【わざわざ行きたい店】出会った情景がよみがえる一杯!香りにこだわる3つのクラフトビール「PROUST」!瓦屋が営む醸造所『FUKUHAKU BREWERY』(福岡・宮若市)【まち歩き】

福岡県宮若市上大隈。屋根瓦が積まれた敷地の一角に、ガラス越しに醸造タンクの並ぶタップルームがあります。『FUKUHAKU BREWERY』は、創業57年の瓦屋さんが営むクラフトビールの醸造所です。グラスに鼻を近づけると、オレンジのような、松のような香りが立ちのぼってきます。この香りが、いつか今日を思い出すきっかけになるかもしれない。そんなビールをつくっている場所です。

■瓦屋の片隅で、ビールをつくる

「今も瓦屋なんです。今も瓦工事の仕事をしていて、その片隅でビールをつくっている」

そう話すのは、有限会社福博瓦工業の3代目・関岡寛さん。祖父が始めた瓦屋を2020年に継ぎました。本業は忙しく続いていますが、社長になる前から、瓦とはまったく別の分野にもうひとつ柱を持ちたいと考えていたといいます。

「コロナで飲食店さんが大打撃を受けたように、どうしようもない周りの環境の変化で、大変になる事業もあるんだなと。まったく別の分野で、柱をひとつ持っておきたいと思ったんです」

ちょうどそのころ、自社の土地に建つ工場が空きました。食品会社に貸し、こんにゃくがつくられていた建物です。関岡さんはもともとクラフトビールが好きでした。「ここで、つくれるんじゃないか」。それが始まりです。

醸造は、複数のブルワリーで手伝いをさせてもらいながら学び、クラフトビールの開業を支援する会社に教わりながら準備を進めました。醸造の許可を得るまでには、どう売っていくのかを一つひとつ示しながら、準備を重ねたそうです。思い立ってから開業まで、3年近くかかりました。いまは関岡さんともう一人、二人でビールをつくっています。



■「プルースト」という名前に込めたもの

ビールのブランド名は「PROUST(プルースト)」。ある香りを嗅いだとき、以前その香りに出会った情景がよみがえる「プルースト効果」からとりました。

「ビールの香りを嗅いで飲むときに、前に飲んだときの記憶とか、誰と一緒に飲んでどんな話をしたかとか。そういうのが思い出されるようなビールをつくりたいなと」

関岡さんがクラフトビールに惹かれたのも、香りでした。一時期、広島で暮らし、地元に戻ってきた経験があります。

「地元に帰ったときの、この土地の香りとか、季節の香りとか。そういう感覚を持ったことが何度もあったので」

ラベルはデザイナーと一緒に考え、デザイナー自身が飲んだときの印象も重ねてつくりました。3種類とも青を基調に、それぞれの味のイメージを描いています。

宮若市の名前を前に出す道もありました。けれど関岡さんは、別の道を選びました。

「自分たちがもっと有名になって、宮若市に恩返しができればなと。そっちのほうが地域にとってはいいんじゃないかという考えもありました」

■3つのグラスで、香りをくらべる

初めて訪れるなら、3種類を少しずつ味わえる「飲み比べセット」(税込1,100円)がおすすめです。グラスを並べると、色の違いもよくわかります。

・セゾン(アルコール5.5%)
3つの中でいちばん軽やか。もともとは農作業の合間の水分補給として飲まれていたスタイルだそうです。フルーティーで、すっと喉を通ります。
「私が最初に飲んだクラフトビールがセゾンで。それを再現したいなと思ってつくったビールです」

・NEIPA(アルコール7%)
濁りのあるビール。3種の中でホップをいちばんたっぷり使い、少し甘みがあります。グラスからはオレンジのような柑橘の香り。けれど柑橘は入っていません。ホップの成分が、柑橘に似た香りを生んでいるのだそうです。

・ウエストコーストIPA(アルコール7%)
苦味がしっかり。5種類のホップを使い、柑橘系の香りの奥に、松のような香りがのぞきます。

3種類を選んだのは、好みだけでなく料理との相性も考えてのこと。セゾンは魚料理に、ウエストコーストIPAは肉料理に。いちばん個性の強いNEIPAは、それだけでも楽しめるビールで、チーズやナッツ、乾き物のようなシンプルなつまみが合うといいます。

