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KBC Sunday Music Hour(毎週日曜あさ9:00~ごご5:45)

薫と有紀の日曜日もダイジョブよ!

最後の最後でタイトルの意味が明かされます…『聖なるイチジクの種』

2025年02月16日

[薫と有紀の日曜日もダイジョブよ!]

この作品のさらに詳しい情報はコチラ→https://gaga.ne.jp/sacredfig/

© Films Boutique

 一度見ただけではわからないタイトルだが、冒頭に登場する“ある文章”を記憶しておけば、最後には納得できるはずだ。今回はストーリーの前に、この作品の“政治的背景”を紹介しておこう。

 モハマド・ラスロフ監督は、過去に母国のイラン政府を批判する映画を製作するなどしたため(イラン政権側の価値観での)国家安全保障に反する罪で懲役8年、鞭打ち、財産没収の実刑判決を受けてしまう。

 弁護士からは「即座に収監されるだろう」と伝えられ、さらに新しい映画…つまり本作のことを知られたら刑期はさらに長くなるかもしれない。

 そこで昨年(2024)、彼は国外脱出を決断し秘密裏にイランを出国した。なぜ密かに母国を去ったかと言えば、すでにイラン・イスラーム共和国によってパスポートを没収されていたからだ。現状は“亡命状態”と言っていいだろう。

主人公のイマン(右:ミシャク・ザラ)は妻のナジメ(左:ソヘイラ・ゴレスターニ)に護身用の拳銃を見せ「命の危険にさらされるかも…」と語る。

 命の危険を冒して自らの監督作品を世界に問うたわけだが、それが昨年の第77回カンヌ国際映画祭で「審査員特別賞」を受賞した。プレミアに登場した彼は、レッドカーペット上で主要な登場人物で夫婦役を演じた2人の俳優、ソヘイラ・ゴレスターニとミシャク・ザラの写真を掲げた。

 なぜなら、彼らが持つ政治的なスタンスのせいで、やはりイランからの出国が禁じられていたからだ。

主人公の夫婦には2人の娘がいて、年頃相応の“反抗的な態度”を見せる。

 そんなエピソードからイランの国内事情を垣間見ることができ、普段は意識しない“国家と個人との関係”について考えさせられた。

 では、本作のストーリーだが、冒頭で「マフサ・アミニ(Mahsa Amini)の死」が描かれる。2022年9月、イラン・イスラーム共和国の首都テヘランで警察に拘束されたイラン国籍のクルド人女性マフサ・アミ二(当時22歳)が、その3日後に死亡した実際の事件だ。

 彼女の死をきっかけにイラン各地で大規模な抗議デモが起こり、それを弾圧する政府側との間で衝突が起こる。その時に一般市民の側から撮影された映像も劇中に登場する。

 その後はあくまでもフィクションのお話だ。主人公のイマンはイラン政権側で公務に従事し、20年以上にわたる誠実な勤務もあって昇進を果たす。妻のナジメもそれを喜び、2人の娘に対し「未来は明るい」といった話をする。

 しかし、彼の仕事は“人間の生死にかかわるシビアな内容”で、政権に反対する勢力から恨みを買い、命の危険もあるから護身用の拳銃を持たされる。

 ある日、自宅に置いていたはずのそれが忽然と姿を消す。これまでも安易に置いたことがあったから彼の不注意かもしれないが、部外者による陰謀の可能性も否定できない。彼の妻や2人の娘も何らかの理由で真相を知っているかも…と疑心暗鬼になるが、このまま拳銃が見つからなければ責任問題にとどまらず、犯罪者として裁かれることになってしまう。

 4人の家族の行方不明の拳銃をめぐるサスペンスが展開され、結末はどうなるのかという疑問が膨らんでいく。最後まで緊張の糸が途切れることはなかった。

見ず知らずの他人との“疑心暗鬼”はよく描かれるが、それが家族間だと話は複雑で…。

 物語が進むにつれて、一般市民のイラン政府に対する抗議運動の映像やノイズも挟み込まれ、監督は母国が抱えている問題を商業映画のストーリーに重ねていると感じられた。

 それは思想や政治体制にとどまらず、意外だったのは、私たちが“メンツの問題では?”と表現する価値観にまで及んでいたことだ。

 さきほど、本作がカンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞したことをお伝えしたが、第97回アカデミー賞®でも「国際長編映画賞」にノミネートされている。その授賞式は日本時間の3月3日(月)の予定で、今からその結果が気になるほどの作品だった。

このサスペンスの結末はどうなるかという疑問は徐々に膨らみ、最後の展開はまったく予想できなかった。

※この作品は2月14日(金)からkino cinema天神、KBCシネマ、ユナイテッド・シネマなかま16ほかで全国ロードショー公開されます。

※文中のモハマド・ラスロフ監督にまつわるいくつかの政治的エピソードについて、映画配給会社提供の資料から引用しています。

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