
150年の伝統を紡ぐ「主婦感覚」の醤油づくり!みやこ町・奥村醤油醸造場の挑戦(福岡・みやこ町)【まち歩き】

福岡県みやこ町、奥村醤油醸造場。明治8年の創業から150年にわたって地域に愛され続ける小さな醤油蔵には、5代目の奥村真(ちか)さんの温かな笑顔がありました。
「5代目という大袈裟なものではなく、主婦的感覚でこの蔵を続けていきたい」。
そう語る奥村さんの言葉からは、伝統を重んじながらも、等身大の視点で醤油づくりに向き合う姿勢が伝わってきます。
■家族への想いから始まった継承
奥村さんが醤油造りを継ぐことになったきっかけは、意外にもシンプルでした。
「小さな醤油屋で、男の子の後継者もいない。父もこのままやめようかなと考えていた。でも今まで当たり前にあった自分の家の醤油が世の中から消えていくのがいやだった」
150年続く家業への愛着と、何より「子どもにおいしいもの、安心・安全なものを」という母親としての想いが、彼女を醤油づくりの世界へと導いたのです。
奥村さんは父が作る伝統的な醤油を守りながら、子育て中の母親ならではの感覚を商品開発に活かしています。
「近所のお母さん同士のつながりが強いので、みなさんが何を求めているのかをわかっていました。父が作っているお醤油を守りながら、お母さんの感覚を活かして新商品開発をしている」。
この「主婦感覚」こそが、奥村醤油醸造場の新たな魅力を生み出す原動力となっているのです。

■激減する醤油消費への挑戦
しかし、小規模醸造所を取り巻く環境は決して楽観的ではありません。
「50年くらい前、昔は1人で一升瓶サイズを使う時代があった。今は1リットルも使わない」。
多様な調味料の普及により、醤油単体での需要は大きく落ち込んでいます。
「これからは醤油以外のものを作っていかないといけない」。
この危機感が、奥村さんを新商品開発へと駆り立てました。ドレッシングや卵かけご飯用の醤油などを開発。そんな中で彼女が見出した楽しみが、商品のデザインでした。
「色とりどりのかわいいラベルデザインを考えることが自分の楽しみ。自分でキッチンに置きたいものを考えるのが、楽しみの一つ」。
主婦目線でのパッケージデザインへのこだわりは、アイデアをデザイナーに形にしてもらうという協働作業を通じて、魅力的な商品が生まれています。

■香りに込められた地域への愛
奥村醤油醸造場の醤油づくりで最も大切にされているのが「香り」です。
「醤油は香りが大事。蔵ごとに香りが違うし、開けた時の香りでわかる人はわかる」。
火入れ時の温度管理が香りを決める重要なポイント。温度を上げ過ぎればコゲ臭くなり、下げると芳ばしい香りが弱くなってしまいます。この絶妙な温度調整こそが、「ごはんが食べたくなる香り」を生み出す技術の核心です。
「自分の蔵が残ることができた理由は、おふくろの味、地域に愛されている、ファンの方がいてくださっているから。地元の醤油って愛着がわくじゃないですか」。
この地域愛が形になったのが、みやこ町の給食で15年間使われ続けている「みやこの雫」です。
「自分の子どもに食べさせたいという想いから始めた」。
みやこ町産の大豆・小麦を使用し、塩だけで煮込んで2年間熟成させる無添加醤油。味付けをしていないため辛口ですが、子どもたちの健康を第一に考えた、安心・安全への強いこだわりが込められています。

■地元食材への深い愛情
奥村さんの商品づくりの特徴は、地元食材への徹底したこだわりです。
自家農園で農薬不使用で育てるダイダイを使った「ダイダイ醤油」をはじめ、みやこ町や行橋市の農家から仕入れる新鮮な野菜や果物を積極的に活用しています。
にんじん、玉ねぎ、トマト、セロリはドレッシングに、梨は焼肉のタレに。
「原料が良い」。
シンプルな言葉の裏には、地元の生産者との信頼関係と、素材の良さを最大限に活かそうとする職人の心意気が込められています。
■手作業だからこそ生まれる価値
「小さな蔵で設備も小さいので、ほとんど手作業でやっている。折れそうになることが何度もあるが、お客様からニーズがあるので、それに応えていきたい」。
大手メーカーでは不可能な、一つ一つ手作業による丁寧な醤油づくり。その大変さを支えているのは、お客様からの温かい声でした。
「ギフト・お土産で使いたいとお客様に言われたときに、まだ続けなきゃと思えた」。
顧客からの具体的なニーズが、奥村さんの背中を押し続けているのです。

■次世代への希望と決意
現在、娘さんと甥っ子さんが家業に興味を示しているという奥村さん。
「受け継いでいけたらとは思っている。大手メーカーではできないような地域に根付いて商売していきたい」。
150年の歴史を次世代へ継承する可能性を見据えながら、奥村さんの挑戦は続きます。
「今後も地元に根付きながら主婦感覚で、新しい商品を作っていきたい」。
伝統的な醤油づくりの技術と、現代の生活者目線を融合させた奥村醤油醸造場。小さな蔵だからこそできる、心の込もった商品づくりは、これからも多くの人々に愛され続けることでしょう。
みやこ町の豊かな自然と人々の温かさに育まれた醤油の香りは、今日も家庭の食卓に「おふくろの味」を届けています。
■『奥村醤油醸造場』
住所:福岡県京都郡みやこ町徳永1981-1
電話: 0930-33-3636
営業時間: 平日9:00-17:00
定休日: 土日祝
公式HP:https://www.okumura-shouyu.com/
Instagram: @okumura_shouyu
https://www.instagram.com/okumura_shouyu/