なぜ?輪島市が“洋上浮力”誘致 高まる期待の一方で不安の声も
社会|
05/10 22:30
去年の大地震と豪雨で甚大な被害を受けた石川県輪島市。その輪島市が、海に浮かぶ洋上風力発電およそ50基を誘致する方針を決めました。復興への起死回生の策となるのか、決断の舞台裏を取材しました。(5月10日OA「サタデーステーション」)
■“海の被害”“人口減少”深刻に
石川県輪島市の沖合およそ25キロの海域。この海域が、新たな未来を切り開こうとしています。
輪島では2036年までに、東京タワーほどの高さの洋上風車を50基ほど浮かべ、海底ケーブルで結び、原発1基分に相当する発電を行うという壮大な計画が立てられています。
輪島建設協同組合
刀禰芳昭さん(74)
「それが唯一、我々に与えられた今のチャンス」
去年元日の大地震、そして記録的な豪雨と自然災害が相次いだ石川県輪島市。今も港は崩れたままです。漁港の地面には裂け目が走り、大きく隆起したまま。水揚げは地震前と比べ、半分ほどになったといいます。
海底でも、大きな異変が起きていました。輪島の海で海女漁を20年以上続ける門木さん。去年の豪雨被害のあとに撮影した輪島の海の映像では、海に流木が流れ込み、水は茶色に濁ったままです。海底には大量の泥が堆積していました。
輪島で海女漁をする門木奈津希さん
「泥で窒息した状態で、岩についている生き物とかも全部死滅したみたいな感じで、何にも生き物がいなかった」
地震で崩れた土砂が、豪雨で海に流れ込んでいたのです。
輪島の海の調査を続ける、潜水士・渋谷正信さん。2年前、この海域で撮影した映像では、海藻がうっそうと茂る、豊かな海が広がっていました。しかし今は、海藻には泥がかぶり、一部の海底では岩肌がむきだしになっていました。海藻がまばらになっている様子がわかります。2年前とは、全く違う光景が広がっていました。
県漁協輪島支所
中村勝成運営委員長
「アワビはおらんね。水揚げも本当にない」
海底は、相次ぐ自然災害や、温暖化の影響等による磯焼けで焼け野原のようになっています。漁獲量に影響を与えていました。
そして、輪島市の人口減少は深刻です。民間企業の調査によると、震災前と比べ、推定でおよそ3割も減少しているのです。危機感を強くしたのは漁業関係者だけではありません。
輪島建設協同組合
刀禰芳昭さん(74)
「漆(輪島塗)を中心にしたり、朝市とか観光を中心にしたり、漁業を中心にしたりいろいろやってきたんです。ところが人口は減る一方でしょ。どれだけ頑張っても、地震前と同じ人口には今のまま直しただけではなりませんよ」
■雇用創出や経済効果に期待も
建設組合の刀禰さんは、漁業関係者に声をかけ長崎県五島市を視察。五島市は、以前、輪島市と同じように漁業不振や人口減少に苦しんできました。しかし、15年前に日本初の浮体式洋上風力を誘致。今では、港には組み立て工場が建てられ、新たな雇用を作り出すなど、経済効果を生み、人口の流出にも歯止めがかかっています。
輪島建設協同組合
洋上風力推進室長
佐藤義久さん(75)
「人口もそれから面積もかなり似てるっていうのが分かってね、五島と輪島っていうのは。これから我々もここをいい手本にさせてもらいたい」
輪島建設協同組合
刀禰芳昭さん(74)
「復興にはシンボルがいりますよね。風車が大きな輪島のシンボルになってほしい」
そして、五島市の風車の下では思わぬ発見も。
風車の柱の周りには、たくさんの魚が集まっていました。“漁礁”のような役割を果たしているといいます。泥と磯焼けで不安が広がる輪島の漁師たちにとって、明るいニュースです。
県漁協輪島支所
山本伸治さん
「これに魚がつくと、うちらにしては楽しみ」
県漁協輪島支所
中村勝成運営委員長
「こんな風力で何か活気をとり戻されて、ものすごいこれに対して期待をしています」
■“復興へ”漁師の本音は
一方、洋上風力という巨大な建造物が海にできる事に対し、不安の声もあります。今も仮設暮らしが続く漁師の橋本さん。
漁師歴32年の橋本拓栄さん
「漁師って海が仕事場じゃないですか。漁場を狭めて、航路も遠回りしながら行かなければならなかったりするもんで」
しかし、今は何かを変えなければならないと感じています。
漁師歴32年の橋本拓栄さん
「今の輪島の状況から見ると、浮体式洋上風力は良いことなのかなと思います。やっぱり人口がこれだけ減っちゃうと、なかなか元に戻すのも大変なもんで、それが起爆剤になれば外からも入ってきてくれる方もいるのかなと」
輪島建設協同組合
刀禰芳昭さん(74)
「漁業者あっての洋上風力と考えています。何か新しいことをしなければだめだと。我々も新しい事を、漁協も新しい事を。その新しい事が風力で結びついた。将来にわたって輪島が生きていくために非常に必要なもの」