一度は訪れたい老舗!完全予約制!苦難を乗り越え紡がれてきた、幻の魚と40年の記憶。『やまめ山荘』が守り続けるもの(福岡・東峰村)【まち歩き】

東峰村の山道を奥へと進むと、突然、時が止まったような空間に出る。立派な冠木門(かぶきもん)。苔むした庭。そして、築200年の茅葺き古民家。ここが『やまめ山荘』だ。
「幻の魚」とも呼ばれるヤマメを、昭和60年の創業から変わらぬ味で届けてきた老舗。しかし、その歴史は決して穏やかなものではなかった。

■村おこしの熱意が生んだ、一軒の料理店

始まりは、ある使命感からだった。
義父が村の役員を務めていたころ、地域の特産品を何か作れないかという話が持ち上がった。目をつけたのが、清流に育つ「ヤマメ」。しかし、事業を引き受ける人がいなかった。
「誰もしないなら、うちで」——そう手を挙げたのが、義母と旦那さんだった。場所には、義母が幼い頃に暮らしていた古民家を使うことにした。築200年の建物が、新たな役割を担い始めた瞬間だった。
料理も、経営も、すべてが手探りだった。ヤマメは稚魚を仕入れ、自前の池で丁寧に育てるところから始め、義母が考え出したレシピで少しずつ形を作っていった。
「義父が大枠を作って、料理を始め運営の全部は母と主人で始めました」。
創業者の苦労を振り返りながら、現在店を切り盛りする手嶋順子さんは静かに語った。

■40年変わらぬ味。ヤマメは「鮮度が命」

やまめ山荘のこだわりは、シンプルで揺るぎない。
「鮮度が命です。生け簀から上げたてをお出しします」。
メニューは完全コース制。塩焼き・刺身・から揚げなど、ヤマメの美味しさをあらゆる角度から味わえる構成だ。料理は創業時に義母が考えたものをそのまま受け継いでおり、40年間レシピは変わっていない。
「海の魚の刺身はダメだけど、ヤマメなら食べられるっていう方もいらっしゃるんです」。
臭みのないヤマメの刺身は、魚が苦手な人の固定観念を覆す。特においしいのは冬だという。
「雪解け水で育ったものは、プリプリ感が全然違います。1月・2月が一番いいですね」。
器は、子どもたちの友人の父親が焼いた小石原焼。旦那さんが口頭でイメージを伝えて作ってもらった特注品だ。

■8年前の豪雨。すべてが流された日。

2017年の北部九州豪雨は、やまめ山荘にも容赦なく牙を剥いた。
「何もかもが流れていたんです」。
床も壁も庭も、被害を受けた。営業再開まで約半年。その間を支えたのは、全国から駆けつけたボランティアの人々だった。
「土砂の掻き出しから、建付けの修繕まで、専門的な技術を持ったボランティアの方が来てくださって」。
「栓抜きがない」と言えば、誰かが持ってきてくれる。そんな細やかな支えのひとつひとつが積み重なって、店は息を吹き返した。
「ボランティアの方々がいなかったら、多分営業再開できてなかったと思います」。
再建を機に、旦那さんは庭を一から作り直した。京都で苔庭に魅せられた旦那さんが、自ら山へ入って苔を採取し、庭を作り直した。今では牡丹、石楠花(しゃくなげ)、紅葉と四季折々の表情を見せる庭が、食事の時間を彩る。
梁と柱だけが、あの日々の記憶をそのままに残している。

■毎朝6時の庭仕事。主人が守る2000坪

敷地面積は約2000坪。旦那さんは毎朝6時に起き、開店前に庭の手入れをする。
「自分がいないと、このままは保てないっていうか……でも、やっぱり好きなんだと思いますよ」。
かつては「朝は寝たい」と言っていた旦那さんが、今では誰よりも早く庭に出る。使い込まれた道具、丁寧に刈り揃えられた苔、古道具のインテリア——。店の隅々に、旦那さんの美意識と愛着が滲んでいる。


■コロナ禍を経て、完全予約制へ

水害、そしてコロナ禍。相次ぐ試練の中で、やまめ山荘は営業スタイルを変えた。
「コロナの時に、感染対策として予約制にしました。そしたら、少人数でも回るので」。
現在は土日祝日・平日を問わず、完全電話予約制で営業している。人手が限られる中でも、質を落とさず続けていくための選択だった。
変化はそれだけではない。Instagramを通じて、海外からの予約も入るようになってきた。
「電話での対応は難しいけど、SNSのメッセージで予約が完結するんです。スマホで撮って、ご自身の母国語に訳して読んでくれるから、説明しなくてもわかってくれて」。
訪日客増加を肌で感じながら、小さな山里の料理店は、静かに世界とつながり始めている。

■あと10年は、この場所で

「後継者は……今はまだいないですね」。
息子も娘も、今は県外で暮らしている。将来のことを聞くと、手嶋さんはしばらく考えてから、静かに答えた。
「とりあえず、あと10年はこのままで、と思って。その後のことはまだわからないですね」。
迷いも、覚悟も、その言葉には同時に宿っていた。
村おこしの夢から生まれ、家族の汗と地域の支えで守られてきた一軒の料理店。40年間変わらないヤマメの味が、また今日も誰かの記憶に刻まれていく。

【今回の料理】
やまめのコース〈つつじ〉やまめ3品コース 税込4,400円
・やまめ料理3品(刺身又は背ごし/塩焼き/唐揚げ)
・前菜3品
・ご飯
・味噌汁
・お漬物
・デザート(わらび餅と珈琲又は極上ほうじ茶)


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■『やまめ山荘』
住所:福岡県朝倉郡東峰村大字小石原1612
電話:0946-74-2728(完全電話予約制)
営業時間:平日 11:00〜15:00 / 土日祝 11:00〜17:00
定休日:火曜(祭日は営業)※臨時休業あり
Instagram:@yamame.sansou
https://www.instagram.com/yamame.sansou/

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■ やまめ山荘

住所:福岡県朝倉郡東峰村大字小石原1612
Instagram:@yamame.sansou

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