死んだのに生きている人間にはどう接するの?『時給三〇〇円の死神』
2026年09月27日
[薫の日曜日もダイジョブよ!]
この作品のさらに詳しい情報はコチラ→https://gaga.ne.jp/jikyu-300movie/

主人公の大学生が、ひょんなことからアルバイトに誘われる。仕事の内容は「死神」…なんて話を聞けば「それじゃあ、コメディなのよね?」と思うがそうではない。
原作は、小説家・藤まる氏による2017年の同名ライトノベルだから10年前になるが、令和の世情を反映した骨太な作品だ。
脚本担当の福田果歩氏は、昨年公開されてヒットした『366日』で日本アカデミー賞の優秀脚本賞を受賞している。そんな彼女の時代を捉えるセンスが光った作品だ。

なにわ男子の西畑大吾が演じる主人公・真司は身内が起こした出来事によって大学生活を諦めようとしていた。そんな中、突然現れた福本莉子が演じる同級生・雪希(ゆき)からアルバイトの話を持ち掛けられる。
その仕事は「死神」。とはいっても悪辣で恐怖をもたらすキャラではない。この世に強い未練があって「あの世」へ旅立つことができない「人として存在する死者」の背中を押す役割だ。
その仕組みを雪希はサッカーの“ロスタイム”を例に説明する。現世での未練を断ち切るために最後の時間を生きる死者が存在し、その長さは個々人=それぞれの死者で違う。
その“ロスタイム”の間に「生きる死者」に寄り添い、納得したうえで「あの世」へ旅立ってもらうのが本作の「死神」の仕事。報酬は時給300円と微々たるものだが、6か月の就労期間を無事に終えると「どんな願い事でも叶えられる」ビッグ・ボーナスが待っている。

ほどなくして真司は雪希とコンビを組んで「死神稼業」を始めるが、続々と「すでに死んでいる人々」が登場。
ここからが本作のポイント。彼ら彼女らの「この世での未練」は予想をはるかに超えるもので「人間の心の中は、単純に割り切ることができない」というエピソードのオンパレード。
その中のひとり雨野(あまの)という男を演じる小澤征悦は、最近TVの報道番組での露出を見ることが多かったせいか、ニュースキャスターと死んでるけど生きてる人間とのギャップが新鮮だった。

この世の中で「自分の人生はこれでよかったのか?」という疑問や未練を持たない人はいないはずだ。
もちろん程度の差はあるが「あそこで選んだ道は正しかったか?」とか「あの時に別の選択をしていたら…」と考える方が自然で「こんなに順風満帆で絶好調な人生でラッキー!」なんて人物は皆無だろう。
現在、世界一の億万長者でテスラやスペースXのCEOを務めるイーロン・マスク氏でさえ、彼なりに「ここがこうだったら完璧なんだけど…」なんて、ある意味で「ビジネス上の未練」を感じているかも(あくまで個人的感想です)。
最初は自らの不幸によって「黒」のイメージだった真司が、6か月間の「死神稼業」を通じて死者の未練に触れ、生きていることの価値や、どんな苦難も生きて乗り越えなければならないことに気が付き「白」のイメージに変身する。
現世に未練を残す死者が登場するにもかかわらず、終わってみれば、人生の応援歌と感じられる秀作だった。

※この作品は10月2日(金)から T・ジョイ博多、ユナイテッド・シネマ キャナルシティ13、ユナイテッド・シネマ福岡ももち ほかで全国ロードショー公開です。


