連続。配給した日本ヘラルド映画は(おそらく意図的に)成人映画にせず、一般映画で公開して大ヒットに結びつけた。だが、内容が内容だけに多くのシーンで“ボカシ”が入った。それはいわゆる“モザイク”ではなく、当時は手描きで黒く塗りつぶされていた。

 それから50年が過ぎ、70年代のそれと同じエマニュエル・アルサンの小説をもとにした本作はどうなったか…。フランス人のオードレイ・ディヴァン監督( レベッカ・ズロトヴスキとの共同脚本も)は1980年生まれなのでブームの実体験はない。ご本人も「プロデューサーから原作を渡されて、読んでみたら楽しめました。女性の一人称で書かれた作品で、ヒロインは対象というより主題なのですが、1974 年の映画ではそのように描かれてはいません」とコメントしているからシルビア・クリステル版も今回の仕事をきっかけに鑑賞したのだろう。

 では、仕上がりはどうか…。やはり同じ監督作品で、中絶が違法だった1960年代のフランスを舞台に、予期せぬ妊娠に狼狽する女子大生を描いてベネチア国際映画祭金獅子賞などを獲得した『あのこと(2021年)』という作品がある。自分はこれを観ていなかったので、思わずレンタルで鑑賞するほどのインパクトがあったのだ。

 その『あのこと』と本作には共通点がある。いずれも撮影カメラマンはロラン・タニーという人物。登場人物の背後からのショットなど、あたかも実際の出来事をのぞき見しているような感覚に陥り、一瞬「ドキュメンタリーか!?」とも感じるのだ。

ナオミ・ワッツ(左)が演じるのは一癖も二癖もありそうな人物で…。

 本作にはいくつかの性的なシーンがあるが“ボカシ”はまったくない。監督が「これはシルビア・クリステル版のリメイクではない」と言うとおり、当時とはまったく違う解釈だ。

 フランス人俳優のノエミ・メルランが演じる主人公は独身で“ある仕事”に関わり、さしずめ“エマニュエル女史”というキャラ。この“ある仕事”は予告編ではオープンになっているが、本作の根幹をなすものなので事前情報なしに劇場に向かうことをお勧めする。

 冒頭、70年代を意識してか航空機内からスタートする。シルビア・クリステル版一作目の予告編にも登場する有名なシーンは、交渉したすべての航空会社から断られたので(機体の外観だけはパンナムのジャンボ機が登場)、CM撮影用のモックアップが使われたが、本作では精密にファーストクラスのセットが再現されていた。

 そして到着するのは舞台となる香港。そこで彼女と対峙する女性が『ザ・リング』シリーズのナオミ・ワッツなのだ。ここからは一気にサスペンス感が強調され、エロチックな要素を描くだけではないことがわかってくる。

70年代のシルビア・クリステル版のファンが思わず苦笑いのシーンもあり…。

 物語の後半はエマニュエルがアップデートする様子が描かれる。冒頭ではロボットのように見えた彼女が、自らの決断や挑戦を観客の目に焼き付ける。ある意味で“強い女性”に成長していくのだ。

 とは言うものの“強い女性”はこれまでのハリウッド作品に数えきれないほどいたじゃないか!となってしまう。思いついただけでも…。

 『トゥームレイダー』アンジェリーナ・ジョリー
 『ドラゴン・タトゥーの女』ルーニー・マーラ
 『バイオハザード』ミラ・ジョヴォヴィッチ
 『ワンダーウーマン』ガル・ガドット
 『アベンジャーズ』スカーレット・ヨハンソン
 『マッドマックス 』の新作ではシャーリーズ・セロンにアニャ・テイラー=ジョイ

 しかし、彼女たちの強さは、あくまでもSFやゲームにアクションアドベンチャーの世界でのフィクションだ。それほど特殊な条件下でなければ強い女性像は描きにくいとも言えるだろう。

エマニュエルが醸し出す訳アリの雰囲気が全部気になってしまい…。

 孤独感を抱えているがゆえに、本作のエマニュエルが徐々に現実世界にもいるような人物に見えてくる。“隣に住んでいるかもしれない”キャラの女性が自分の仕事を通じて“敵”と対峙する…そんな珍しい設定なのだ。

 だから続編も制作可能だし、次回作があれば必ず劇場に足を運ぶだろう。もちろん、エマニュエルを演じたノエミ・メルランの裸が見たいわけではない。彼女が演じる実在しそうな女性キャラが、世の中の問題点を浮き彫りにするような作品を見たいからだ…などと、たまにはカッコいいことを言わせてくださいよ(笑)。


 ※映倫による年齢制限で15歳未満(中学生以下)の入場が禁止されているR15+指定作品です。

 ※この作品は1月10日(金)からユナイテッド・シネマキャナルシティ13、T・ジョイ博多ほかで全国ロードショー公開されます。

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