激痛「アニサキス」に異変“食中毒タイプ”が日本海側で増加 温暖化で生息域に変化か
社会|
04/20 23:30
20日、関東各地で25℃超えの夏日となりました。暑くなると食中毒の発生が増えますが、これまで比較的安全とされていた日本海側のサバをめぐり、アニサキスの食中毒リスクが高まったことが内閣府の調査で分かりました。ここでも、地球温暖化の可能性が。
■アニサキスに異変温暖化が影響?
薄着の人たちが目立つ東京都心。20日、朝から気温が高く、日中は東北から四国にかけて25℃以上の夏日となりました。都内でも4日連続の夏日を観測するなど、季節先どりの暑さが続いています。
気温の上昇と共に高まるのが“食中毒のリスク”です。福岡では…
「ゴマサバになります!」
福岡県の郷土料理『ゴマサバ』。生のサバに、甘いゴマダレの組み合わせが舌を唸らせます。
Q.ゴマサバはよく食べる?
(ゴマサバを注文した客)「美味しいので、福岡のソウルフードで食べています」
■“生食文化”に懸念激痛に「死ぬかも」
“サバを生で食べる文化”が根付いている福岡県。しかし今、その“生食文化”に、ある懸念が…
(福岡県・生活衛生課
友枝哲宏課長)「ここ数年、急増しておりまして。アニサキス(食中毒)の割合が増加をしてきているという状況ですね」
サバなどに寄生する「アニサキス」が体内に入ることで、激しい腹痛などを起こす「アニサキス食中毒」。福岡県ではその件数が急増しているというのです。
(アニサキス食中毒になったAさん)「死ぬんじゃないかなって一瞬考えたりとか、それぐらい痛かったんですよ、お腹が」
こう話すのは、今月「アニサキス食中毒」にかかったAさん。
(アニサキス食中毒になったAさん)「最初は本当に胃に何か刺さったかのような痛みから始まりまして、それから次第に首の後ろだったりとか、手の甲とか二の腕、しまいには太ももだったりに蕁麻疹が起きまして…」
■日本海側でも…“食中毒タイプ”増加
これはサバに寄生したアニサキスの映像です。特殊なライトを当てると…浮かぶ無数のアニサキス。この一匹のサバに、100以上確認できたと言います。このアニサキス、これまでは日本海側のタイプは食中毒になりにくく、太平洋側のタイプは、なりやすいとされてきました。しかし先月、内閣府は日本海側にも、食中毒になりやすい“太平洋タイプ”のアニサキスが増えていると発表したのです。
(国立感染症研究所
杉山広・客員研究員)「日本海や東シナ海のサバ(に寄生するアニサキス)は、筋肉に入らなくて内臓に留まるので、臓器と一緒に廃棄されるからアニサキス食中毒は起こらないと。調べていくと、日本海側のやつでも(食中毒になりやすい)S型がいるんだということがわかってきて、単純に日本海側のものだけは(生で)食べて大丈夫だっていうことはないから、注意が必要だと」
アニサキス食中毒の件数をみると、全国的に増えた2018年、福岡県はそれ程の増加はありませんでした。しかし2022年には、前年の5倍近くに急上昇。全国の増加率をはるかに上回ったのです。こうした現状に、福岡県民は…
(福岡県民)「東京の友達が来たら、福岡の食べ物が美味しいお店に行くけど、やっぱりゴマサバもそのうちの一つなんで」
「ちょっと心配ですね。福岡の名産というか、せっかく美味しいものが…」
福岡県は予防として、冷凍や加熱処理が効果があるとする一方…
(福岡県・生活衛生課
友枝哲宏課長)「魚を生で食べること自体が危険ということではありませんので、アニサキスに十分注意をしてですね、食生活を楽しんでいただければ」
■こだわり“生サバ”ライト照らし対策
“生のサバ”にこだわる店がありました。
毎朝、市場から仕入れた新鮮な魚を使い、刺身や海鮮丼などを提供しています。特に人気の「ゴマサバ」は“生しか使わない”という徹底ぶり…
(古賀鮮魚店
古賀和秀社長)「脂がのっているときの舌触り、質感とかそういったものが、冷凍するよりも、生で提供した方が美味しいと思いますね」
“アニサキス対策”も徹底していました。
(古賀鮮魚店
古賀和秀社長)「一つ一つの工程で包丁をかえたりとか、こういったダスターをかえたりしている。」
アニサキスを見やすくするため、こんな道具も…
(古賀鮮魚店
古賀和秀社長)「黒いまな板の上でもう一回、再確認。こういうライトを照らしてですね、もう一度ここでも確認をします」
美味しいサバを提供するため、労力はいとわないという料理店。さらに…
■アニサキス“100%死滅”装置とは?
いま注目されている“アニサキス対策”があります。水の中をうごめくアニサキス、次の瞬間…痙攣したかと思うと、動かなくなりました。アニサキスを一瞬にして死滅させる、この技術。実用化に向けた開発が進んでいます。
(熊本大学
産業ナノマテリアル研究所
波平隆男・准教授)「それでは、パルス処理を始めます」
「こちらの装置はパルスを印加することによって、魚の中のアニサキスを殺虫することができる装置となっております」
冷凍や加熱処理をしなくても、ほぼ100%アニサキスを死滅できる、画期的な技術。
(波平隆男・准教授)「(パルス処理した魚を)これまで累計1000人くらいの方々に食べてもらっているんですが、味はほとんど変わらないという評価になっております」
現在は、飲食店などへの導入に向け、小型化・低コスト化が進められています。
(波平隆男・准教授)「こういったものをスーパーマーケットや寿司店、そういったところに導入していただくことによって、早く社会実装ができればと考えています」
■「海水温上昇」で生息域が変化か
ではなぜ、日本海側に“食中毒が発症しやすいアニサキス”が増えたのでしょうか?
アニサキスは、クジラやイルカなどの体内で成虫になります。その卵が便と一緒に海中に排出され、オキアミが捕食。それをサバなどが食べて、アニサキスが寄生するのです。
専門家は、原因は調査中としながら、こう推測します。
(国立感染症研究所
杉山広・客員研究員)「海水温の上昇とか海流の流路の変更がある。サバはいろいろと回遊するので、それをクジラが追いかけていく、(海水が)熱くなっていって(サバやクジラが)上に上がっていっているんだけど、その中で下にも下がって(南下して)くるから、そういう時に(食中毒になりやすい)S型が増えていっている」
4月20日『有働Times』より