「警察は何の勉強してるんだ」26年前の桶川ストーカー殺人事件遺族の訴え
社会|
05/03 22:30
ストーカー被害を訴え、行方不明となっていた20歳の女性が川崎市の住宅で遺体となって見つかった事件。法整備が進む一方でなぜ事件は繰り返されるのか。ストーカー規制法成立のきっかけとなった桶川ストーカー殺人事件の遺族に話を聞きました。(2025年5月3日OA「サタデーステーション」)
■元交際相手
突然の帰国
事件は急展開を迎えました。午後1時半前の羽田空港。アメリカ・サンフランシスコから到着した飛行機で日本に帰国したのは、行方不明になっている岡崎彩咲陽さんの元交際相手の男です。
遺体の身元についても、新たな情報が入りました。
報告・仁科健吾アナウンサー(3日
川崎市)
「(あちらの奥に見えます)元交際相手の男性の住宅から見つかった遺体は、行方不明となっていた岡崎彩咲陽さんであると、つい先ほど警察が発表しました」
4月30日に川崎市の住宅から一部が白骨化した遺体が見つかった事件。遺体は20歳の岡崎彩咲陽さんだと判明しました。
彩咲陽さんの父親
「うちの娘で間違いないと。ショックです。捜査の方法が間違っているから娘は死んだと思っているんで、自分は。それはだから絶対に許さないです」
■何度も訴えたストーカー被害
彩咲陽さんは、元交際相手からのストーカー被害を何度も警察に訴えていました。彩咲陽さんが行方不明になった後、警察に事情を聞かれた元交際相手の男性は「自分も心配で捜している」と話していたといいます。
彩咲陽さんが行方不明になるおよそ1週間前、身を寄せていた祖母の家で撮影した映像には、周辺をうろつく元交際相手の男とみられる姿がとらえられていました。
サタデーステーションが話を聞いたのは、2人の“別れ話”に同席したという男性。
“別れ話”に同席した男性
「(元交際相手から)暴力を受けたというので相談受けたことがあって」
去年6月頃、彩咲陽さんが暴力を受けたことをきっかけに“別れ話”になったといいます。
“別れ話”に同席した男性
「(元交際相手の男は)普通に『すいませんでした』『ちゃんと別れます』という話だったんですけど。『別れたいって言っているからちゃんと別れろよ』って。『わかりました』という話だったんで」
■直前に9回の電話
警察の対応は
何度も警察に相談していたという彩咲陽さん。警察の対応に問題はなかったのでしょうか。
去年9月、彩咲陽さんは元交際相手の男性から「刃物を向けられた」と申告し被害届を提出。しかし、警察の説明によると「事実と異なる説明をした」として被害届を取り下げたといいます。捜査関係者によると、その後もストーカー被害の相談は複数回あり、そのたびに警察が元交際相手から話を聞き、口頭で注意していたといいます。そして去年12月20日に行方不明になる直前は、彩咲陽さんが、わずか12日間で9回警察署に電話した記録が残っています。
元神奈川県警捜査一課長の鳴海達之さんは、この状況について…。
元神奈川県警捜査1課長
鳴海達之さん
「(警察への連絡が)12月に9回もあるわけだから、それはもう尋常じゃない。(ストーカー)事案はいつ急展開が起きるかわからない。そういったことを警察官が認識していれば。1件1件について真剣に対応していなきゃいけない」
さらに、元交際相手とみられる男がうろついていた動画についても。
元神奈川県警捜査1課長
鳴海達之さん
「(家の周辺でストーカーの)姿が見えた時点でもう危険なんです。だから、そこで手を打たなきゃいけないんです。そこで手を打っていれば、やっぱ流れがまた変わってきていたのかもしれないですね」
■桶川ストーカー事件の被害者遺族の訴え
ストーカー行為を訴えていた女性が死亡する事件は後を絶ちません。最近では2023年、博多駅前の路上で女性が元交際相手の男から刃物で刺され死亡しました。男には、ストーカー規制法に基づく禁止命令が出されていました。2013年には元交際相手の男が、東京・三鷹市の女子高校生の部屋に侵入し殺害。女子高校生は「男につきまとわれている」とストーカー被害を警察に相談していました。
26年前、元交際相手らによる執拗なストーカーの末に殺害された、猪野詩織さん。詩織さんは、埼玉県のJR桶川駅前の路上で刃物で刺されて亡くなりました。生前からストーカー被害を訴え出ていましたが、埼玉県警上尾署は、詩織さんの訴えを放置するなどしていました。
今回の事件について、猪野さんの父親は…。
詩織さんの父親
猪野憲一さん
「また詩織のことを思い出しますよ。また言っていますよ。『お父さん、なんで助けられなかったの』と。状況が全然違うわけですよ。詩織が殺された時と。今の法律ができて」