3種類のPROUSTは、2026年2月に開かれた品評会「ジャパン・グレートビア・アワーズ2026」(主催:クラフトビア・アソシエーション〈日本地ビール協会〉)で、そろって入賞しています。セゾンが銀賞、NEIPAとウエストコーストIPAが銅賞。セゾンは、もう一つの品評会「インターナショナル・ビアカップ」でも銅賞を受けたといいます。

一緒に頼みたいのは、ソーセージ屋さんに手づくりしてもらっている「手作りハーブソーセージ」(1本 税込550円)。今回はそのソーセージをパンに挟んだ「ホットドッグ」(税込1,000円)を注文しました。噛んだ瞬間、皮がパリッと弾けて、中からハーブの爽やかな香りがふわっと広がります。後味は軽やかで、ビールにもパンにも合います。シンプルなのに、ひと口ごとに香りの余韻が◎。

■瓦屋らしさが息づく、家のようなタップルーム

タップルームの内装は、瓦屋らしさを意識して設計されています。木を使ったところや、木造の家を思わせるレジカウンターがそうです。落ち着いた空間で、ガラスの向こうにはタンクが並んでいます。

営業は昼が中心。お客さんの多くは車で30分圏内から訪れる地元の人で、遠方から来る人もいます。車で訪れる人が多く、運転する人と飲む人で分かれて来る、という過ごし方が多いそうです。


■20歳になった子へ贈る、イチジクのビール

いま関岡さんが取り組んでいるのが、宮若市で育ったイチジク「とよみつひめ」を使った新作「HANAMUKE FIG BLONDE」です。ベースはベルジャンブロンドというスタイルのブロンドエール。約300リットルのタンクに、30キロ近いイチジクを入れて仕込みます。

イチジクは、それ自体の香りが弱い果物。香りにこだわる関岡さんにとっても、イチジクらしさをどう引き出すかは簡単ではないといいます。

「なんとか、イチジクっぽさを出したビールをつくりたいなと」

コンセプトは「20歳になった子どもに向けたビール」。きっかけは、イチジクが「花のない果物=無花果」という漢字表記でした。

「イチジクって花は見えないんですけど、本当は実の中にたくさんあるらしいんですよ。お子さんの成長ともすごく親和性がある。親から見える部分は本当にもう少しで、見えない部分が多くて、人は大人になって、お酒を飲めるような年になる」

アルコール度数は6%以上ありながら、飲みやすさを目指しています。初めて20歳になって飲むビールとして、Makuakeでのクラウドファンディングで10月末~11月頭に開始予定です。

20歳の日に飲んだ一杯の香りが、何十年か先に、その日のことを思い出させてくれるかもしれません。

■何十年後かに、思い出すビールを

「簡単に来られる場所じゃないと思っているので。ここに来る価値がある、ここで飲む価値があるビールを提供できるブルワリーになりたいと思っています」

いちばん伝えたいことをたずねると、関岡さんは迷わず「香りですね」と答えました。

「一度試してもらいたい。香りを嗅いで、また来てもらいたい。何回も来てもらうことに意味がある、そういうビールにしていきたいです」

そして、少し先の話をしてくれました。

「最初に飲んで、何十年か経ってからまた飲んでもらって、若いころを思い出す。そういうビールにしたいんです」

瓦の積まれた敷地、ガラス越しにタンクの見えるカウンター。3つのグラスを並べて、ひとつずつ香りを確かめる。誰と来て、どんな話をしたのか。その一杯の香りは、きっといつか、今日のことを連れて帰ってきてくれます。ハンドルを握る人と飲む人を決めて、宮若の醸造所まで出かけてみませんか。

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■『FUKUHAKU BREWERY(フクハク ブルワリー)』
住所:福岡県宮若市上大隈2-1(福博瓦工業の敷地内)
電話:070-9365-6407
営業時間:11:00〜18:00(LO.17:45)
定休日:月・火・水曜
Instagram:@fukuhakubrewery
https://www.instagram.com/fukuhakubrewery/
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※情報は2026年9月取材時のものです。記載の内容は変更する場合があります。最新情報は公式Instagram等でご確認ください。

■ FUKUHAKU BREWERY(フクハク ブルワリー)

住所:福岡県宮若市上大隈2-1(福博瓦工業の敷地内)
Instagram:@fukuhakubrewery

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