久しぶりに最後までまばたきできなかった! 映画『BAD GENIUS/バッド・ジーニアス』
2025年07月09日
[薫と有紀の日曜日もダイジョブよ!]
この作品のさらに詳しい情報はコチラ→https://gaga.ne.jp/badgenius/

最後まで、まばたきできなかった。
一行で書くと「カンニングビジネスに手を染めた天才女子高生は最後にどうなるか?」だ。試験会場でカンニングを実行中にこれでもかと襲いかかるピンチからどうやって逃れるか…不正に回答を教える御法度の手法をめぐって最後までヒリヒリした展開が続く。
オリジナルはタイの映画史上歴代ナンバーワンを獲得し、2018年に『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』のタイトルで公開された作品のハリウッド版リメイク。そのタイ版はアジア各国でもヒットしたが、自分は見ていなかったので後からレンタルDVDで鑑賞した。それほどのインパクトがあったわけだ。
タイ版の“本家”は、単なるカンニングにまつわる学園ものではなく“根底に流れるもの”がはっきりしている。それは「健全な精神や人間のまっとうな生き方とは?」だと言っていいだろう。一方、本作の制作陣は「ハリウッドでリメイクすればもっと面白くなるぞ!」と考えたわけではない。タイとアメリカとでは国情も、試験に苦しむ若者の心情も違うので、アメリカ社会の“根底に流れるもの”を表現しようと考えたはずだ。

主人公の父親の職業などにアレンジはあるものの、クライマックス以外は設定やセリフなどタイ版とほぼ同じ。作品ポスターのビジュアルも俳優こそ違うがそっくりだ。
カリーナ・リャンが演じる主人公の女子高生リンは、すべての科目が完璧な成績で、記憶力も抜群の天才=ジーニアス。経済的には苦しい父親と一緒に有名進学校の面接に臨み、その実績から授業料免除の特待生扱いで入学が決まる。
父親役は『アベンジャーズ』シリーズでドクター・ストレンジの相棒役を演じるベネディクト・ウォン。彼は娘の将来を考えて就職にオールマイティな超一流大学を目指せと言うが、本人はジャンルが違う芸術系志望。実はこの設定が重要な伏線で、終盤の展開を面白くする。主要登場人物の人間関係やキャラクターは冒頭10分程度で説明を終え、以降は本線の“カンニングビジネス”が描かれる。
入学早々、ノリはいいが成績はダメダメな同級生グレース(テイラー・ヒックソン)と親しくなり、ひょんなことから“カンニング手口その1”によって手助けをしてしまう。それを耳にした彼女のボーイフレンドのパット(サミュエル・ブラウン)もカンニング作戦に参加させろと迫る。彼はチャラ男どころか、チャラチャラ系のパーティ・ピープルで勉強は全くダメだが父親が富豪で超セレブという設定…これももうひとつの伏線だ。

彼&彼女たち落ちこぼれの成績をカンニングでアップさせるリンは“先生”とあがめられ“カンニング手口その2”によって作戦をエスカレートさせるが、正義漢で努力家のバンク(ジャバリ・バンクス)が登場して阻止すると思いきや、さらに高度な“カンニング手口その3”が準備されていてさあどうなる…という流れ。
タイ版は実際に中国であったエピソードがもとになっているものの“手口その3”があまりにも奇想天外で、だいぶ話を盛っちゃってるのではと感じたが、6月に英語の国際テスト「TOEIC(トーイック)」で、小型イヤホンなどを使ったカンニングが日本で摘発されたからまんざら眉唾ではないだろう。
終盤はオリジナルとは違う展開が待っていて、本作の“根底に流れるもの”が格差や不公平感であることがわかる。それは貧困や行き過ぎたコネ社会、さらには人種間格差などアメリカが抱えている問題の数々だ。

…とはいうものの、カンニングという不正な手段に手を染めたリンは最後にどうなるのか?が気になるところ。犯罪者、まさに“バッド・ジーニアス”として断罪されるのか、あるいは必要悪というオチもあるが勧善懲悪の観点からすると後味が悪い。
エンディングには驚いたが、それを事前にお教えするのも御法度だろう。ただ、その弱者に寄り添う考え方は「よっぽどメイク・アメリカ・グレード・アゲインじゃね…」と思えるのだった。
※この作品は7月11日(金)からT・ジョイ博多、T・ジョイリバーウォーク北九州、T・ジョイ久留米 ほかで全国ロードショー公開されます。