桶川の事件をきっかけに「ストーカー規制法」が成立しています。
詩織さんの父親
猪野憲一さん
「普段生活している中で、警察に何か訴え出ていこいこうというのは非常にハードルが高いんですよ。それが自分のやっぱり身の危険、もしかすると家族にっていうこともあり得る。でも『怖い、相談しなくちゃいけない』っていう思いで、その所轄の警察に電話をしたと思うんですよね。それに応えられないっていうのは、何の勉強してるんだ、その所轄の人間たちは」
◇
高島彩キャスター
「改めて事件の経緯を見ていきます」
板倉朋希アナウンサー
「亡くなった岡崎さんは、交際相手と別れた後からストーカー行為を受けていて、警察の発表によりますと去年の9月、岡崎さんは外出先で元交際相手と会った際に刃物を向けられたと申告して被害届が受理されました。しかしその後、元交際相手と復縁していた岡崎さんが『事実と異なる説明をした』と被害届を取り下げたということです。一方で親族は、被害届を取り下げた理由については、『男に脅されたためだ』と話していて、警察と親族はこの点について認識が違っています。岡崎さんはそれ以降も警察に複数回相談し、その度に警察は男に事実確認を行ったり口頭注意などをすることもあったそうです。その後、去年の12月20日、岡崎さんは行方不明に。そして4月30日、元交際相手の自宅から岡崎さんの遺体が発見されました。そしてつい先ほど入ってきた情報で元交際相手の男を死体遺棄容疑で逮捕状を請求しているということです」
高島彩キャスター
「被害届を取り下げた理由、この辺りに食い違いがありますし、気になる所がありますけれども柳澤さんは、どうご覧になっていますか?」
ジャーナリスト柳澤秀夫氏
「警察の対応がとにかく適切だったのかどうか、大いに疑問なんですよね。被害届けを取り下げたと言っていますけど、その後行方不明になる直前に9回警察に電話をしていると。それに対して警察は一体どう対応したのか。警察は必要な措置はとったと言っていますが、その措置の中身って一体何なのか、説明が求められると思います」
高島彩キャスター
「一般的な話ですけれども、ストーカー被害にあった場合、相談を警察にするとどのような対応をとられるんですか」
板倉朋希アナウンサー
「警察署に行って相談した際にストーカー行為が法に触れると判断された場合に大きく2つの流れがあります。一つは、ストーカー行為の被害届を提出した後にストーカー規制法違反などの容疑で捜査し検挙するという流れ。そしてもう一つが、被害者本人の要望で相手方に対してストーカーをやめるように警察から「警告」をする。この「警告」を出してもストーカー行為が収まらなかったり、あるいは緊急性があると判断された場合には接近を禁止するなどの「禁止命令」を出す。この「禁止命令」に従わなかった場合は、「処罰」という流れがあります」
高島彩キャスター
「被害届の有無にかかわらず、本人の要望があれば「警告」ですとか「禁止命令」などが出るということですよね。こういったストーカーの相談件数は年間でどのくらいあるのでしょうか」
板倉朋希アナウンサー
「2023年のデータになりますけれども、ストーカーの相談件数は1万9843件ということです。このうち、警告した件数は1534件。禁止命令は1963件ということで、これについては法律施行後最多だったということです」
「元神奈川県警捜査一課長の鳴海達之さんよりますと、「警告」を出すにも「禁止命令」を出すにも被害者本人の申し出が必要だということで、ただ、中には『やっぱり警告などを出さないでほしい』という方も少なくないそうで、ストーカー事案は極めて特殊でいつ重大事件に急変するかはわからない。とにかく早めの対応が必要だと話しています」
高島彩キャスター
「年間2万件も相談件数があるということで、一つ一つに対応する難しさというのも感じますね」
ジャーナリスト柳澤秀夫氏
「これだけ件数が多いと警察本部と所轄との連携が大切だと言われるんですよね。その連携が今回十分に取れていたかどうか、これはしっかりした検証が必要だと思います。それと、被害者側と警察側との間に認識のズレはなかったのかどうか。警察に相談あるいは訴える時には、電話をかけるんだったら録音しておくとか、対面で会ったら書面にして確認をしておくとかということも必要になってくるでしょうし、さらには法律に詳しい弁護士さんにも立ち会ってもらう、いろいろと相談するということも必要になってくる可能性は十分あると思いますね」
高島彩キャスター
「より深刻な事態になる前に被害を訴える方の声がしっかりと受けとめられ、そして対応されるということを願います」