朝ドラ「あんぱん」ファンだった皆さんは鑑賞注意! 映画『愚か者の身分』
2025年10月21日
[薫と有紀の日曜日もダイジョブよ!]
この作品のさらに詳しい情報はコチラ→https://orokamono-movie.jp/

主要登場人物の北村匠海、林裕太、綾野剛が、9月に開催された「第30回釜山国際映画祭」のメインコンペティション部門で「The Best Actor Award(最優秀俳優賞)」を3人で同時に受賞したが、それも納得の演技だった。
変なほめ方だが「みなさん、本当に新宿・歌舞伎町でチンピラやってませんでしたか?」という感じ。
特に北村と綾野がタバコを吸いながら会話するシーンは、台本に「ここで息を吸う、そしてここで煙を吐く…」なんて書いてあるはずがないから、自然なセリフのやり取りが演技の教科書に載るレベルだった。

内容は久しぶりの「ハードボイルド」作品…と書けば、昭和のころに故・松田優作氏が主演した『蘇える金狼』(1979年)や『野獣死すべし』(1980年)を思い出す方もいるだろう。なるほど、原作の西尾潤氏の同名小説は「第二回大藪春彦新人賞」受賞作だ。
北村匠海が演じる主人公タクヤは“ある個人情報”を売買するヤバイ仕事に手を染めているが、根っからの悪人ではない様子。ひょんなことから林裕太が演じるマモルを仲間に引き入れて“弟分”としてかわいがるようになる。実は、タクヤ自身も綾野剛が演じる運び屋・梶谷から裏社会に誘われた過去があった。
彼らの闇ビジネスは、ニュースになった「匿名・流動型犯罪グループによる組織的、計画的な犯行」の中間層のズバリそれで、上層部にはさらなる悪人が見え隠れする。
そんな中、組織内で金にまつわるトラブルが発生し、とばっちりを受けるのをいやがるタクヤは逃亡を始めるが、これには梶谷も一枚かんでいるらしい。
ここから、その3日間の逃避行をめぐるロードムービーになるのだ。

逃げるタクヤと彼を追う組織の連中。まったく先が読めないうえに、普通は主人公には降りかからない不幸が彼を襲う。冒頭に掲げた「朝ドラのあんぱんファンだった皆さんは鑑賞に注意が必要」なのはここから。
漫画家の故・やなせたかしさんがモデルになった人物を繊細に演じた北村匠海が主人公だからと映画館に足を運ぶと予想外の展開で面食らうはずだ。
ただ、タクヤのキャラとは結び付かない「料理が上手い」という点やマモルが人間不信になった理由、詐欺被害者のバックボーンなど人物像の描き方がうまいからどんどん引き込まれる。
原作者の西尾潤氏の実体験をもとにマルチ・ネットワークビジネスを描いた『マルチの子』(2021年/徳間書店)も今後映像化されるかもしれない。

注目すべきはエンディングだ。若干の省略はあるものの原作小説に沿った最後を迎える。
しかし、ある登場人物による“いかようにもとれる映像”が追加されているのだ。
セリフはないから、その行く末は表情から推察するしかないが、自分は「続編」を示唆しているように感じた…というよりも令和の時代には少数派になった「ハードボイルドの秀作」の続きを期待するのは当然のことだろう。
※この作品は10月24日(金)から T・ジョイ博多、ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13、ユナイテッド・シネマ福岡ももち ほかで全国ロードショー公開されます。
※小学生の観覧には、親又は保護者の助言・指導が必要な【PG12】指定作品です。



