絶妙な邦題だ。

　オリジナルの英語タイトルは『Holy Night:Demon Hunters』で、直訳すると「聖なる夜。悪魔退治屋」という感じだが、クリスマスが舞台ではないから「Holy Night」はピンとこない。

　その「Holy Night」の意味が作品中に明かされ、3人の主要登場人物が生業としている“悪魔退治”に関係していたことがわかる。

　しかし、それはボランティア活動ではない。依頼人からいくばくかの費用をとって悪魔祓いの仕事をこなし、ミッションが完了すると社長から従業員にギャラが支払われる。まさに『悪魔祓い株式会社』というビジネスだ。

　悪魔祓い専門の会社を経営するのは、マブリーの愛称でおなじみのマ・ドンソク。『新感染 ファイナル・エクスプレス（2016）』でブレークし、マーベルの『エターナルズ』でハリウッドにも進出した彼が、悪魔を鉄拳制裁するというぶっ飛んだ設定。

　超能力で悪魔祓いをするシャロンを演じるのは、アイドルグループ少女時代のメンバー・ソヒョン…と書けば彼女たちのヒット曲『Gee』を思い出す。「日本でのリリースは2010年（本国の韓国では09年）だからもう15年もたったのか～」と感慨深くなった。

　もうひとりのスタッフで悪魔祓いの記録映像を担当するのはイ・デヴィッド。Netflixの「イカゲーム」にも出演していた俳優だ。

　今回、彼らの元を訪ねてきたのはキョン・スジンが演じる精神科医。悩んでいるのは本人ではなくチョン・ジソが演じる妹で、その様子は『エクソシスト（1973）』でおなじみのリンダ・ブレアなみだから、言われなくても悪魔が憑依しているとわかる。

　その取り付かれた演技が秀逸で、彼女の体から悪魔を引き離そうと必死になるソヒョンとの悪魔vs人間の対決が見ものだった。

　特筆すべき点が二つある。第一にマ・ドンソクが徹頭徹尾、敵を“鉄拳”によって叩きのめす点だ。しかも、アクションシーンに重火器などの“飛び道具”が登場しない。それはあたかもVFX全盛のハリウッド文化に対抗するようにも見える。

　なるほどと思ったのは、本作のアクション監督がNetflixの『バッドランド・ハンターズ（2024）』のホ・ミョンヘンで、あれでも鉄拳で“ゾンビもどき”をバッタバッタとなぎ倒すマブリーが活躍してましたからね。

　二番目は…こちらの方が大きいテーマなのだが、憑依してくる悪魔以外にも敵が登場する。それは言わば“人間社会の不安要素”であり、最近日本でも見聞きするニュースにも共通点があった。

　監督＆脚本のイム・デヒの演出は、人間に危害を及ぼすのが悪魔の怖さだが、人間社会にはびこる数々の矛盾や恐怖は解決方法がないものもある…と感じさせる。大学時代から東洋のシャーマニズムを研究し、得意分野がオカルトというのもうなずけた。

　生身の人間の行動に対して矛盾を感じても、法律の枠を超えて鉄拳制裁するわけにはいかないからややこしいわけだ。

　本作が公開されれば「続編はどうなるのか？」という感想がネット上に続出するだろう。悪魔祓いのきっかけとなったマブリーの“トラウマ”は披露されるが全貌はわからない。ソヒョンとイ・デヴィッドが部下になったいきさつもだ。

　その真相を知りたいと思う一方で「オレオレ詐欺」「闇バイト」「ストーカー」「情報漏洩」…背後に悪魔がいるのではないかと思わせる実際の出来事が山ほどあり、この3人組がどうやってそれらに立ち向かうかを見てみたい気にさせられるからだ。

※この作品は12月12日（金）から　ユナイテッド・シネマキャナルシティ13、kino cinema 天神、ローソン・ユナイテッドシネマ小倉 、小倉コロナシネマワールド　ほかで全国ロードショー公開されます。