新宮町・下府の梶取交差点そば。お昼が近づくと、その店の前に人が並びはじめます。
『THE MEAT HOOK(ザ・ミート・フック)』。
週末ともなれば、店の扉が閉まる暇もないほどの賑わいです。
お目当ては、揚げたての惣菜。なかでも「新宮町で生まれたメンチカツ」は、「お弁当・お惣菜大賞2026」で入選した看板商品です。
けれど、店を営む下野孝幸さん・寛子さん夫妻に伺うと、意外な言葉が返ってきました。
「最初は、お客さんがなかなか入ってこられなくて」
■ 開店当初、行列とはほど遠い日々
ご夫妻が長く手がけてきたのは、食品加工の仕事でした。
新宮町のふるさと納税の返礼品として、ハンバーグを提供するメーカー。
それが原点です。
「一番最初にヒットしたのが、返礼品のハンバーグでした」
孝幸さんとこの町の縁は、もっと前から。会社員時代の勤め先の工場が、たまたま新宮にあったといいます。「本当に、流れで」と笑います。
転機はコロナ禍。この場所で営業していた飲食店が立ち退くことになり、空いた物件を借りることに。当初は加工工場にするつもりが、物件のオーナーから「小売店もやってほしい」と請われ、思いがけず店を開くことになったのです。
そうして始めた精肉店。しかし、行列とはほど遠い日々でした。
「もともとが加工の仕事だったので、小売は初めてで。精肉店ってお客さんに"高い"っていうイメージがあるからか、外から覗いてはいるけど、なかなか中に入ってこられないんですよね」
いまの行列を知る人には、想像がつかない話です。
■ きっかけは「新宮町で生まれたメンチカツ」
そこで力を入れたのが、惣菜や弁当でした。
「メンチカツやコロッケが美味しかったら、きっとお肉も美味しいんだろうって、つながっていくんですよね」
手に取りやすい揚げものやお弁当を、店に入ってもらうための"きっかけ"にする。
ひとつ買ってみて、美味しかったから今度は肉も。夫妻が選んだのは、そんな小さな信頼の積み重ねでした。
■ かじると、ジューシー。胡椒がアクセント
看板の「新宮町で生まれたメンチカツ」は、かじるとお肉の塊そのもの。ぴりっと効いた胡椒がアクセントで、それでいて税込160円。手が伸びる価格です。
この味は、厨房のスタッフみんなで試食を重ね、意見を出し合ってつくりあげたものだといいます。
「もう少し胡椒を効かせた方がいいね、とか。全員がOKを出さないと完成しなかった一品です」
朝から200個ほどを仕込む日も、すべて手づくり。人気のチーズささみカツ(税込220円)も、一枚ずつ開いて筋を取り、チーズを挟んで巻いていく。「どれも手が込んでいるので、大変で」と寛子さんは笑いますが、その手間こそが、あの味をつくっています。
■ 「町の名前も、ブランドになる」
商品名に「新宮町で生まれた」と冠したのには、理由があります。
新宮町主催の講演会で、マーケティングの専門家からこんな話を聞いたといいます。
「店の名前だけじゃない。町の名前も、ブランドになるんですよ」
「"新宮町のメンチカツ"って呼んでもらえたら嬉しいなと思って、この名前にしたんです」
自分の店を大きくするためだけじゃなく、町ごと連れていく。
その発想が、この店らしさを表しています。
■ 締め切り10分前、たった1品で全国区へ
その味は、やがて町の外へ。日本スーパーマーケット協会が主催する「お弁当・お惣菜大賞2026」は、全国から約15,000余りのエントリーが集まる、かなりの狭き門です。
応募そのものは、あっけないものでした。
「締め切りの10分前に出したんです」
エントリーしたのは、メンチカツ1品のみ。他社が何十種類も出すなかで、日々つくり続けてきた、その一品だけで勝負しました。
最終選考は東京。前日の夜になっても、当日の朝に仕込むための材料と道具が、ホテルに届きません。
調べると、品川の物流倉庫で止まったまま。夜中に自ら倉庫へ走り、朝いちばんに出来立てのメンチカツを仕上げて、なんとか間に合わせたといいます。
この受賞が、行列をさらに伸ばしました。
■ 毎日買いに来てくれる、その顔を見ると
受賞後、ひとつだけ思わぬことも起きました。この賞は価格の手ごろさも評価の対象。簡単には値上げできなくなってしまったのです。
けれど、ご夫妻が値段を据え置く理由は、もっと別のところにあるようでした。
「毎日買いに来てくださるお客さんの顔を見ると、なかなか上げられなくて」
■ 売り切れる前に、行きたい
