クマ被害急増で人材不足露呈 切望される“ガバメントハンター”とは
社会|
10/18 22:30
18日も、人がクマに襲われる被害が相次ぎました。秋の深まりと共に、紅葉スポットでも、クマへの警戒感が高まっています。全国的に専門の人材が不足する中、注目されているのが「ガバメントハンター」の存在です。(10月18日サタデーステーションOA)
■食べ物ごみ増加
紅葉スポットでもクマ警戒
報告・若林奈織ディレクター
「北アルプスの山々も黄色く色づき始めています」
サタデーステーションが訪れたのは長野県・上高地。年間120万人もの観光客が訪れ、外国人登山者も増えているといいます。しかし、近年ある問題が。
徳澤園・上條靖大代表
「こういうお弁当のカスが一番多くて(容器が)かさばるんですよね、多分」
休憩用ベンチのそばには、スイカやメロンの皮が落ちていたことも。上高地ではすべてのごみ持ち帰りがルールとされていて、守る人がほとんどですが、中には置いて帰る人もいるのだといいます。
徳澤園・上條靖大代表
「上高地はクマのいる場所ですので…」
クマを呼び寄せてしまう可能性がある“食べ物のごみ問題”。こうした投棄ごみの問題を受け、上高地では先月、『ごみを有料で引き取る実証実験』を開始。1日平均で6件ほどの利用があったといい、制度作りの参考にされるといいます。
徳澤園・上條靖大代表
「野生動物との距離を保つためにも、人間の出したゴミというのは人間が適正な処理をすることが大切なのかなと」
■クマ被害で頭部の負傷相次ぐ
重傷を避ける“最終手段”は
18日はクマに頭部を狙われる被害が各地で相次ぎました。群馬県みなかみ町では、自宅近くの森林でキノコ狩りをしていた男性がクマに頭部を複数か所ひっかかれて重傷。秋田県でも、大仙市と仙北市で、それぞれ住民がクマに襲われ、2人とも頭部を負傷しています。3年前、秋田県内でクマに襲われた男性のCT画像を見ると、顔面の骨が粉々に砕けているのがわかります。こうした患者の治療にもあたっている医師は…
秋田大学医学部附属病院土田英臣
医師
「(今年は)6人中5人が顔をやられている形。去年もおととしも同じく顔が多い」
クマに襲われて、土田医師の病院に搬送された患者は、この3年間で30人。その8割以上が顔を負傷していたといいます。その一方で、『うつ伏せで頭や首を覆うような防御姿勢をとった人の中に重症者はいなかった』という、おととしの秋田県内のデータも公表されています。
秋田大学医学部附属病院土田英臣
医師
「最終手段は防御姿勢。被害を最小限に抑える意味では有効だと思う」
■足りない専門人材
注目の“ガバメントハンター”
相次ぐクマ被害によって、喫緊の課題となっているのが、クマの専門知識を持つ自治体職員の不足です。長野県議会から国や県知事に対して要望が出たのは、“ガバメントハンター”の導入。
山岳環境保全についての議員連盟
宮沢敏文会長
「ガバメントハンターは小諸市が全国で初めてやったんですよ。その成果を生で見て、これはいいな、これしかないなと」
そこで、サタデーステーションは、長野県小諸市の“ガバメントハンター”櫻井さんを取材。その活躍ぶりが見えてきました。
“ガバメントハンター”小諸市農林課
櫻井優祐
事務主任
「夏ぐらいから鹿やイノシシ、クマの出没状況をカメラでモニタリングしている、その現場になります」
普段は市役所で助成金の事務なども行っている櫻井さん。自治体職員でありながら、狩猟免許も持っているため、“ガバメントハンター”と呼ばれています。
“ガバメントハンター”小諸市農林課
櫻井優祐
事務主任
「許可を出す側の行政と、実際に捕獲を実施していただくハンターとの調整、潤滑油みたいな役割が自分にあるのかなと」
実際に“ガバメントハンター”の真価が発揮されたケースがありました。生ごみを一時保管するための倉庫から人の気配が無くなったわずか4分後、クマが現れました。前日にもここに来ていて、生ごみの味を覚えてしまったとみられます。倉庫の隣に罠を設置しましたが、中には入りません。ここで櫻井さんは、ハンター目線で状況を見て、罠のサイズが小さいためにクマが警戒していると判断。そして今度は行政の立場に立って、他のハンターに相談・連携し、その日のうちに大きな罠に変更しました。櫻井さんの部下・佐藤さんは…
小諸市農林課
佐藤勝弥主事
「上司に相談したり、捕獲従事者(ハンター)と話をして、罠を変えた方がいいとなるのに1日2日かかるものだと思うが、櫻井さんが言ったことによって、その日のうちに交換することができた」
罠を変えて13時間後、この日も現れたクマは、倉庫よりも先に罠の中へ。そして捕獲に至りました。さらに…
“ガバメントハンター”小諸市農林課
櫻井優祐
事務主任
「『緊急銃猟』の関係もいろいろ整備しなきゃいけないんだよね」
法改正により、市町村の判断でクマへの発砲が可能になった「緊急銃猟」も、まさに櫻井さんのような、行政とハンターの橋渡し役が求められています。
■捕獲クマを原則リリース?
ガバメントハンターに“法律の壁”
一方で櫻井さんは、クマ対策の中で“法律の壁”を感じることもあるといいます。見回りの際によく見つかるのは、シカやイノシシ用の罠にかかったクマ。「錯誤捕獲」と呼ばれ、小諸市では今年、すでに10件起きています。しかし、クマ用ではない罠にかかったクマを駆除しようとすると、鳥獣保護管理法に違反してしまうため、原則、逃がさなければいけないといいます。
“ガバメントハンター”小諸市農林課
櫻井優祐
事務主任
「何回もふもとで、錯誤捕獲で捕まっている個体もいる。『また放さなきゃいけないか』と、歯がゆさを持っている部分ではある」