【トランプ氏就任3カ月】米名門大に助成凍結“通信社に取材制限”言論自由巡る対立は
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04/20 22:30
米大統領2期目の就任演説に臨んだトランプ氏は1月20日、「我々は歴史的な大統領令に署名し、常識の革命を始める」と宣言した。トランプ政権始動からの3カ月は、大統領令の乱発によって特徴づけられた。米CNNによると、議会承認を必要とせず、大統領権限で発動可能な大統領令は4月18日現在、トランプ氏の就任3カ月で196本が発令された。1月29日には、「反ユダヤ活動に参加した留学生は国外退去」という大統領令が出され、大学における言論の自由を抑圧する懸念が顕在化すると同時に、また、政権による通信社への取材制限が課されるなど、基本的人権の抑圧に対する危惧が高まっている。 トランプ政権は、米国の名門大学に対する前例のない圧力を強め、補助金削減と反ユダヤ主義対策を巡り、政府と教育機関の間に新たな緊張を生み出している。トランプ氏は4月15日、ハーバード大学を名指しし、「政治的、イデオロギー的、かつ『テロリスト』に触発された『病』を押し進め続ける場合、免税資格を取り消し、政治団体として課税するべきかもしれない」とSNSに投稿した。これに先立ち、3月10日には、ハーバード大学を含む全米60校に対し、反ユダヤ主義への対策を講じなければ、強制措置を取ると警告する書簡を送付していた。同月14日には、トランプ氏が白人学生への差別だと主張する、DEI(多様性・公平性・包摂性)を目指すプログラムをめぐり45大学の調査を開始した。 ホワイトハウスは4月11日、ハーバード大学に対し、反ユダヤ主義への対応強化およびDEIプログラムの廃止などを含む「要求リスト」を送付した。このリストには、大学が政府との「財政的関係」、連邦助成金の継続を望む場合、これらの要求に従う必要があるとの警告が明記されていた。ハーバード大学は即座に反発、14日に声明を出し、「憲法で保障された大学の権利を侵害する」として、政権の要求を拒否する姿勢を示した。政権側は同日、大学への総額22億ドル(約3200億円)の助成金などの凍結を発表した。 今回の背景には、2024年3月から5月にかけて全米の大学で巻き起こったパレスチナ自治区ガザでのイスラエル軍事行動に対する抗議活動と、それに伴う社会的・政治的分断の深刻化があるとみられている。政権の圧力は、留学生ビザを巡る措置で一層強化された。米国土安全保障省は16日、ハーバード大学に対して、留学生ビザ保有者の違法行為および暴力行為に関する詳細な記録の提出を求める書簡を出した。4月30日までに提出しない場合、大学は学生・交流訪問者プログラムの認定を即時に喪失し、留学生を受け入れることができなくなる。 ハーバード大学の財務基盤は現在、532億ドル(約7.6兆円)に上る基金によって支えられている。基金の強固な基盤は、短期的な危機を乗り切る可能性があるとみられるが、22億ドル(3200億円)の助成金凍結が長期化すれば、研究と教育の質を悪化させるリスクが懸念される。財政基盤の強化に向けて、ハーバード大学はこのほど、ニューヨーク・ウォール街から7億5000万ドル(約1068億円)の資金調達を実施した。 ハーバード大学に留学中の日本人留学生に、番組が独自に取材したところ、現地での緊迫した状況が明らかになってきた。現時点で、ハーバード大学では留学生12人および最近の卒業生のビザが取り消され、帰国を余儀なくされている。ビザ取り消しの理由については、反ユダヤ主義的な発言や犯罪行為などが挙げられているものの、明確な説明がないケースも多く、学生たちの間に混乱と不安が広がっている。特に、大学側への通知がなく、ひっそりとビザが取り消されるケースが報告されている。政府によるハーバード大学への圧力と、留学生受け入れ資格の剥奪という抑圧が現実味を帯びる中、大学全体が異例の緊張状態に包まれている。 トランプ氏は報道機関への統制を一層強め、米国の報道の自由をめぐり、政権と報道機関の対立を引き起こしている。トランプ氏は2月11日、「メキシコ湾」を「アメリカ湾」と変更した後も、米AP通信社が従来の名称を使用したことを理由に、同社記者をホワイトハウスの大統領執務室および大統領専用機での取材から締め出した。トランプ氏は就任初日の1月20日に、「メキシコ湾」の名称を「アメリカ湾」に変更する大統領令に署名し、メキシコ湾を「アメリカ湾」に改名するとしていた。ワシントン連邦地裁は4月8日、ホワイトハウスの出入り禁止措置を違憲とし、「AP通信について他の通信社と同様に扱わなければならない」という判断を下したにもかかわらず、政権は15日、英ロイターや米ブルームバーグを含む通信社の代表枠を廃止する新たな方針を発表した。 代表取材グループは、大統領執務室での会見への出席や、国内外への大統領同行、大統領の動静など詳細な報道を担ってきた。従来、テレビ枠、新聞枠などと、ロイター、AP通信、ブルームバーグの通信3社が交代で担当してきた通信社枠は、今後、約30社が交代で代表を務める新聞枠に統合される。この変更により、通信社の代表取材の機会は大幅に減少する。今回の措置で、通信社の専門性や迅速な情報発信力を背景とした独自の役割が損なわれるとの懸念が広がっている。 ★ゲスト:ジョセフ・クラフト(経済・政治アナリスト)、津山恵子(NY在住ジャーナリスト)、峯村健司(キヤノングローバル戦略研究所主任研究員) ★アンカー:末延吉正(ジャーナリスト/元テレビ朝日政治部長)