行列が長くなるにつれ、「買えなかった」という客も出るようになりました。
そこでご夫妻は、仕込みの数を大きく増やします。
客が増えはじめた頃に比べれば、いまはずいぶん手に入りやすくなったとのこと。
それでも人気商品は売り切れることがあるので、早めの時間帯が安心です。
天候にも左右され、暑い日や雨の日は行列がやわらぐことも。
ただし「雨の日は、車の中でお待ちになられて、開店した瞬間にバーッと入ってこられます」。
そんな光景も、いまや日常です。
広告らしい広告は打たず、クチコミで客が客を連れてくる形で広がってきました。
■ 揚げものだけじゃない。お弁当も
行列の目当ては、メンチカツだけではありません。
ショーケースの隣には、その日つくられたお弁当が並びます。
しかも、驚くほど手ごろな価格で。
・あこや貝の炊き込みご飯(税込300円/土日限定)[写真左上]
新宮町の沖に浮かぶ相島。そこで獲れたあこや貝の貝柱を使った、土日だけの炊き込みご飯です。ふたを開けて、驚きました。貝柱が、ごろりと。ひじきの黒が差し色になって、米の一粒ずつに貝のうまみが染みています。300円で、島の恵みがまるごと。見つけたら、迷わず手に取りたい一品です。
・ハンバーグ弁当(税込390円)[写真右上]
食品加工から始まったこの店の、原点ともいえるハンバーグ。ふるさと納税の返礼品として人気を集めたその味が、390円のお弁当で味わえます。とろりとしたデミグラスソースがたっぷり。海苔を敷いたご飯に、きんぴらとキムチが添えられていて、最後まで飽きません。
・チキン南蛮弁当(税込480円)[写真左下]
こぼれ落ちそうなほどのタルタルソースが、鶏肉をすっかり覆っています。揚げものを知り尽くした店の一品。甘酢の効いた衣とタルタルの組み合わせは、やっぱり間違いありません。
・鶏五目ご飯 おかず付き(税込390円)[写真右下]
五目ご飯をおにぎりにして、フライを添えた組み合わせ。ごぼうや人参の具がたっぷり入ったご飯は、それだけで満足感があります。片手でつまめる形なので、忙しい日のお昼にも。
その他、チキンステーキ弁当や焼肉弁当など種類も豊富。
副菜にはきんぴらとカクテキを添えたものもあれば、もやしナムルを合わせたものも。
主役のおかずだけでなく、副菜までしっかり手が入っています。
お昼ごはんに困った日。あと一品では足りない日。
この価格でこの中身は、正直、助かります。
ただし人気のお弁当は、12時半ごろには売り切れてしまうことも。
狙うなら、早めの時間がおすすめです。
■ 次の一手を、探しながら
夫妻は、いまも新しい挑戦を続けています。
原点であるハンバーグに立ち返った商品を試してみたり、店舗のとなりでは台湾スイーツの店「台湾甘蜜処 甜甜」も運営。
「まだ、探している最中なんです」
行列ができるいまも、立ち止まってはいません。
かつては、なかなか扉が開かなかった店。その前に、いまは列ができています。
その列は、宣伝でつくられたものではありません。
ひとつ買って、美味しくて、また来て、誰かを連れてきて。
そうやって、一人ずつ増えてきた列です。
お昼ごはん、何にしよう。そんな日に、ちょっと扉を開けてみてください。
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■ 『THE MEAT HOOK(ザ・ミート・フック)』
住所:福岡県糟屋郡新宮町下府1176-1
電話:092-692-8909
営業時間:11:00〜18:00(火曜13時まで)
定休日:水曜
Instagram:@the.meat.hook
https://www.instagram.com/the.meat.hook/
■ 『台湾甘蜜処 甜甜』(THE MEAT HOOKとなり)
営業時間:11:00〜17:00
定休日:火・水曜
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※情報は2026年7月時点の取材内容をもとにしています。
営業時間・営業日は変更となる場合があります。
最新情報は公式Instagram等でご確認ください。
■ THE MEAT HOOK(ザ・ミート・フック)
住所:福岡県糟屋郡新宮町下府1176-1
Instagram:@the.meat.hook
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